マガジンのカバー画像

小説の集い。

19
ゾッとするほどつまらない短い物語の集まりです。内容がだいぶカオスな話もありますが、ご容赦ください。
運営しているクリエイター

記事一覧

一期一会のヘラクレスオオカブト (超短編小説)

私は近所の田舎道を散歩中、とある意外なものと遭遇した。 それは、かの有名な「ヘラクレスオオカブト」である。金色の羽を携えた、カブトムシよりも大きな、あの「ヘラクレスオオカブト」である。 まさか日本で、しかも田舎の道端でお目にかかれるとは。感動のあまり、私はとりあえずひれ伏した。 ひれ伏しながら、何度も何度も呆れるくらい何度も「わっ、すげ〜〜〜!」と叫んだ。 「嘘付け!そんなことあるわけねぇだろうが!!」と読者の皆様は思うに違いない。 こんな非現実的な話を聞いて疑問に

読書感想文に抗う吉田君。 (短編小説)

読書感想文という悪しき慣習について 4年2組  吉田吉男 私は読書感想文が大嫌いである。 この一言に尽きる。どう足掻いたところで大嫌いである。 何故、読書感想文などというはた迷惑な宿題が、夏休みという名の楽園に降り注ぐのであろうか。実に愚かである。 毎夏のごとく、私はこの読書感想文という名の悪しき慣習に苦しめられ、髪をかきむしり泣き喚くという醜態を晒すことになる。 醜態を晒す私自身も、その醜態を視界に入れなければならない家族の皆様も、皆がひどく不快な感情に苛まれる

VS暴走掃除機。【超短編小説】

「ギュイイイ~~~~~ン」 「ギュオンギュオ~~~ン」 「ギュオオオ~~~~~ン」 コンセントを繋いだ瞬間、突如として掃除機が暴れ出した。奇怪な音色を部屋中に響かせながら、縦横無尽に暴れ回り始めたのである。 この男の部屋の掃除機はコンセントを繋いでいる時に稀に暴れ始める。理由はわからない。決まった規則などなく、何の前触れもなくいつも突然暴走し始めるのである。 そして今日もまた、この男と暴走掃除機との仁義なき戦いの火蓋が切られたのである。 (レディー、ファイッ) まず

『しりとり』 超短編小説

「しりとりしよーぜー」 『え、あー、うん、いいよー』 「リンゴ」 『ゴリラ』 「ラッパ」 『パン』 「!?」 『・・・』 「ンジャメナ」 『!?』 「・・・」 『ナン』 「!?」 『・・・』 「んだんだ」 『!!』

『ピサの斜塔、斜め45度事件』 短編小説

「ここで速報です。あのイタリアにある有名な建築物“ピサの斜塔”が、つい先ほど突然45度まで傾いてしまったようです。現場付近では入場規制が行われているようです。おっと、中継が繋がるようですので繋いでみましょう。現場の斜木さん」 『はい、現場の斜木です。私はたまたまイタリアを優雅に旅行中だったのですが、ピサの斜塔が45度まで傾いたということで、リポーター魂に火がつき、休暇そっちのけで現在中継を繋いでおります』 「まじっすか。そりゃどうもお疲れ様でございます。入場規制が行われて

友人Xの逆鱗。 (短編小説)

私には昔から仲の良い友人が一人だけいる。私にとって唯一の友人と言っても過言ではない存在である。 だが先日、そんな友人と一悶着あった。今回はその一件について書き記したいと思う。ここでは仮にその友人を「X」と呼ぶことにする。 Xはとても優しい日本の男である。言動や行動、雰囲気など全てが優しさに包まれており、怒った姿を一度も見たことがない。まさに優しさの権化のような存在である。 私は小学生の時、友人が一人もおらず少々寂しい思いを抱いていた。そんなときに、Xは唯一私に話しかけて

ホップ・ステップ・シャーラップ (超短編小説)

我が家の近所には、御年70ぐらいの少々近寄りがたいオーラを醸し出す、一人のおっちゃんが住んでいる。おっちゃんとは特別何か話したことはないが、たまにすれ違ったりすると軽く挨拶したりする感じの関係である。 そのおっちゃんが、たまに唐突に私に向かって言うのである。 「ホップ・ステップ・シャーラップ!!」と。 私はこの言葉に気圧される。それはそれは本当に気圧される。そうして毎度のごとく、ガクガク震えて地に膝がついてしまいそうなこの貧弱な足で、なんとかその場に立ち続けるのである。

“有料”の肩たたき券 (超短編小説)

最近、肩こりがひどい。パソコンを毎日使っているからだろうか。両肩が共にゴリゴリに凝り固まっていらっしゃる。 こりゃ参った。ため息が漏れる。誰かに肩たたきでもしてもらいたいところだが、あいにく幼稚園児の息子は最近、数独に夢中である。 今日もリビングのテーブルの上で、必死に数独と格闘している。その姿は真剣そのものである。 そんなある日、息子からもらった物。それは“有料”の肩たたき券であった。息子は何も言わず、スッと私の前にそれを差し出し、足早に去って行った。 「有料、か…

ゴルフボールの行く先。 (超短編小説)

私の日課は毎朝の散歩である。今日も今日とて、いつものコースを散歩していた。 すると突然、空から何かが降ってきた。なんと、ゴルフボールである。ゴルフボールが私の眼前に落ちてきたのである。 もし当たっていたら、私はこの世を去っていたのだろうか。それとも、この世とあの世の狭間で彷徨っていたのだろうか。そんなことを考えた。 落ちたゴルフボールは、何度か跳ねた後、コロコロと転がっていった。私はふとゴルフボールの行く先が気になり、後を追ってみることにした。 ゴルフボール(略して、

町内放送、止めどない。 (超短編小説)

私は読書が大好きだ。 特に小説が好きで、いつも決まって休日には、家でのんびりと小説の世界に没入している。この時が私にとっての至福の時間であり、そして一番のストレス解消の時間なのである。私はこれなしでは生きていけないのだ。 だが、今日はいつものように小説に集中できない。いつもならスッと小説の世界に入っていけるのに、今日はまるで門番に侵入を拒否されているかのようである。 一体なぜなのか。心当たりはあった。というか、心当たりしかなかった。それはさっきから、町内放送が止めどない

しゃっくりヒーロー。 (超短編小説)

 私はヒーローを生業としている者である。日々この街に住む人々の平穏を守っている。  今日も、敵に囲まれて困っている少年を発見。相も変わらず、この街は微妙に治安が悪い。若干錆び付いたママチャリを全力で漕ぎ、現場へと急ぐ。  だが、さっきからちょっと気がかりなことがある。何故だか分からないが、しゃっくりが止まらない。 「ヒック、ヒック、・・・、ヒック」  どうしようホントに止まらない。でも、今はそんなことを気にしている場合ではない。一刻も早く敵を制圧して少年を助けなければ

僧侶とファンキーおばあちゃん。 (超短編小説)

僧侶になって早十年。 今日も今日とて瞑想をしている。 長いこと瞑想を続けてきた甲斐あってか、昔よりも集中力が増し、瞑想も幾分上達してきたように思う。 だが、今日は全く集中できない。 気づくとすぐ意識がそれてしまう。 しかも、とある一つの事を何度も何度も考えてしまうのである。 そのとある事とは、約一時間前に出会った、白髪アフロのファンキーおばあちゃんのことである。 その時、私はお寺の境内を掃除していた。 境内には桜の木が植えられており、開花の時期を迎えた桜が綺麗に

そ~い粗茶。 (超短編小説)

今朝のことなんですけど、いつも使ってた自販機がなくなってたんです。 それで、どうしようかと思ってたら、数メートル先に新しい自販機が立っているのを見つけました。 その自販機がちょっと見たことない感じで、中のペットボトルにラベルが貼ってなかったんです。 いくらラベルレスって言っても、まるで何が入っているのか分からないので、困惑してその場をウロウロしてしまいました。 でも付近に他の自販機もなく、もの凄く喉が渇いていたので、おそらくお茶であろうペットボトルを選んだんです。

抗う鉛筆。 (超短編小説)

とある週末。 この小学生の少年には宿題が残っていた。 でも、やりたくない。 嫌だ嫌だと駄々をこねる。 あまりにも嫌すぎて、その場でバーピー運動をし始める。 だが、そんなことをしても状況は何も変わらない。 バーピーを12回ほどしたところで、少年はふと考えた。 「なぜ我々は勉強しなければいけないんだ?」 「いや、そもそも何故、我々は生きなければならないのだろうか」 少年は不必要に哲学的な問いを持ち込もうとするも、そんなことが現状において無意味だということは本人が一番分か