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抗う鉛筆。 (超短編小説)

とある週末。

この小学生の少年には宿題が残っていた。
でも、やりたくない。

嫌だ嫌だと駄々をこねる。
あまりにも嫌すぎて、その場でバーピー運動をし始める。
だが、そんなことをしても状況は何も変わらない。

バーピーを12回ほどしたところで、少年はふと考えた。

「なぜ我々は勉強しなければいけないんだ?」
「いや、そもそも何故、我々は生きなければならないのだろうか」

少年は不必要に哲学的な問いを持ち込もうとするも、そんなことが現状において無意味だということは本人が一番分かっていた。

少年はこの世の不条理に抵抗することをやめて、ようやく腹をくくる。
そして、宿題を始めようと、机の上に置かれた一本の鉛筆に手を伸ばす。

「ん、んん、んんん!?」
戸惑う少年。

「鉛筆が持ち上がらない…」
少年は静かに一言、そう呟いた。


一体これは何が起きているのだろうか。

少年の腕力もしくは握力が突如として激減したのだろうか。
いや、そんなはずはない。
この少年は至って普通に日常生活を送れている。

では一体何故。

答えは一つしかなかった。
何故だかは分からないが、この鉛筆、異様に重くなっているのである。

困った少年は、無表情の極みで母親に尋ねる。

「母よ、この鉛筆、あまりに、重い…」
思わず片言になる少年。

そんな少年を見て吹き出す少年の母親。
丁度、口に含んでいたコカ・コーラが、華麗かつ鮮やかに空気を彩った。

呼吸が止まりそうなくらいゲラゲラ笑いながら、うずくまって床をバンバン叩いている。

そんな母親を見つめる真顔の少年。
母親の甲高い笑い声と床を叩く音だけが、この部屋でむなしく響き渡っていた。

母親は震える足でなんとか立ち上がって鉛筆のもとまで行き、その鉛筆を持ち上げようとする。

しかし、やはり持ち上がらない。
母親の表情から笑みが消える。

「息子よ、この鉛筆、ほんとに、重い…」
少年同様、母親も無表情で片言になる。

「なに、これ」
少年は静かに問いかける。

「わからない、でも、重い」
母親はただただ事実を述べるだけだった。

この鉛筆は半分ぐらいの長さになっている。
つまり、新しいものではないため、今まで使っていたということである。

ということは、突然重くなったのだ。
理由は微塵も分からないが、突如としてこの鉛筆の体重が激増した、という事実だけは疑いようもなかった。


人間にとって鉛筆というものは、削って芯を尖らせ、その芯の先端を紙にこすりつけるようにすることで、そこに文字を表現することができる、という便利な道具である。

だが、鉛筆からしてみれば、その身を削り取られ、人間という未知の生き物に握り潰されながら、中身の芯、つまり“魂”をえぐり取られることに他ならないのである。

その時、少年は悟った。

「これこそが、この鉛筆にとっての最大の抵抗なのかもしれない…」と。

少年はこの鉛筆の姿に、生き様とはなんたるか、をまざまざと見せつけられたような気がした。

この地球という環境で生きることの過酷さ。
そして、どんなに過酷でも決して生きることを諦めず、抗い続けるこの鉛筆の熱き魂。
いわば“鉛魂”である。

熱き魂の炎は、誰に気づかれることもなく、ただ粛々と燃え広がる。

この瞬間、気怠い日々を生きる一人の平凡な少年の胸の中に、“鉛魂”の熱き炎が静かに灯ったのである。

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