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エッセイのようなもの

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雑記からはみ出た、やや長めのもの。テーマを決めて書いているもの。
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#雑記

街の本屋さん

街の本屋さん

用事のついでに家から一番近い商店街に足を運んだ。商店街、と言えるほどの規模があるかというとそうでもなくて、控えめなスーパー、最近オープンしたマツキヨ、その周囲にぽつぽつと点在する、美容室、和菓子屋、精肉店、小さな食堂、メインの通りを少し逸れたら、時代を生き残った銭湯、などなど。

その中にいかにも「街の本屋さん」という構えの本屋さんを見つけて、ああそう言えばここに本屋さんがあったなと、久しぶりにそ

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わかってほしいがわからない

わかってほしいがわからない

ど直球に書くと、察するという文化が苦手だ。

正確には「言わなくてもわかるでしょ」という空気に対応することが。

幼い頃、というよりもわたしは根本的に、今はステージに立っているだなんて一体どういうことですか、と自分に問いたいくらい引っ込み思案だった。

もはやどの口が言っているのかとも思うが、目立ちたくないし、人前で無駄に緊張するし(それは今でも変わらない)、人の顔色ばかり伺っているような子供だっ

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夜と負の妄想と、かつてのマウントみたいなもの

夜と負の妄想と、かつてのマウントみたいなもの

何にも満たされない夜っていうのがある。

決して満たされない状況とは言いきれない、恵まれたところもきちんとあるという自覚はあるのに、足りないものにばかり目を向けてしまう不毛な一日がある。

やることをしっかりやって、明るい明日と未来のために踏み出して、過去なんてなかったことにするみたいに駆け出そうよ、という自分で肥大化させた概念に責められて、勝手にもやもやする。

そう。誰のせいでもなく、勝手にだ

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余白に呼吸する

余白に呼吸する

午後の電車は平和だ。眠りの溶け込んだような柔らかな空気に、学校終わりの女子学生の屈託のない笑顔。書籍の文字を追うひと。音楽を聴くひと。どこか遠い目をして車窓を眺める、ここにあらず、な瞳が許されている、そんな気がしてしまうのだ。日常を照らす落ちかけた陽光も建物の外壁を染め上げて、その反射は強くもあるが、朝の光とはまた異なる、僅かな寂寥と儚さとを含有して空を街をひとを包んでいる。これは、他者との程よい

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つらつらと、夜。書く、という行為。

つらつらと、夜。書く、という行為。

長い文章がなかなか書けなくなっている。

書きたいことは時折、ふと浮かぶのに。形にしようと思うと何かが「ちがう」と、言葉を流していく。頭のすこし上、宙に漂ってしまった半透明の文字を感覚で追って、正体のわからない寂しさのような、諦めのようなものを抱きながら、ぼんやりと惜しんでいる。なんだか絡まっているようだから、捕まえようとは思っていない。

今これは、詩を書くときに近い紡ぎ方で書いている。抽象性が

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シンプルであること

シンプルであること

最近、詩の投稿が滞っております。
少し思うところがあって、作風や表現方法、言葉の選び方を練り直ししつつ、やや意図的に、書いた載せたの直通運転をやめて各駅停車の運行をしています。当然、目的地に辿り着くまでに時間がかかるようになってしまって、けれどこういう時間も必要だと焦れる自分に言い聞かせながら、ぽつぽつと書き続けています。

作風の練り直し、と書きましたが、自分を完全に捨てることはもちろんできない

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アネモネが鳴く、散歩道

アネモネが鳴く、散歩道

玄関先のアネモネが綺麗に咲いていたので、大橋トリオ『アネモネが鳴いた』を聴きながら散歩をしています。大橋さんの歌詞は奥様が書かれているとのこと。柔らかく、美しい言葉が好きで、詩としても素敵だなと思います。

夕暮れはやさしい。歩調に、ゆるやかに流れていく景色が言葉をくれることが多くて、あるく、というのはとても好きです。景色と気分に合わせて聴いている音楽を変えていくと、いつも見ている景色も違う顔を見

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東京、22時。

東京、22時。

乗車している電車と並行して走る、すし詰めの車両を見ていた。今日一日を過ごしてきた人々の、疲れた顔が並ぶ。どの表情も、感情を押し込めた「のっぺらぼう」のようで少し恐くなる。東京、だけではないのだろうけれど、これがこの街の日常だ。そう感じてから、ふと思う。

のっぺらぼうだ、なんてレッテルを貼ってしまった彼らひとりひとりの、今日一日を当然ながら私は知らない。朝のラッシュに加え、夜にまで遅延によりパーソ

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