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短編小説「桜颪を想う筆」

大切なあなたへ。

顔を見なくなって今日で3か月になりました。
そちらでは楽しく過ごせていますか?

こちらは相変わらず、何気ない日々を過ごしています。
あの日から、時間が止まったように感じることもありますが、それでも確かに流れているのです。

今、窓の外では桜の花びらがひらひらと舞っています。
あなたの大好きだった季節がまたやってきました。
あなたのいない毎日は、少し余寒を感じてしまいますが、それでも美しい景色に心和んでおります。

あなたとの思い出は、まるで昨日のことのように鮮明です。
映画を見たり、旅行に行ったり、お花見したり、たくさんお出かけしましたね。
些細なことで笑い合ったり、たくさんお話したり、時には意見がすれ違ったり。
今ではどれもが大切な宝物です。

最近、あなたが勧めてくれた本を読み返しました。
あの時は理解できなかった言葉の意味が、今ならわかるような気がします。あなたはいつも一歩先を行っていたのですね。
そんなあなたを、こちらはずっと追いかけていました。

日々の中で、ふとした瞬間にあなたに話しかけてしまいます。
新しい発見があったとき、困難にぶつかったとき、嬉しいことがあったとき。
返事があるはずもないのに、おかしいですよね。

こちらの部屋には、あなたとの思い出の品々が大切に置いてあります。
特に、あの最後の誕生日にくれたダイヤモンドの指輪は、毎日身に着けています。
あなたの暖かさを感じられる気がして。

もうしばらくすると、新緑の季節がやってきます。
そして次々季節は巡り、再び桜舞う季節がやってくることでしょう。
その巡の中で、あなたに見られていても恥ずかしくないように、私もまた成長していきたいと思います。

いつかまた、あなたに会えると信じています。
その時はまた、たくさんお話ししましょう。
だからその時まで、たくさんの話をためておきますね。
あなたに聞かせたい物語を、日々紡いでいきます。

いつかこちらも、そちらへゆきます。
その時まで待っていてください。

いつまでも、あなたのことを想い続けています。

桜待つ永遠の語り部より

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