VS暴走掃除機。【超短編小説】
「ギュイイイ~~~~~ン」
「ギュオンギュオ~~~ン」
「ギュオオオ~~~~~ン」
コンセントを繋いだ瞬間、突如として掃除機が暴れ出した。奇怪な音色を部屋中に響かせながら、縦横無尽に暴れ回り始めたのである。
この男の部屋の掃除機はコンセントを繋いでいる時に稀に暴れ始める。理由はわからない。決まった規則などなく、何の前触れもなくいつも突然暴走し始めるのである。
そして今日もまた、この男と暴走掃除機との仁義なき戦いの火蓋が切られたのである。
(レディー、ファイッ)
まず先手を打つのは暴走掃除機(以後、暴掃機と省略する)。ただならぬ轟音をぶちかましていく。
「ギュヲギュヲヲ~~~ン」
その勢いはとどまることを知らない。更に加速していく。
「ギュインギュインギュウィ~~~ン」
そうして轟音を響かせながら、勢いよく男に攻撃を仕掛ける。暴掃機は何者も寄せ付けない圧倒的な破壊力で暴れ狂っている。部屋中を縦横無尽に駆け巡り、今にも部屋を破壊してしまいそうな勢いである。
それに対してこの男、何やら前後左右へと機敏なステップを繰り出していく。暴掃機の止め処ない凄まじい連続攻撃を、その機敏なステップで上手くかわしている。
だが、男は避けるばかりで、何も攻撃を仕掛けようとはしない。果たして、暴掃機に怖じ気づいているのか、それともチャンスを見計らっているのだろうか。
おっと背後に回り込み、勢いよく掴みかかったッ。この男、初めての攻撃である。意表を突かれた暴掃機の動きが若干鈍る。間髪入れずに男が暴掃機を床に押しつけようとする。
だが、暴走機は激しい抵抗を繰り出し、男を勢いよく振り払った。暴掃機は勢いを取り戻し、再び暴走を開始する。吹き飛ばされた男もすぐさま体制を整え直す。両者一歩も譲らない緊迫した状況が続いている。
暴掃機は更に勢いを増して暴れ回る。男のステップも更に加速していく。この戦い、一体どうなってしまうのだろうか。
おーっと、勢い余って暴掃機のコンセントが抜けてしまったー。
電力の供給を絶たれた暴掃機は、為す術なくその場にへたり込んだ。電気が与えられなければ、暴掃機は奇怪な音色を響かせることも、部屋中を縦横無尽に暴れ回ることもできない。ただの凡庸なる掃除機と化すのである。
なぜ、この男は最初から暴掃機のコンセントを抜くという手段に出なかったのだろうか。阿呆なのだろうか。それとも、これがこの男にとっての暴掃機に対するささやかな礼儀だとでもいうのだろうか。
そんなことが分かるはずがない。この男以外に真意など誰も知る由もないのである。
そんな摩訶不思議な男は、乱れる呼吸を整えつつ静かに暴掃機のもとへと駆け寄った。
そして一言。
「ナイスファイト」
決着ッ。
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