幸伏 線寿(こうぶし せんじ)@短編小説毎日投稿

小説書きの大学生/短編小説100日投稿完遂!/スキマ時間にサクッと読める500字~2000字のオリジナル読み切り作品を掲載/スキやコメントいただけると励みになります/相互フォロー大歓迎!

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短編小説「いってきます」

さよなら。 ペットのハムスターが昨日、息を引きとった。 こんな時がいつか来てしまうのは分かっていた。 でも、いざその時を迎えると、簡単には現実を受け入れられない。 昨晩は一睡もできなかった。 少しでもあの子のことを思い出すと、涙が止まらない。 小さな体を撫でた感触。 餌を忙しそうに頬張る姿。 私の手の上で眠そうに横たわる形。 どれも愛おしくて、忘れられない。 3年間、あの子は長生きしてくれた。 私は小学生低学年の頃から、両親にしつこく頼み込んでいた。 「ハムス

    • あれ、100日達成まとめの記事がなかなか投稿されませんね。 本当にごめんなさい! 卒論が…卒論の野郎が…! 活動を邪魔してくるんです! ということで、卒論やら、なんやらで忙しくなってしまいました。 いるのかわかりませんが、まとめを楽しみにしていた方、本当に申し訳ございません!

      • ついに、短編小説100日連続投稿達成することができました! 読者の皆様には感謝の限りです。 また、詳しくは近日中に記事としてまとめますので、しばらくの休息をいただきます。

        • 短編小説「桜颪を想う筆」

          大切なあなたへ。 顔を見なくなって今日で3か月になりました。 そちらでは楽しく過ごせていますか? こちらは相変わらず、何気ない日々を過ごしています。 あの日から、時間が止まったように感じることもありますが、それでも確かに流れているのです。 今、窓の外では桜の花びらがひらひらと舞っています。 あなたの大好きだった季節がまたやってきました。 あなたのいない毎日は、少し余寒を感じてしまいますが、それでも美しい景色に心和んでおります。 あなたとの思い出は、まるで昨日のことのよ

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          短編小説「偽りの私」

          私は噓つきだ。 誰にも私の本心は言わない。 これからもずっと、言うつもりもない。 そして、言えない。 特に家族には。 私は学校でいじめられている。 それがいつ始まったのかも、覚えていない。 もう、何年も前のことだから。 ほら、この鏡の中の暗い表情も私以外は誰も知らない。 「いってきます」 玄関を開けて出る、自分とは思えない明るい声。 完璧な偽りの私だ。 電車の中で、制服のボタンを一つだけ外す。 私はあるとき、完璧でいなくてはならない。 でも、またあるときは完

          短編小説「こんな私、」

          朝日がカーテンの隙間から容赦なく差し込み、激しい頭痛とともに目を覚ました。 頭が割れるように痛む。最悪の目覚めだ。 昨夜のことが霞んでいて、何も思い出せない。 友達とご飯を食べて、お酒を飲んで…。 その先はもう覚えていない。 冷たい。 踵から脹脛にかけて、シーツの濡れを感じた。 吐き気が込み上げる。 また、洗濯だ。 でも今の自分には、そんな気力すらない。 狭いベッドの隣では、知らない男がまだ気持ちよさそうに寝ている。 その顔を見るたびに、嫌悪感が押し寄せてきてしまう

          短編小説「見えない彼女 3(終)」

          授業中、私は教室の窓から外を眺めていた。 彼が話しかけてくれたあの日から、今日でちょうど3か月だ。 私はあの日を忘れない。いや、忘れるわけない。 今では、クラスの皆から話しかけられるようになった。 教室の移動に、昼食など、何かと誘われては行動を共にしている。 全ては彼のおかげだ。 皆といる時間は確かに、私の望んでいる生活のはずだった。 でも、何かが違う。 私はそれがわからないまま、日々を過ごしていた。 キーンコーンカーンコーン。 授業終了の鐘が鳴り、続いて昼休憩の

          短編小説「見えない彼女 2」

          「おはよう」 教室に入るなり、窓際の席に座る彼女に声をかけた。 『…おは…よう』 彼女はワンテンポ遅れて返事をする。 『ごめんね、まだ話しかけられることに慣れてなくて』 申し訳なさそうに微笑む彼女だが、その表情や声からは、数日前にはない明るさがあった。 『おい、また独り言かよ』 不意に後ろから声がした。 振り向くと、あの日と同じクラスメイトが冷ややかな目で俺を見ていた。 『お前、最近おかしいんじゃねーの? ずっと窓の外見てばっかだし。全然人と喋んねぇし、喋った

          短編小説「見えない彼女 1」

          教室の後ろの席、窓際に座る彼女のことを、誰も気にしていないようだった。 気にしていないというのも、もはや間違いかもしれない。 彼女の姿は、他の人の目には見えていない。 俺を除いて、誰一人とも。 いつからだろう。 彼女の存在が、クラスの中で薄れていったのは。 彼女は、なかなかクラスの輪に馴染めないでいた。 声も小さく、話しかけられなければ人と関わろうとしなかった。 そしてあるとき、彼女はもう誰からも見えなくなっていた。 そう、俺以外は。 俺だけが唯一、彼女を視界に捉え

          短編小説「父の書斎」

          家の中のはずなのに、隔たりを感じるドアを三回ノックし、一瞬躊躇しながら開けた。 「ただいま、お父さん…」 『ああ、お帰り』 父の書斎だ。 今日も父は老眼鏡を下向きに掛けて、本を読んでいた。 ずっと変わらぬ居姿だ。 どこか安心する。 「お母さんが、『もうご飯できてるよ』だって」 『そうか、すぐ行くよ』 父は、そう答えたのにも関わらず、再び手に開いている本に目を落とした。 やはり、どこか掴みどころのない変わった人だ。 父は子供の時から無口で、物静かな人だった。

          短編小説「いちごのデザート」

          シングルマザーでまだ幼い子を持つ私は、朝早くから仕事に出かけなくてはならない。 もっと普段から可愛がってもあげたいのだが、なかなか時間が確保できない。 お金に余裕がなく、休日は休日らしいこともなかなかしてあげられない。 そもそも、週末に休みをとれるとも限らないし、まとまった休日も得られない。 せいぜい、近くの公園へ一緒に遊びに行く程度になってしまう。 だから、せめてもの慰めとして、なるべく食後にはデザートを出すようにしている。 それでも、毎食というわけにはいかないし、普

          短編小説「大人ごっこ」

          出勤が憂鬱だ。 もうこの会社にもうんざりしている。 『電車が遅れてね、申し訳ない』 部長がこんな調子だ。 周囲からため息が漏れる。 毎日時間を守っている自分がばかみたいだ。 資料を持って別室に移動していると、 『何度言ったらわかるんだ! こんな簡単なことも出来ないのか!』 オフィスから課長の怒声が聞こえた。 課長の前に立つ新入社員は肩を窄め、怯えている。 愛のない、感情に任せた怒りだ。みっともない。 昼食を買いに行く際、休憩室からひそひそと女性の話し声が聞こえ

          短編小説「逆行列車」

          駅のホームに立つと、いつもの電車が滑り込んできた。 珍しく、車内はガラガラだった。 私は窓際の席に座り、ネクタイを緩め、姿勢を崩した。 今日も仕事は散々だった。 上司からの叱責、同僚との確執、締め切りに追われる日々。 もう、どこかへ逃げ出したい。 その時、ふと腕時計を見ると、針が逆回転していることに気が付いた。 『どうしたの?』 慌てていると、隣から優しい声がした。 振り向くと、そこには白髪の老婆が座っていた。 「えっと、なぜか、秒針が…」 『落ち着きなさい

          短編小説「悩みの色 後編」

          先輩は道中も真摯に私の悩みを聞いてくれた。 でも、悩みとは別に気になっていることがあった。 「そういえば先輩。なんで私が悩んでるって、わかったんですか?」 先輩は空を見上げ、遠い目をした。 『僕も、絵を全く描けなくて悩んでたことがあってね。なんか似てたんだよ』 そんなことがあったなんて。 でも、今の先輩からはそんな過去を一切感じられない。 私はある意味、先輩を見誤っていたのかもしれない。 『僕も悩んだときはいつも、ここに来たんだ』 到着したのは、美術館だった。

          短編小説「悩みの色 前編」

          絵が描けない。 美術部に所属している私にとって、それは致命的だった。 私は絵が下手だ。 色使いから、1本の線をとっても、他の部員には遠く及ばない。 最後に絵を楽しく書いたのはいつだろうか。 最近は、絵を描き始めることすらままならなくなってしまった。 毎日、部室に向かう足取りは重く、胸の奥には鈍い痛みがあった。 私はもう、美術部をやめようかと考え始めていた。 そんな中、今日も変わらず部活には参加したものの、全く手を動かせないまま、キャンバスの前に座りつくしていた。

          短編小説「雨音の間」

          雨が静かに降り続いていた。 窓の外を眺めながら、私はコーヒーを一口飲んだ。 雨の音は、何かを語りかけてくるようで、妙に落ち着く。 部屋の中は薄暗く、灯りをつける気にもなれず、ただ雨音に耳を傾けていた。 あの日も、こんな雨が降っていた。 言葉を交わすことなく、ただ二人で同じ景色を眺めていた時間が、今でも記憶に残っている。 あのとき、何を思っていたのか、それはもう知ることはできない。 ただ、私たちはお互いに何かを感じ取っていたはずだと、今でも思う。 少しの沈黙が、どれほど