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現代を象徴する愛の形をつぶさに描く傑作『君の名前で僕を呼んで』

★★★★。(4ツ星満点中、4ツ星。)

ルール:「答え合わせ」は「作品」と「個人」を切り離してます。話すのは前者についてのみ。後者への批判は目的になし、です。

アンドレ・アシマン原作の同名小説を、『日の名残り』脚本のジェームズ・アイボリーと『ミラノ、愛に生きる』『胸騒ぎのシチリア』監督のルカ・グァダニーノが映像化した恋愛映画。1983年の北イタリアの田舎町を舞台に、イタリア系の少年と、アメリカ人の若者との間で芽生える同性愛を描く。

ゴールデングローブ賞をはじめ、アカデミー賞でも4部門でのノミネートを果たし、AFIの今年の映画10本にも選出される批評家絶賛の一本。制作資金は多国籍で欧州色の強い作品だが、大半が英語で展開することもあって北米でも好調な興行を実現している。現時点で全世界$18M弱(18年2月1日現在)は万々歳の数字だし、賞レースの先頭を走っている。数字的にも確実な成功作だ。

[物語]

1983年、北イタリア。10代の少年エリオ(ティモシー・シャラメ)とその家族が暮らす一軒家を、アメリカ人男性が訪問する。父パールマン氏(マイケル・スタールバーグ)と同門の学生オリバー(アーミー・ハマー)は、その日から6週間のあいだ、彼らと生活を共にすることになっていたのだった。ギリシャ彫刻のような出で立ちで自信に溢れ、それでいてカジュアルな様相のオリバーとの共同生活の最中、エリオは徐々に自らの新しい一面に気づいていく。

[答え合わせ]

興味、関心、嫌悪、反発、渇望、欲情、嫉妬、そして衝動。続くは愛の実感、反動、恐怖、困惑、喜悦、享受。最後に、愛の帰結と、それが引き起こす苦痛と余韻。『君の名前で僕を呼んで』は、人を愛することにまつわる感情のすべてを、ものの見事に表現する。傑作だ。

主人公エリオが抱くすべての感情は、数少ないセリフと、それらのセリフよりも饒舌なアクションに凝縮されている。いずれのパフォーマンスも、画角の広いレンズで、スチルに近い落ち着いたショットの数々で観客に手渡される。表情のアップは多くないが、ときおり織り込まれるパンやトラックショットを通して、キャラクターたちの感情を垣間見ることもできる。

各シーンが、キャラクターの外的な行動によって成立している一方、その行動が感情をつぶさに反映している点が、なにより優れている。カバレッジに頼るハリウッド的なヴィジュアル・ストーリーテリングとは一線を画す、素材を存分に活かした画作りだ。ショットの切り返しも少なく、環境の中にキャラクターたちが馴染む。

息づかいを感じさせる演出は、キャストのパフォーマンスを浮き彫りにしてくれる。『レディ・バード』にも登場したティモシー・シャラメには脱帽だ。斜に構えた外面と繊細な内面とのバランス感覚は、作り込んだとは思えないほどに自然。煽情的なシーンには、男女を問わず息を呑むことを疑うべくもない。ギリシャ彫刻を想起させるアーミー・ハマーは、アメリカ人とは思えないほどヨーロッパ人と馴染む衣装を着せられている点に難があるが、シャラメ演ずるエリオとの対照的な存在として見事なパフォーマンスを披露している。『シェイプ・オブ・ウォーター』でも重要な役割で出演しているマイケル・スタールバーグも、安定の父親像を提供する。思えば、本年度の名作たちにはキャストの重複が多い。いずれも目覚ましい活躍だ。

セットアップもさることながら、後半へ向かうにつれて描かれる物語こそ本作の見所だろう。恋愛の山場は、一夜を共にしたり、告白で相思相愛を確認し合うことだけでハッピー・エンドになるわけではない。肉体的に繋がったからこそ抱く恐怖、不安、そして喜びの形が無限にあることを、本作の脚本とパフォーマンスが描いている。

このご時世、恋愛の純粋さに着目するなら、障害の多さにおいて、同性愛やLGBTQ層のそれに並ぶものはないのかもしれない。現代性の象徴とも言える、瑞々しい芸術作品。

[クレジット]

監督:ルカ・グァダニーノ
プロデュース:ルカ・グァダニーノ、エミリー・ジョルジュ、ホドリゴ・テイシェイラ、マルコ・モラビート
脚本:ジェームズ・アイボリー
原作:アンドレ・アシマン
撮影:サヨムプー・ムックディープロム
編集:ウォルター・ファサーノ
音楽監修:ロビン・アーダング
出演:アーミー・ハマー、ティモシー・シャラメ、マイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール、エステール・ガレル
製作:Frenesy Film Company、La Cinéfacture、RT Features、M.Y.R.A. Entertainment、Water's End Productions
配給(米):ソニー・ピクチャーズ・クラシックス
配給(日):ファントム・フィルム
配給(他):N/A
尺:132分
ウェブサイト:http://cmbyn-movie.jp/

北米公開:2018年01月19日
日本公開:2018年04月27日

鑑賞日:2018年01月23日17:30〜
劇場:Pacific Theaters Glendale 18

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