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mofi|映画・答え合わせ

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ハリウッド映画を中心に、新旧の映画の構造や効果を「答え合わせ」します。
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#映画

『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』:23年の隠れた名作アニメ

『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』:23年の隠れた名作アニメ

『Teenage Mutant Ninja Turtles: Mutant Mayhem』(2023年)★★★☆。

見る気にならなければ、見ない理由はいくらでも並べられる。が、見たら驚かされる。23年の隠れた良作。

先入観

絵作りは『スパイダーバース』の後追いや二番煎じと言う者もいるだろう。「ニンジャタートルズはいろんなシリーズ作りすぎ」と、ニコロデオンの節操のなさをなじる者もいていい。どれ

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『ゴジラxコング 新たなる帝国』:頭カラッポの方が(怪獣プロレスの)夢詰め込める

『ゴジラxコング 新たなる帝国』:頭カラッポの方が(怪獣プロレスの)夢詰め込める

『Godzilla x Kong: The New Empire』(2024年)☆・・・。

近年でも稀に見る知能指数の低さで…そんなことを恥じ入るべくもなく。どこまでも怪獣プロレスに徹する1時間51分。もうCHA-LA、HEAD-CHA-LA。

日本に限らず、アメリカの観客が『ゴジラ-1.0』をとびきり楽しんで評価するのも、わかる。ハリウッドがこれだけ割り切った代物を作っていると知れば、わかっ

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『ソルトバーン』持てる者、持たざる者の暗部(と局部)を露わにする怪作

『ソルトバーン』持てる者、持たざる者の暗部(と局部)を露わにする怪作

『Saltburn』(2023年)★★★・。
公開:2023年11月17日(北米→全世界)
IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia

恐ろしい。『太陽がいっぱい』(1960)あるいは『リプリー』(1999)に次ぐようなソーシャル・クライマーの暗躍。それを、2006年のイギリスを舞台に語る。

主人公のソシオパスぶりが激しい。激しくて、何度か鑑賞を止めかける。

オック

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『マエストロ:その音楽と愛と』模倣の技巧、物語の凡庸

『マエストロ:その音楽と愛と』模倣の技巧、物語の凡庸

『Maestro』(2023)★★☆・。
公開日:2023年11月22日(全世界)
IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia

技術・芸術的に強烈な一方、金太郎飴のような型の人物語り。

才能溢れる男女が出会い、女がキャリアを犠牲にし、男は仕事で開花するが自己を隠し通せず恋に溺れ、女は耐え忍び、衝突したあと帰ってくるが不幸せに。やがて死に直面して苦悩して寄り添い、事が終

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『終わらない週末』:終わった気がしない結末

『終わらない週末』:終わった気がしない結末

『Leave the World Behind』(2023)★★☆・。
公開日:2023年11月22日(全世界)
IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia

演出的にも技術的にも印象深いけれど寸止まりな印象を待つのは、明確には回収しきらない伏線もあるからだろう。その代わり、終幕後の展開を想像させるような余韻は残る。

民泊サイトを利用して郊外の豪華な一軒家を借りた白人家

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『ナポレオン』戦場も夫婦の営みも激しいスペクタクル

『ナポレオン』戦場も夫婦の営みも激しいスペクタクル

『Napoleon』★★☆・。
IMDB | Rotten Tomatoes | Wikipedia

たしかに、フランス史でも最も有名な人物史を英語劇で制作する不可思議さはある。配されたキャストはみな自身のアクセントで英語を話しており、主演のホアキン・フェニックスだけ、英語は英語でもアメリカ英語。形ではなくパフォーマンスを重視して、些事と処したのだろう。なにせ作中ではイギリスを相手取ることにもな

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『聖闘士星矢:The Beginning』がはじまらなかった理由

『聖闘士星矢:The Beginning』がはじまらなかった理由

『Knights of the Zodiac』★・・・。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

これは…脚色と脚本に罪がある。演出も、結果的にその尾を引いている。つまりは、それらを束ねるプロデュース面の欠損が決定的。

実のところ、主要なキャスティング、CG全般、そしてアクションはそれほど見劣りしない。真剣佑は、ともすればロロノア・ゾロ役よりもサマになっているし、

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『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』アメリカの血塗られた歴史を描く3時間26分

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』アメリカの血塗られた歴史を描く3時間26分

『Killers of the Flower Moon』★★★★。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

傑作。人の罪深さを問う、実話に基づく深遠な闇を見る。

これはFBIの創設秘話であり、アメリカ白人による人種差別と迫害の記録だ。組織的犯罪の原典的なストーリーでもあり、欲と無教養と倫理感の欠如がもたらす罪の濃淡を塗り分ける地獄絵だ。

語るのは、愚者、悪人、詐

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『ザ・クリエイター/創造者』は撮影の舞台裏が真の主役

『ザ・クリエイター/創造者』は撮影の舞台裏が真の主役

『The Creator』★★・・。
IMDB | Wikipedia | Rotten Tomatoes

作品的には長短入り混じる一本。というより、撮影の舞台裏の方が、ともすれば作品そのよりも興味深い一作かもしれない。

ハリウッド大作としては破格に安い制作費で、これだけの絵作りを実現したのは制作面の革命だ。8600万ドル(=現為替で130億円弱)は、アメリカであれば中堅のロマコメやドラマ映画

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ハートはありつつ情報過多『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

ハートはありつつ情報過多『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』

『Spider-Man: Accross the Spider-Verse』★★★☆。

1作目以上に目を見張る絵作り、物量、そして詰め込まれた展開。スタッフによる劣悪な仕事環境への内部告発が起きても尚、業界の賞賛により悪評がかき消されるのは娯楽産業らしい、勝てば官軍の世の理。

凝縮されているのに、20分長い。そして極めて現代的に忙しない。1作目を踏み台にしている分、すべてのカットが2秒早めに切

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『カメラを止めるな!』 忍耐の先に待つペイオフの充足感

『カメラを止めるな!』 忍耐の先に待つペイオフの充足感

『One Cut of the Dead』★★★☆。(4ツ星満点中、3ツ星半。)

監督および俳優養成スクール・ENBUゼミナール製作の長編作品が、単館上映で連日満員御礼という異例の人気を取得。口コミで公開館数が広がり、300万円未満で製作されたと言われる映画が億単位の興行収入を叩き出している。週刊誌で「盗作」の疑惑が持ち上がったものの、読み込めば「クレジット表記」の協議を要しているだけの模様。も

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濃厚で、精緻な人物研究『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』

濃厚で、精緻な人物研究『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』

『The Darkest Hour』★★★・。(4ツ星満点中、3ツ星。)

ルール:「答え合わせ」は「作品」と「個人」を切り離します。話すのは前者についてのみ。後者への批判はしません。

2017年は偶然にも、ウィンストン・チャーチルにまつわる映画が立て続けに公開された。本作はもとより、クリストファー・ノーラン監督作『ダンケルク』や、ロネ・シェルフィグ監督作『人生はシネマティック!』もあった。歴史

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のけ者たちへのアメリカ的な応援歌『シェイプ・オブ・ウォーター』

のけ者たちへのアメリカ的な応援歌『シェイプ・オブ・ウォーター』

『The Shape of Water』★★★☆。(4ツ星満点中、3ツ星半。)

ルール:「答え合わせ」は「作品」と「個人」を切り離してます。話すのは前者についてのみ。後者への批判は目的になし、です。

『パンズ・ラビリンス』『ヘル・ボーイ』『パシフィック・リム』のギレルモ・デル・トロ監督の最新作は、かつて数々のモンスターを題材にしたユニバーサル映画を彷彿とさせる時代物のファンタジーだ。BAFTA

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現代を象徴する愛の形をつぶさに描く傑作『君の名前で僕を呼んで』

現代を象徴する愛の形をつぶさに描く傑作『君の名前で僕を呼んで』

★★★★。(4ツ星満点中、4ツ星。)

ルール:「答え合わせ」は「作品」と「個人」を切り離してます。話すのは前者についてのみ。後者への批判は目的になし、です。

アンドレ・アシマン原作の同名小説を、『日の名残り』脚本のジェームズ・アイボリーと『ミラノ、愛に生きる』『胸騒ぎのシチリア』監督のルカ・グァダニーノが映像化した恋愛映画。1983年の北イタリアの田舎町を舞台に、イタリア系の少年と、アメリ

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