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そ~い粗茶。 (超短編小説)

今朝のことなんですけど、いつも使ってた自販機がなくなってたんです。

それで、どうしようかと思ってたら、数メートル先に新しい自販機が立っているのを見つけました。

その自販機がちょっと見たことない感じで、中のペットボトルにラベルが貼ってなかったんです。

いくらラベルレスって言っても、まるで何が入っているのか分からないので、困惑してその場をウロウロしてしまいました。

でも付近に他の自販機もなく、もの凄く喉が渇いていたので、おそらくお茶であろうペットボトルを選んだんです。



それで、ちょっとビックリしたんですけど、レシートが出てきたんです。
レシートですよ、レシート。

「あれ、自販機ってレシート出るんだっけ?」って思ったんですが、出てきちゃったもんはしょうがないんで、まあいいやって思ったんです。

だけど、困ったことにそのレシートがやたらと長いんですよ。

もうたぶん40cm、いや50cmぐらいはあったかもしれません。
1mの半分の長さですよ。
ほんと、なんというか、失礼ながらこいつアホかと思いました。

しかも長い上に、ものすごく動作がゆっくりなんです。
レシートが出てくるまでに約50秒。
秒速1cmくらい。

レシートが全部出るまでにやたらと時間が掛かるんで、ペットボトルをとってすぐ行こうと思っても、レシートが出終わってないんで離れようにも離れられないんです。

そのくせして、やっと全部出てきたと思ったらやたらと空白だらけ。
それで、よく見たら中央にこぢんまりと「そ~い粗茶」って書いてあったんです。

「そ~い粗茶ってなんやねん。そ~い粗茶って。パクリやん。ていうか、こんだけ時間かけておいて粗末なギャグと茶を出すなよ。せめて立派なギャグと茶を出せよ。このアホ」

あまりにイライラしちゃって、独り言をベラベラと喋っちゃったんです。
そしたら、後ろを通りがかった人に聞こえてたらしく、「なに、そ~い粗茶って、やばくないあの人…」ってヒソヒソ言われちゃいました。

なんかまるで、「そ~い粗茶」とかいうアホみたいなネーミングを、私が考えたみたいになっちゃいました。

勘弁してほしいです。
恥ずかしいです。
穴があったら入りたいです。

ただ、アホっていう単語を簡単に使ってしまうあたりが情けないですね。
結局、私もこの「そ~い粗茶」と同程度のレベルの人間なのかも知れません。


それでその後、近くのベンチに座って、長いレシート片手にこのお茶を飲んだんです。

まさに、粗茶でした。
誰が飲んでも粗茶だと分かるぐらいの粗茶でした。

よく、「つまらないものですが」とか「粗品ですが」みたいな感じで、謙虚な姿勢を保つために使うことはよくある事だと思うんです。
でも、この「そ~い粗茶」は謙虚とかっていう類いのものではありませんでした。

名前のギャグは心底「つまらないもの」だし、味も嘘偽りなく「粗品」です。
この商品名は、ただ純粋に事実を述べているだけでした。
正真正銘の「そ~い粗茶」でした。


やたら長すぎるレシートに、中央に小さく書かれた「そ~い粗茶」。
つまらないギャグに翻弄され、挙げ句の果てに飲んだお茶はリアル粗茶。

今日はとんだ悲しみの連鎖でした。
こんな悲しい一日は、後にも先にも滅多にお目にかかれないと思います。

でも、こんな悲しみに負けることなく、私は強く生きていこうと思います。
なので、どうか皆様も強く生きていただければ幸いです。

ご健闘をお祈りいたします。

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