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短編小説「見えない彼女 3(終)」

授業中、私は教室の窓から外を眺めていた。

彼が話しかけてくれたあの日から、今日でちょうど3か月だ。
私はあの日を忘れない。いや、忘れるわけない。

今では、クラスの皆から話しかけられるようになった。
教室の移動に、昼食など、何かと誘われては行動を共にしている。

全ては彼のおかげだ。

皆といる時間は確かに、私の望んでいる生活のはずだった。
でも、何かが違う。

私はそれがわからないまま、日々を過ごしていた。


キーンコーンカーンコーン。
授業終了の鐘が鳴り、続いて昼休憩の時間になった。

「授業疲れたね」

彼はいつもこうして、授業が終わるなり私に話しかけてくれる。

『こっちばっか見て、集中してなかったくせに』

「気付かれてたか。ところで、今日のひ――」

『ねぇ、お昼一緒に食べない?』

突然、仲のいいクラスメイト二人が彼の言葉の合間に割って入ってきた。

『ね、どうかな?』

クラスメイトは顔を近づけて迫ってきた。

『え、どうしよう…』

私は助けを求めるように彼に聞いた。

「せっかくだし、行ってきな?」

『ごめんね、ありがとう…』

彼は、ニコッと飾らない笑顔で送り出してくれた。

『やっぱねー、』『うんうん、』

クラスメイト二人が何か囁いていた。

『どうしたの?』

『ううん、行こっか!』


私は学校の屋上に連れられ、一緒に昼食をとっていた。

『ほんとにあんたって可愛いよね。なんか転校生みたいで』

『そんな、やめてよー』

話題は私のことばかりだった。
もっと、彼とみたいに、いろいろ話したいのに。

『聞いてる?』

『え、ごめん…』

『あんたがすっごく、不思議ちゃんだ、って話』

『え、私が?』

『あらこれ、自覚もないと来たよ。天然ちゃん属性まで持ってたかー、』

『そんなことないと思うけどな?』

『クラスの話題はそれで持ち切りだよ? ずっと同じ方ばっか見てて、全然目が合わない、とか』

『突然、誰にしてるかわからない挨拶してたり、独り言多かったり、とか。さっきだって、ねー?』

二人は顔を見合わせて頷いていた。

そんな自覚はなかったし、正直、何を言っているのかもわからなかった。

『そういえば、ご飯はもう終わっちゃったけど、これからどうするの?』

『時間まで寝るのー!』

二人はそのまま寝転んでしまった。

『ええ…』

私は動揺しつつも、二人の真似して寝転んでみた。

案外、心地よかった。
今日は誰が見ても認めるような美しい秋晴れだった。


彼は今…何をしているのだろうか…

その時…突然…彼が目の前に現れた…

彼は…私に見せたことのない…眉の下がりきった…悲しい顔で…こちらを見つめている…

『ダメ…行かないで…』

私は…なぜか…そう…口をついていた…
彼の方に…思い切り…手を伸ばしながら…

すると彼は…ついに…後ろを向いて…歩いて行ってしまった…

『待って…!』


『ずっと…!』

気が付くと、私は雲一つない真っ青の空を見上げていた。
高い日の光が眩しい。

よかった…。夢だった…。
知らぬ間に、目は涙で溢れ、髪も少し濡れていた。

この一瞬で、私は全てわかってしまった…。
私の中にある何かも、彼の優しさも全て…。

気が付くと私は、駆け出していた。


誰もいない教室に一人、彼は私の席に座って外を眺めていた。

彼はこちらに気が付くと、立ち上がって手を振っていた。
私は走った勢いそのままに、彼の胸に飛び込んだ。

「どうした、急に」

『ごめんね、私のせいで…』

どうしよう…。彼の前で涙が止まらない…。

「俺がしたくて、そうしたんだ。気にしないで」

彼は腕を背中に回してくれた。

『ありがとう、、、』

そんなことされたら…。余計止められなくなるよ…。

「それより、いいの。こんな場所で。みんな見てるよ」

やっぱりそうだよね…。
昼休み終わりのこの時間に、教室に人がいないわけない。

でも…。

いつ見ても、彼の目は暖かい。

『いいの! そんなことより、今日の放課後、一緒に帰らない?』

「どうしたの急に、改まって」

『いいから、一緒に帰ろ?』


こうして放課後、私たちは並んでいつもの帰り道を歩いていた。

二人の距離は、明らかにあの日とは違っている。

「ずっと、隠してるつもりだったんだけどね…」

彼は力ない声で呟いた。

『君は優し過ぎるんだよ…あ、』

彼は私の右手をそっと握ってくれた。

『これからも、ずっと一緒にいてくれる?』

「うん、もちろん。もう離さないから、、、」

『私も、、、』

その言葉に、二人で微笑み見つめ合った。
繋がった手のぬくもりを感じながら。


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