黒澤伊織@小説

短編小説を主に書いています。ジャンルは、社会派・純文学。ファンタジーも好き。旧ペンネーム「山野ねこ」名義の『夜鬼』がマンガボックスでコミカライズされています。また以前刊行した『ブラッドライン』が短編1編を加えて文庫化しました。よろしくお願いします。

黒澤伊織@小説

短編小説を主に書いています。ジャンルは、社会派・純文学。ファンタジーも好き。旧ペンネーム「山野ねこ」名義の『夜鬼』がマンガボックスでコミカライズされています。また以前刊行した『ブラッドライン』が短編1編を加えて文庫化しました。よろしくお願いします。

マガジン

  • 緑の一族

    あるとき、森に迷い込んだ旅の商人アスランは、そこで不思議な少女たちに出会う——。 二部制王道ファンタジー。

  • 短編小説集

    原稿用紙10枚から30枚の短編小説です。

  • まくらのそうし

    日々の風景、周りの自然などを綴ったエッセイです。毎日更新。1話は原稿用紙1枚ほどです。田舎暮らしの風景をお届けします。

  • 短編小説集『りんごのある風景』

    りんごをテーマにした短編小説集です。

  • 【小説】何が、彼女を殺したか

    長編小説『何が、彼女を殺したか』の各話をまとめたマガジンです。全21話です。

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noteに投稿している記事の一覧表。各作品へのリンクです。 ★『ショートショート小説』(原稿用紙10枚以下。1分ぐらいで読める小説です) 📙 月が綺麗ですね (文学) 📙 冷凍庫より愛を込めて (ホラー) 📙 こいのぼりさん (ファンタジー) 📙 女子高生のピタゴラス (コメディ) 📙 夏の果て (ヒューマンドラマ) 📙 僕の魔法の使い方 (ヒューマンドラマ) 📙 つまらない男 (ヒューマンドラマ) 📙 おかあさん (ヒューマンドラマ) 📙 再会 (ヒューマンドラマ) 📙

    • 第一部 第七章 王の都、クゼイ

       王都クゼイを見下ろす、峠の道。  その見晴らしのいい場所で、マクの背中から降り、アスランはしばし、立ち止まった。  ――帰ってきてしまった。  胸には、安堵よりも、寂しさが広がっている。  最後の挨拶に行ったときに、大花がかけてくれた不思議なまじないのおかげだろう。アスランとマクは、いとも簡単に迷いの森を抜けることができ、クゼイへの道に戻ることができた。  けれど、もう、二度とラーレに会うことができないという思いは、アスランを何度も何度も振り返らせ、なかなか先へ進ませ

      • 第一部 第六章 別れ

         もうじき、春の花も散り、夏が始まろうというのに、風は冷たく、空は澄んでいる。  そろそろ日も落ちるというのに、ラーレは籠を手に、里の奥から、まだ頭に雪をかぶった山々へと繋がる道を進んだ。  目的は、西向きの高台に群生している、カリヤスという草だった。まるで、落ちていく夕日を吸い込んだような色をした、カリヤスは、それを煮出し、糸や布を染めるのに使うのだ。  カリヤスを摘むのは、里での大切な仕事の一つだ。けれど、それは今すぐに、しなければいけないことではなかった。皆から離

        • 第一部 第五章 その、名前

           ――ラーレ。  つい、何日か前までは、花の名だった、その名前。  その名前を、今は、私だけに向けて、呼ぶ人がいる。  ラーレ、と名付けられた少女は、面映ゆい気持ちで、アスランの馬を撫ぜた。  この、長い飾り毛の美しい馬の名は、マク。 そして、あの人の名前は、アスラン。  大花から生まれた緑たちは、ラーレも含め、一人一人が、別々の存在ではなかった。少女たちは、二十人全員が、緑という、一つの大きな個のような存在だったのである。  生まれてから、少女たちは一度として離れた

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        • 緑の一族
          8本
        • 短編小説集
          30本
        • まくらのそうし
          210本
        • 短編小説集『りんごのある風景』
          32本
        • 【小説】何が、彼女を殺したか
          22本

        記事

          第一部 第四章 大花の願い

          「あ、俺も何かしましょうか? その…」  わっと蜘蛛の子を散らすように、それぞれの仕事を始めた緑たちを眺めながら、アスランは大花におそるおそる申し出た。 「いいえ。あなたはお客ですから、いいのですよ。ゆっくりして、疲れを癒されたら、故郷にお帰りになるといいでしょう。帰り道は、そのときにお伝えしましょうね」 「いや、そうではなくて……」  大花の優しい眼差しに、アスランは言い淀んだ。  倒れたアスランに部屋をあてがい、介抱し、マクの世話をし、朝食まで振る舞ってくれる、緑

          第一部 第四章 大花の願い

           第一部 第三章 里の暮らし

           朝陽が空に昇るのを合図に、視界を白く覆っていた霧はさっと引いていき、霧に隠されていた風景が、一気にアスランの目の前に現れた。  雪をかぶった高い山々を背景に、木々は芽吹き、草原の花は咲き乱れ、その景色は、都の金持ちの庭よりも、ずっと広大で素晴らしかった。  ゆるやかな丘を登るようにしてつけられた小道の先には、ひときわ巨大な岩があり、恐らく、それが少女たちの家なのだろうと、アスランは思った。それは先ほどの住居と同じように、小さくくり抜かれた窓や戸が付いていて、その穴の一つ

           第一部 第三章 里の暮らし

          第一部 第二章 緑と花

             ずいぶん長い間、眠っていたせいだろうか。  目が覚めたアスランは、窓から差し込む淡い光が朝のものなのか、それとも夕方のものなのかわからずに、しばらく寝床の中でぼんやりしていた。  溜まった疲れはすっかり抜け、体中の筋肉は心地よく脱力している。  そういえば、ここはどこだろう?  そんな不安を感じたのは、しばらくしてからのことだった。    どうして俺はこんなところにいるのか…。  まだ眠りの中にあるような、鈍った頭を動かして、アスランはゆっくりと記憶を辿った。

          第一部 第二章 緑と花

          第一部 第一章 南都ギュネイ

          「ここだけの話、そいつに目をつけるなんて、兄さん、若いのに大したもんだ」  浅黒い肌をした物売りは、お世辞ではなく、心底感心したとでもいうように、黒い目を真ん丸に剥いて見せた。 「この銀細工は、大昔に滅んだ、ある王朝の妃が身に着けていたといわれるもので、いまさっき、店に並べたところなんだよ。いやあ、まったくもって、兄さん、あんたは運がいい」  通りすがりのアスランの目が、銀細工に止まるや否や、それまで退屈そうに座っていた物売りは、ここぞとばかりにまくしたてた。 「それ

          第一部 第一章 南都ギュネイ

          緑の一族

           プロローグ  見たことのない花が咲いていた。  あるものは茜で染めた糸より赤く、あるものは白絹の衣より白く、またあるものは、いままで見た、どの空の色よりも青い。  その色とりどりの花々は、まるで都一の職人が織った、絨毯の模様のように咲き乱れ、その七色の輝きは、一日中見ていても飽くことがなさそうだ。  あたりは、何百年と生きているのだろう、人ひとりでは抱えきれぬ幹を持つ木々が並び立ち、地面に涼しげな影を落としている。その影と光の狭間で、キラキラ輝く湧き水は、豊かな水量で溢

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          まくらのそうし

          山葡萄  祖父に連れられ、踏み込んだ山は、どこか甘酸っぱいような、黒い腐葉土の匂いがした。  その腐葉土の元となる落ち葉を集めるために、私たちは駆り出され、手伝いとは名ばかりの、枯れ葉と戯れたのだった。  そして、また別の季節、別の山へと連れられて、今度はカブトムシの幼虫を掘った。やはり甘酸っぱいような匂いの中で、その白く大きな幼虫を見つけては、まるで宝石を見つけたような歓声を上げ、次々飼育箱へと放り込んだ。  時に、幼い私のスコップは、その宝石を真っ二つに駄目にした

          まくらのそうし

          【エッセイ】 冬支度

           秋は春と似たり、渡りの鳥のやってきて、あちこちさえずり、やかましい。  一体どこから来るものか、目的地はどこなのか、そこら中で鳴く虫は、さしずめ肉の焼ける音、鍋のぐつぐつ煮え立つ音に聞こえるか、これだけいれば食べ放題、ベジタリアン向けに木の実もあれば、山はビュッフェ会場というわけか。  夏の夜から毎夜来る、窓のカエルも寒さに震え、それでも冬眠前のエネルギー補給、動けなくなるそれまでは、灯りに集まる羽虫を食らい、甘藷の畑をイノシシが掘り起こす、稲刈り後にはシカが来る、各々

          【エッセイ】 冬支度

          【エッセイ】 ゴーヤの山

           夏野菜のキュウリやトマト、体を冷やすものならば、秋には扱いも困るものだが、その最たるものがゴーヤという、南の島のニガウリである。  ニガウリという名の通りのその苦味、暑い盛りには良いのだが、涼しくなれば体も欲さず、しかし間の悪いこと、盛夏に育つ株ならば、走りが出るのが八月終わり、どっさりその実がなる頃には、季節は秋、涼しさの増し、苦味など必要ない人の体、取れたゴーヤの山を前にして、お前はいつでも季節外れだと、文句も出ようものである。  ところで、このゴーヤのおいしい食べ

          【エッセイ】 ゴーヤの山

          【エッセイ】 網戸の小蜘蛛

           一センチにも満たない、コガネグモの幼体が小さな網を張っている。大人たちと同じように、きちんと足をバッテンの形に揃えて、仲良く二匹、並んでいるのだ。  これが馬鹿な二匹である。なぜなら、その巣は網戸に張られ、それもいつのまにその目をくぐり抜けたのか、網戸の内側にいるのである。ガラス戸と網戸に挟まれて、餌の虫など来るはずもない、その場所に。  一体、いつになったら気づくものやら、気づけばきっと出てくだろう、まぁ、気づかないままそこで死んでも、人には関わりのないことだ――と見

          【エッセイ】 網戸の小蜘蛛

          【エッセイ】 台風と夏の終わり

           台風が夏を連れ去ったようで、涼しさではない、寒さが山を覆う。  今年初、が多い今年という年ではあるが、この台風の威力もまた初めてのもの、風も雨も丸一日吹き荒れて、散歩道は落ちた木の枝葉に埋め尽くされる。そろそろ薪ストーブのシーズン、焚き付けを落としてくれたのか。  それにしても、木々の上には人の知らない世界があるようで、青く小さなアケビだの、椎の実だのが、枝葉と運命を共にする、そこへひらりと蝶が飛んできて、これが見たこともない渋い金の蝶、いや待て、これは風雨に洗われ、色

          【エッセイ】 台風と夏の終わり

          【エッセイ】 女郎蜘蛛の天下

           ジョロウグモばかりの年である。  こんな年は珍しく、例年、コガネグモの天下であるが、それがどういうわけか揺らいだらしい。一体、何が要因かなど、誰の興味も引かぬ故、誰も知らないままである。  短絡的に結びつければ、異常な暑さ、アブの発生、ジョロウグモの天下と、こうなるが、これも十数年で初めての出来事、再びその要因がまみえるが、十数年後のことであれば、人の命は短すぎ、やはりジョロウグモの天下の謎は、誰も知らないままである。  異常と言えば、昨夜の網戸、闇に活動しないはずの

          【エッセイ】 女郎蜘蛛の天下