僧侶とファンキーおばあちゃん。 (超短編小説)
僧侶になって早十年。
今日も今日とて瞑想をしている。
長いこと瞑想を続けてきた甲斐あってか、昔よりも集中力が増し、瞑想も幾分上達してきたように思う。
だが、今日は全く集中できない。
気づくとすぐ意識がそれてしまう。
しかも、とある一つの事を何度も何度も考えてしまうのである。
そのとある事とは、約一時間前に出会った、白髪アフロのファンキーおばあちゃんのことである。
その時、私はお寺の境内を掃除していた。
境内には桜の木が植えられており、開花の時期を迎えた桜が綺麗に咲き誇っている。
すると、向こうから派手目な一人のおばあちゃんが、桜を見ながらこちらへとゆっくり歩いてくるのに気づいた。
私は思わず箒を持つ手を止めて、おばあちゃんの姿を凝視する。
そのおばあちゃんは、立派な白髪のアフロに、原色多めの派手な服装、そして黒々としたサングラスをかけている。
ちなみに半袖半ズボン。
軽やかな春の装いである。
まさに、ファンキーという言葉はこのおばあちゃんの為にあるのではないか、と思わざるを得ないぐらいの、正真正銘の“ファンキーおばあちゃん”なのである。
私は思わず話しかけた。
「素敵な髪型と服装ですね。」
それに対してファンキーおばあちゃん。
「ありがとうございます。そう言っていただけて、大変光栄です。」
「お掃除、ご苦労様です。」
見た目と話す言葉、そしてその謙虚な姿勢にただならぬギャップを感じ、私は一瞬、思考停止してしまった。
見た目で人を判断してはいけない、とはよく言ったものである。
私は、これは何か運命の出会いなのではないかと、朧気ながらそう感じた。
ファンキーおばあちゃんと一緒にお寺の縁側に座り、少しお話をすることになった。
ファンキーおばあちゃんは言った。
「私のモットーは“誠実ファンキー”なんです。」
「誠実とファンキーという、一見相反するようにも見えるこの二つの要素を、私は全身で包み込んでやるんです。」
「そうして包み込むことによって、相反する要素が互いにうまく影響し合うようになる。」
「その先に、きっと、なにか見たこともないような景色が見えてくる。」
「私、そう思うんです…。」
まさか、ファンキーな姿の裏にそんな深淵な思想が隠れていたとは。
白髪アフロでサングラスをかけた、原色多めの半袖短パン姿。
そんなおばあちゃんが、隣で静かに語るその深い生き様。
そのサングラスから見える世界は、一体どうなっているのだろうか。
そんなことを考えながら、私は思わず感嘆してしまった。
見たこともないような景色が、私の眼前で爛々と輝いていたのである。
数十分程お話しした後、ファンキーおばあちゃんは丁寧に一礼して、桜が舞い散る道をゆっくり歩いて行った。
その後ろ姿は、まさに“誠実ファンキー”そのものであった。
そんな約一時間前の出来事。
この出来事が私の脳裏から離れなかった。
まるで夢のような不思議な情景を思い出しながら、私はなぜだかワクワクしていた。
(やはり、人生というものは面白い。)
(ファンキーおばあちゃんは、“誠実ファンキー”という自ら選んだ険しい道を、人生をかけて進み続ける。)
(それならば、道は違えど、私もファンキーおばあちゃんと同様に、僧侶という自ら選んだ険しい道を、人生をかけて突き進んでいこう。)
私は心の中で、そう呟いた。
このファンキーおばあちゃんとの運命の出会いによって、私はこれからも力強く生きていく事を、心に固く誓ったのである。
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