両親にさよなら
親というのは、強い薬のようだと思う。
病気によく効く特効薬でもあり、
時には死に至らしめる劇薬になる。
ずっと毒性しか示さない親もいるらしい。
私の親は、いわゆる“ 立派な親 ”だと思う。
まず性格が良いし、頭が良く学歴もある。
共働きで年間1300万ほど稼ぐ経済力もある。
見た目もごく普通で、優しいオーラがある。
夫婦仲がとても良く、喧嘩はおろか、互いに愚痴を言い合ったりするところを一度も見たことがない。
私自身の幼少期を振り返ると、暴力を受けたり、人格否定する言葉を浴びせられたことは無い。(めちゃくちゃ危険なことをして一発叩かれたり、やった行為の卑劣さを非難されたりすることはあったが、それはしつけの範疇であったと私は思っている。)
成長する過程で、多くの語彙を浴びせてもらい、たくさん習い事をさせてもらい、本を読む習慣・勉強する習慣・考える習慣をつけさせてもらい、中・高の部活にかかるお金を快く出してくれ、奨学金を借りずに済むようにと学費も全て払ってくれた。
また、4つ下の妹は、小さい頃は行動が遅く自己主張も苦手で、要領が悪めの子だったようだが、両親は何でも器用にこなす私と妹を決して比べたりしなかった。
妹は、今では遠くの国立大の理系学部に進学し、日夜実習や部活に励んでいる。
妹の頑張りはもちろんであるが、急かさずに見守った両親の功績でもあると思う。
両親はいつも子どもたちの味方だった。
死にたくなるような世界で、笑顔で生きていけるように、様々なことを与えてくれた。
未熟だった私を認め、引っ張り上げ、時には突き放し、陰になり日向になり、懸命に支えてくれた。
この両親のもとに生まれて良かった。
でも、だから、
さよならしなければならないと思う。
どうしたって、
私は両親にとって特別で、
両親も私にとって特別だ。
だからこそ、
失敗してほしくない
傷ついてほしくない
貧乏になってほしくない
逃げるようなひとになってほしくない
落ちこぼれてほしくない
恥をかいてほしくない
勝ち続けてほしい
そんな愛ゆえの重荷が、確かにあるから。
両親はきっと重荷になっているつもりはない。「もう大人なんだから、自分で決めなさい」と言葉では言ってくれる。
でも、私はその言葉や表情の奥に潜む、小さな意図や疑念を感じ取ってしまう質だから、両親の望む選択をしたくなってしまう。
(もしくは、決死の覚悟で両親に逆行し、精神を擦り減らさなければならない。新卒で仕事を辞めた時はそうだった。)
あのね、お父さんお母さん。
私の、未来の人生は、
失敗して、
傷ついて、傷つけもして、
たまに貧乏になって、
つらかったら逃げ回って、
落ちこぼれて、
それなりに恥をかいて、
何回も負けて、
それでね、
「めっちゃやばいなあ、おもろいなあ」って
のんきに笑っていられるような、
そんな幸せを目指したいんだ。
お父さん、「そんなんじゃ駄目だ」って怒ると思うけど、もう私は気づいちゃったんだよ。
親だって、所詮一人の人間だって。
神様ではないって。
私のことを、
一番わかってくれるのは両親じゃない。
私だ。
“ 私が ”幸せに生きられる方法を一番知っているのは、お父さんでもお母さんでもない。
私だよ。
だから、私は、私が幸せになる道を、自らの手で、責任をもって選ばなければならない。
そして、そんなふうに、賢しく生意気にも、自分の頭でしっかり考えて、判断して、行動できる“ 私 ”をつくってくれたのは、生んで育ててくれたあなたたち両親だ。
感謝してもしきれない。
親が、愛情と厳しさを持って、しっかりした子に育てたゆえに、子に別れを告げられる。
このことを皮肉だとは思わない。
なぜなら、両親が本当に望んでいることは、
私が幸せになることだから。
本当は、たったそれだけで良いんだよね。
ちゃんと伝わってるよ。
だから行くね。
親という強い薬を摂取しなくても
もうちゃんと生きられるよ。
お父さん、お母さん、
24年間ありがとう。
あなたたちの作り上げた家庭に負けない、
あたたかい家庭を新たに築くね。
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