#278「ビジネス頭の体操」 今週前半のケーススタディ(4月19日〜4月21日分)
はたらくおとな向け。普段の仕事と無関係なケーススタティで頭の体操。
その日にちなんだ過去の事象をビジネス視点で掘り下げています。
普段の仕事を超えて、視野を広げ、ビジネスの頭の体操をするのにぴったり。
考えるための豊富な一次情報やデータもご紹介。
→部分は、頭の体操する上での自分に対する質問例、です。
4月19日(月) 地図大手2社の明暗を分けたのは、やっぱりアレ。
寛政12(1800)年旧暦閏4月19日、伊能忠敬が蝦夷地の測量に出発した「地図の日(最初の一歩の日)」です。
地図。
そういえば、当たり前にカーナビがある世の中ですが、昔は、車に1冊道路地図があったものです。紙の。旅行に行く前にはじっくりとルートを検討するのが好きでした。現在では、カーナビやスマホなどがその代替なのでしょうが、そういった地図市場、どのくらいの規模があるのでしょうか?
矢野経済研究所によると国内の位置情報、地図情報活用ビジネスの市場規模は2020年度1,527億円と予測されています。
またこの市場は成長が見込まれ、2025年度には1,905億円の規模になると予測されています(下図)。
この市場は地図だけでなく、位置情報も含めた関連市場です。
今回のテーマ「地図」に絞って見るために、懐かしの(紙の)道路地図の地図大手2社の業績を両社の決算資料で見てみました。
1社は「スーパーマップル」の昭文社、もう1社は「スーパーゼンリン」のゼンリン(今思えば、なぜスーパー?)です。
両社、明暗がはっきりと分かれていることに驚きました。
まず、両社の2020年3月期の決算がこちら。
<昭文社>
つまり、以下の通りすごい差があります。
☑️ 昭文社 売上高 80.5億円 経常利益 0.1億円
☑️ ゼンリン 売上高597.7億円 経常利益37.1億円
もちろん、事業構成も違いますので、単純に比較できません。
2016年3月期決算との比較で成長の度合いを見てみましょう。
(※ゼンリンは16/3の数値は20/3の資料に載っています)
つまり、2016年3月期の両者の数字は以下の通りです。
☑️ 昭文社 売上高130.0億円 経常利益 3.6億円
☑️ ゼンリン 売上高549.7億円 経常利益34.2億円
昭文社はこの4年で売上高を38%減らし、ゼンリンは8%増やしています。やはり明暗が分かれているようです。
この原因ですが、両社の事業構成の違いです。
☑️ 昭文社は出版物が55%、電子が25%
☑️ ゼンリンは地図データベースが84%、一般印刷が6%
つまり出版物中心の昭文社は書籍市場の低迷を受け業績が低迷、ゼンリンは地図データベースで稼ぐモデルを確立して成長、ということです。
と、あとからみればその通りなのですが、昭文社の過去の決算資料を見ていて、もう少し深い原因がわかった気がしましたのでご紹介します。
それは2012年の昭文社の決算資料の以下の部分です。
2012年時点で、「カーナビ」や「スマートフォン」という説明がなされています。つまり、デジタル化、スマホ化には気づいていたのです。実際、2012年時点の電子事業の売上は35億円と今の20億円の1.75倍の売上があることが分かります。
一体どこで、何があったのでしょう?
実は昭文社は「まっぷる」という情報雑誌(観光地など別にお店などの情報を載せたガイドブックのようなもの)事業があり1つの柱でした。カーナビやスマホに、その「まっぷる」の店舗や観光案内情報を提供していたのです。地図データではありません。
お気づきの通り、こうした店舗情報や観光案内情報は、Googleやクチコミサイトが伸びたことで、カーナビメーカーもわざわざコストを割いて載せる情報ではなくなります。つまり、自社の強みをそのまま電子化して提供しようとしたところ、そちらではタダで提供するライバルが出現して売り上げが減少してしまったのです。
一方のゼンリンは昔から住宅地図に強みを持っていました。私も銀行員時代の営業では愛用していましたが、一軒一軒の家の形、敷地の形まで詳細に分かるのです。加えて、表札まで確認しているので間違いなく顧客を訪問できるのです。これは地道に社員が足で確認した、ゼンリン独自の情報です。
結果、カーナビの位置情報が精緻化すればするほどより詳細な情報が必要となるニーズにゼンリンしか応えられない、という状況になり売り上げが伸びる循環を築けたと言えます。
自らの強みを活用することは基本中の基本ですが、今の時代、全く違う領域から突然ライバルが出現し、強みでなくなる可能性がある、と、よく言われることの1つの実例、と言えるかもしれません。
→昭文社が復活するにはどのような方法が考えられるだろうか?
4月20日(火) 青年海外協力隊の「青年」は20歳から○○歳まで!?
1965年のこの日、青年海外協力隊(JOCV)が発足した「青年海外協力隊の日」です。青年海外協力隊では、アジア・アフリカ・中南米を中心とする発展途上国の国作りを支援する為に多くの人がボランティアとして活躍している。
青年海外協力隊。
調べてみたらJICA(独立行政法人国際協力機構)が行っている事業の1つでした。
まず、全体像から見てみましょう。
日本が海外に対して行っている経済協力や政府開発援助は以下のようになっています(JICA国際協力機構年次報告書2020)。
この中でJICAは二国間支援の中核を担う機関で以下のような事業を展開しています(出典:同)。青年海外協力隊は一番下の「市民参加協力」に分類されています。
全体像が分かったところで資金面も確認します。
JICAの2019年度事業規模は1兆7,839億円、と大変大規模です(下図:出典同)。
この内訳が以下の通りなのですが、青年海外協力隊/海外協力隊派遣は82億円となっています(下図:出典同)。
では、いよいよ青年海外協力隊について見てみましょう。
以下が定義(?)です(出典:JICA海外協力隊事業概要)。
「青年海外協力隊」、というのは、「海外協力隊」の、「一般案件」の「20〜45歳の方」を言うんですね。
活動の内容は以下の9つの分野があるそうです(出典:同)。
活躍されている方の数の推移は以下の通りです(JICA国際協力機構年次報告書2020)。2010年には1,459人だったのですが、年々減少し2019年には999人となっています。
派遣される地域、それから職種は以下の通りです(出典:同)。
ずいぶん昔から「青年海外協力隊」という言葉は知っていましたが知らないことばかりでした。
最後に、JICAの広報誌「mundi」(ラテン語で「世界」)がなかなか充実した内容だったのでご紹介します。
→こうした地道な活動が日本への信頼に貢献していることも多いにあるだろう。一方で、あまり国内では知られていない(私だけかもしれないが)。分断が進む今こそ重要な取り組みと思えるがどのようにすればより良い形で国民の協力、理解、認知が進むだろうか?
4月21日(水) ラジオは斜陽メディア?成長メディア?
ラジオ16社に民放初の予備免許が与えられた1951年4月21日を記念した「民放の日」です。同年9月1日に名古屋の中部日本放送(現・CBCラジオ)と大阪の新日本放送(現・毎日放送)が本放送を開始したのを皮切りに、全国で次々と民放ラジオが開局しました。
ラジオ。
在宅勤務が多くなったことで、利用が多くなっているようです。
国内ネットラジオ最大手「radiko」の月間利用者数が2020年3月に急激に増加し、1,000万人に迫ったそうです(下図:radiko)。
ということで明るい業界かと思いきや、ラジオ広告費は2001年に2,000億円だったものが、2019年には1,260億円と4割近く減っているのです(下図:電通「日本の広告費」)。
帝国データバンクが2020年10月時点に2015年度から2019年度決算の収入高が判明したラジオ放送事業者231社を抽出、分析したデータを公開しています。
それによると、2017年度以降、3期連続で減少し、2019年の収入高合計は1,136億円(前年度比2.3%減)となっています(下図)。
しかも、231社のうち、収入高が1億円未満がなんと153社(66.2%)となっています(下図)。
ラジオ放送事業者の収入高上位5位は以下の通りです(下図)。
このように厳しいラジオ業界ですが、先程の広告費の推移を見てわかるように、実は2011年ごろから減少率が止まり、横ばいになっています。
この要因には2010年にサービスを開始したradikoがあると言われています。アプリのダウンロード数は2,000万、月350円のプレミアム会員は100万人に近づく勢いです。
有料会員からの収入だけでも40億円を超える売上がありますが、さらに聴取ログや、アンケートデータ、アプリ利用履歴、会員データなどにより、ターゲティング広告を行うモデル(ラジコオーディオアド)を試行しています(出典:日本民間放送連盟「ラジオの放送・通信連携への取り組み」)。
もともとはラジオの衰退に危機感を覚えた電通とラジオ各局が立ち上げた会社で株主にはラジオ局がずらっと並んでいます。
これまでYouTubeなどの動画コンテンツ市場が賑やかでしたが、音声コンテンツでも一定の市場が作れるか、注目です。
→ラジオ、そのままであれば衰退一辺倒だった市場が、コンテンツはそのままで、ネットで聴けるプラットフォームを作ったことで視聴者を(少なくとも広告費を)維持することができた。他の広告メディアとラジオの違いはどんなところがあり、今後どのような市場として成長できるだろうか?
最後までお読みいただきありがとうございました。
「地図」は大手2社の対応が勉強になりました。まさにケーススタディですね。
「青年海外協力隊」は言葉だけはだいぶ昔から知っていましたがそういうことなんですね。
「ラジオ」はすでに第二の創業期というかビジネスモデルの転換期にあるような気がしますね。今後に注目です。
昨年7月から続けております。溜まってきました。
以下のマガジンにまとめてありますのでよろしければ。
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