プロダクト開発における「ユーザー中心」の思考回路ができるまでの振り返り
こんにちは。2024/7/1より弁護士ドットコム株式会社 クラウドサイン事業本部 Reliability Engineering部CREチームに転職しました。ということでユーザーととても近いところで働いているCREとして、過去の経験から自分がどうしてこの仕事についたのかを振り返るために、思考を整理してみました。
CREとは?
CREはCustomer Reliability Engineerの略で聞き慣れない名称かもしれません。簡単に言うと、「顧客にプロダクトを信頼してもらう」ことに責任を持つチームです。
プロダクトの最終目的はユーザーに使ってもらい、使い続けてもらうことで、顧客が抱える課題を解決し、顧客の事業が成長したり、生活が良くなることです。その状態をカスタマーサクセス(顧客の成功)と言います。
よくチーム名として使われますが、私は、カスタマーサクセスを役割ではなく「目的」だと考えています。「顧客に成功し続けてもらうためにどうすればいいか」は、CSチームはもちろん、開発、運用、サポート、スクラムマスターに至るまで、そのプロダクトに関わるすべての人が深く考えなければならない重要課題です。顧客は「成功」するためにお金を払ってくれているからです。
CREは、「顧客に成功し続けてもらうためのエンジニアリングによる支援」を社内外で行い、その結果組織全体で「顧客からの信頼性」を維持・向上することに責任を持つチームであると、考えています。
全員がユーザー中心の思考を持つのは難しい
例えばエンジニアはコードを書きたい、インフラを管理したい、など自分の専門性を活かせる領域で成果を出したいという気持ちで、その先の「ユーザーがどう嬉しくなるか」までを深く追求することは、結構難しかったりします。
私は弁護士ドットコムに入社する前は、自治体向けのビジネスチャット等のプロダクトを提供しており、プロダクト立ち上げの初期から携わっていました。幅広い業務内容でしたが、主にサポートエンジニアやスクラムのプロダクトオーナーなどユーザーを深く深く考えるポジションにおり、とにかくユーザーの視点を重要視していました。
というか、ユーザーと接する日々の中でユーザーが何にどれだけ困っててどれだけ助かっているかを知る機会が多かったのでユーザーの視点が芽生えました。
キャリアの中では現在は5社目で、改めてCREというユーザーを中心に考え、動いていくチームに入ったので、どのように自分は、ユーザー中心の思考回路が生まれたのか、をこの記事の中で整理してみます。
大前提「自分が提供しているプロダクトで、自分が一番のファンになる」
この考え方はとても大事だと思っていて、そもそもプロダクトに愛がないと、ユーザーのことは考えられません。逆にこれに尽きるかなとは前から思っていました。
まずは自分がユーザーの立場でそのプロダクトを使います。私はクラウドサインを何年も前からユーザーの立場で使っていて、「もしこれが紙とハンコだったら面倒だな…本当に素晴らしいプロダクトだな」というのをずっと感じていました。プロダクトを愛していたからこそ、今回のクラウドサインに携わろうと思いました。
自分がユーザーになると色々と見えてきます。これらが見えてくると自分の提供するサービスでこんなに人々は幸せになっているんだなという「貢献」を実感できます。
自分が提供するプロダクトで、顧客がどのように成功するか?
顧客が成功した状態とはなんだろう?
顧客は何を課題と思っているのか?
顧客が成功してくれたら、顧客のビジネスや生活はどのように変わるのだろうか?
プロダクトは「たくさん使ってもらっている」ことよりも、「どれだけ価値や成果を提供できたか」のほうがずっと重要であり、自分がそのプロダクトのファンになるには、「価値」を深く理解する必要があります。急にファンになってください!と言われてもいきなりなれるものではないので。
※過去の研究でも、「他者貢献できる仕事は満足度が高い」みたいな結果も出ています。
自分が一番のファンになることで得られるメリット
この考え方ができてくるとたくさんのメリットが出てきます。
とにかく主体性、オーナーシップが生まれる
前回の記事で主体性について深く考えてみたのですが、主体性というのはプロダクト愛がないと生まれないと思っています。
ユーザーにとって何が必要で何を提供してどう行動していくかの解像度が上がり、その結果ユーザーのために必要な行動を次々にできるようになる=主体性が生まれると思っています
オーナーシップが生まれると「自分は〇〇だから」と役割に縛られた考え方がなくなります。
プロダクトの良さを伝えられる
自分が良いと思っているものじゃないと人に良さを伝えられません。
心から良いと思っているものは熱意が伝わります。
プロダクト改善の良いライフサイクルが生まれる
自分がプロダクトのファンだからこそ、ここを改善してほしいという気持ちも強まる
ユーザーの課題に強い共感を示すことの重要性
ユーザーが感じている【課題】に「自分も深く共感」することがとても重要だと思っています。つまり、「顧客の課題を自分の課題として捉える」姿勢です。
自分の経歴を振り返ってみると、過去の経歴の中では、郵送したり、チャットがなくて電話がメインだったり、情報共有が「回覧板」だったり、アナログ文化な会社にいたこともあるので、それが「課題への強い共感」になったから、当時は辛かったけれど良い経験になったなと今は思っています。
その結果以下のようなマインドになりました。
「自分の携わるサービスで多くの人に幸せになってもらいたい」
「一人でも多くの人にサービスの良さを伝え、価値を感じていただきたい」
「仕事を減らすこと」もしくは「楽にしてあげること」を考えてプロダクトを提供したい
その結果、無駄な作業が減り生産的で創造的な仕事が増えて世の中が良くなってほしい
どのようにしてユーザー視点の思考回路ができたのだろう・・・
自己分析をすると、上記の「課題への共感」が一番ユーザー視点の思考回路が生まれたきっかけになったなと思っています。さらにユーザーのことをみんなが考える素晴らしい環境にいたことも大きかったです。
前職ではユーザーとの距離が近かったことから、細かなことまでたくさんの意見、質問等をいただいており、その結果、ユーザーがどういった気持ちでこのプロダクトを使っているか、を考えることが毎日のようにありました。不具合も人が作る以上、ありましたが、不具合があるからこそユーザーが何に困ってて何を解決したくてどうこのサービスを使っているか?みたいなことも想像することが本当に多かったです。前職では多くのユーザー(自治体さん)に使っていただき、ご意見いただき、会話していただき、そしてそれを解決するために周りのメンバーに助けていただき、本当に感謝の気持がいっぱいです。
他には以下がありますが、いずれも「役割に縛られない」ことが前提としてあり、他チームの動きややっていることを積極的に見ていました。
CSがユーザーに説明するための資料やマニュアルを熟読する、自分でも資料を作ってみる。資料に改善点があれば、すぐに提案する。
CSとの会話でユーザーが困っていることを深く知る。
ユーザーと直接、積極的にやりとりをする。
ユーザーに積極的に改善を伝えていく。
仕様検討をしてみる。
ユーザーのお困りごとに共感するために、自分もそのお困り事を体感してみる。
問い合わせがあったら「それはこうだ」と決めつけずに必ず自分でも同じ操作をして再現確認する
副業で自分が受注して自分で作った農場のオンラインショップのプロダクトがある。
会社ではなく個人で制作を受注して、農場の方と協力して作りました。全国の多くの方に農場直送の「美味しい野菜」という価値を届ける一連の流れを経験しました。
この先やってみたいこと
今回の記事ではユーザー視点の思考回路が生まれたことを自分の中で整理してみました。今後は、Customer Reliability Engineeringとはなんなのか?を言語化し、行動に落とし込み、具体的な成果や、文化を社内外に発信していけたらと思っています。クラウドサインは多くのユーザーがいて日々多くの課題に向き合います。
顧客からの信頼は、顧客に成功し続けてもらわなければ得られません。信頼のために、CREはとても重要な仕事を担っています。まだ世の中に浸透していない「CRE」というのを、今後明確にしていきたいと思っています。
CREチームの役割や業務内容には以下があります。CREは数あるエンジニアの中でもユーザーのことを考える機会が多く、今日書いたこと(役割に縛られないなど)は当たり前のように日々意識しなければならないと思っており、言語化したらまた記事を書いていきます!
■役割
・顧客やビジネス部門で生じた課題をエンジニアリングにより解決し、顧客のクラウドサインに対する信頼性を向上させる
・顧客にまつわる課題の真因を特定し、根絶させる。技術の知見を用いて一つひとつ具体的に解決する
■業務内容
・顧客やビジネス部門が抱える技術課題の解消・解消支援
・業務遂行過程で発見されたプロダクトの技術課題に関するプロダクト部内でのフィードバック
最後に
カスタマーサクセスを目的と捉える、プロダクト愛を持つ、顧客の課題を自分の課題と思う共感、がユーザー中心の思考回路を生み出す基盤になりました。
これからも顧客の成功と、信頼性のためにどうすればいいかを、チームで協力しながら考えていきたいと思っています。
【参考】クラウドサインのCREとは?