村田亀餅

あること無いことを書く。 別ブログ:京都ぬるぬるブログ https://maternise.hatenadiary.jp/ 別ブログ2:採血の牛 https://kamemochi.hatenablog.com/

村田亀餅

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最近の記事

ドジっ子メイドの老後手前

 もともとアンバランスな身体でありますところへ赤いヒイルなど履くものですから、危なかしくフラフラ揺れる。あちらこちらへフラフラ揺れるものであるから、しょっちゅうお皿を割っては叱られお水をこぼしては叱られて、それにくわえてぼんやり屋さんであって、お給仕中に心がおさんぽに出かけては言いつけられたこともすぐに忘れる。はわわ。養成学校の同期メイドたちは次々就職先のおうちが決まってゆくのに、僕だけいっこうにどこからも選ばれませんでした。不器用でもそそっかしくてもせめて愛想なりとも良けれ

    • モモコ、姉になる

       ついに姉になりやがった―――。  モモコの嘘には既に馴れてしまったが、何故姉にまでなる必要がある?  母は呆れ果てながらしばらく、インターフォンの前に立ち尽くしていたという。  母が、最初に神田モモコの家を訪ねたのは、今から一年以上前のことになる。  初回、母は、その若い女に対して、別段何の印象も持たなかった。  モモコは、子供が急に熱を出して医者に診せることになったため、今あいにくお支払いできる持ち合わせがないのだと、済まなそうに説明し、後日、販売店まで代金を

      • 夫との馴れ初めについて

         夫との馴れ初めっすか? いやー。  いや別に内緒ってわけじゃないんすけど、なんか惚気みたいになっちゃうから恥ずかしいなー。いいですか?    いや、つまんない話すよ。最初は単なる友人で。たまに遊ぶかなー、くらいの。  あるとき、うちの家電が潰れたんですよね。ケーブルが切れかけてんのに使い続けてたら、そこから急に発火したんすよ。こわかったー。家燃えちゃうとこでした。  で、買い替えなきゃってなって電器屋についてきてもらったんです。彼は機械に強いので。ん? 男の人だから?――っ

        • 乳との生活(下)

          乳との生活(上)|村田亀餅 (note.com) より続 (シリーズ・乳と暮らす) (5)  乳との生活が始まり、半年が経った。最近では、人間だった頃の妻の姿を思い出すことも減った。人とはなんと順応し易いものだろう、ずっと昔から乳と暮らしてきたような気さえする。花のほころぶくらいから、乳を連れて散歩に出るようになった。深夜に近所の公園まで歩いたのが最初だった。昨年までは妻と見ていた公園の桜を、乳と見上げた。叢雲の隙から差す月明かりを受けた乳は、花見酒を飲んだわけでもないの

          乳との生活(上)

          (1)  マンションの方角に月が出ている。残業で遅くなった。この時間だと妻は先に帰っているだろう。ところがエレベータで部屋に着きドアを開けるが妻の気配はない。二人でIKEAで買った簡易な木製のテーブルは、まだ日中に西の窓から差した陽の名残でほんのりとあたたかく、そのあたたかさの上に、餅のような物体がぽんよりと載っていた。乳だった。  なぜ乳がこんなところにあるのか。よくできた玩具かジョークグッズだろうか、妻は手先が器用だから彼女がふざけて作った工作かもしれない、と思ってみ

          乳との生活(上)

          自意識れすとらん

           交差点の角にできたファミリーレストランは、おかわり放題のドリンク・バーが百円で頼めて店内が明るく気持ちがよいので、時々勉強をしにゆく。今日も昼過ぎから、卒論のための資料を携えて出かけた。隣に建つ昔ながらの小さな食堂にとっては新たに進出したこのチェーンのレストランはさぞ疎ましかろう、店の前でたむろするファミレス客への攻撃的文言が書かれた貼り紙の前をソソソと過ぎて、ファミリーレストランの階段を上る。  1Fが駐車場になっており、入口は2F。少々レジが混雑しており、ドアの外の踊

          自意識れすとらん

          人肌温感スマートフォン

           同じ床で、同じ夢を、見るための眠りに落ちたかと思った彼女が、つないでいた手をそっと離した。  不意にてのひらからぬくもりが離れたことで閉じかけていた俺の目も開き、どうかしたのかと隣を見遣ると、夜更けの闇の中スマートフォンの青い光が彼女の横顔を照らし、彼女の眼は一心にその画面に注がれていた。なんなんだよ、と思った次の瞬間、俺も半ば無意識にSNSを開きバズってるポストにぶら下がるコメントを延々スクロールし、むかつく知らんやつにリプライを飛ばしていた。  2008年、日本でiP

          人肌温感スマートフォン

          どろぼう

           麦藁帽の老女。私。杖をついた老女。三名が順番に乗り込み扉が閉まろうというときに、 「ああ~ん、閉めちゃダメえ、待ってえ、乗せてえ」  と若い女が乗り込んできた。  妙に色っぽい発声だ。小さな駅のホームと改札階を行き来するだけのエレベータであるが、逃したら二度とは来ない天国行き列車が出てしまうかのように、大仰に息を切らしている。その芝居がかった一連の態度に反し、女はごく地味な風体だった。  四名の女はエレベータの四隅にそれぞれ収まり改札階への到着を待った。四方を守る守り神のよ

          ゴキブリ

          「うわあっ、びっくりした! ゴキブリだと思ったら斉藤さんでしたか!」  午前3時、左隣で寝ていた男が両手で私を押しのけて飛び起き、大きく見開いた目を伏せた後でハアハアと呼吸を整えながら言った。  他人の家では深く眠れぬ私は、断続的に浅く眠っては覚醒してを繰り返し、ちょうど目を覚ましていたところだった。  それにしてもひどい台詞ではないか。  仮にも恋人と呼ばれる相手から、「ゴキブリだと思ったらあなただった」と誤認される人間がどれくらいいるのだろうか、念のため注記すれば彼は無

          巨大生物の夏

           日の盛りは過ぎたが16時半の屋外はまだ暑い。夏期講習で子どもたち相手におしゃべりをし続けた後、数駅離れた電器屋街まで徒歩で来たので汗ばんでいます。  今日の授業でも、おしゃべりの最中にフワッとしてしまった。  生徒たちにはたぶんばれていませんが、講義の途中にふと、自分がウソをついているような気がしてしまい、そうすると、口から出ることばが自分から剥離して足元が傾く感覚が起こります。核分裂に続く細胞質分裂では、動物細胞の場合は細胞膜がくびれますが、植物細胞の場合は細胞板が形成さ

          巨大生物の夏

          ワールズエンド老人会しりとり

            どうやら世界は終わるらしい。  というフレーズで始まる話をいくつ読んだだろうか。物理書籍で電子書籍でどこの誰が書いたとも知らないインターネット上の拙い投稿小説で。いつもなんだかよく分からない理由でご都合主義的に世界が終わった。  ともあれどうやら世界は終わるらしい。  本当にそのときが来たならどんな気持ちになるんだろうとこれまで幾度となく想像した。実際は、虫歯があるだろうなあと思って歯医者に行ったら案の定虫歯になっていたときのような、勉強していないテストで赤点を取ったよ

          ワールズエンド老人会しりとり

          ホル子のブラジャー紹介(最終回)25年間綺麗なままのブラジャー

           ブラジャーにはいつか終わりが来る。肩紐やアンダーのゴムが伸びてきたら、それが終わりの合図です。程なくサイドベルトの生地が薄くなってくるので気をつけて。それがやんだら、少しだけ間をおいてカップがなんかベコベコしてきます。(……このネタってまだ通じるんかな?)  さて終わりになったブラジャーをどのタイミングでどのように捨てるか、はなかなか難しい問題です。捨てかねてベコベコになりヘナヘナになったやつを未練がましくまだ箪笥の奥に残していたりもする。下着というものの性質上普通に捨て

          ホル子のブラジャー紹介(最終回)25年間綺麗なままのブラジャー

          ホル子のブラジャー紹介(8)パステルカラーのキキララブラとファンシーをめぐる色々

           今回は、前回の大人下着から一転ファンシーなやつ。つやつやサテン地にキキララがプリントされていてパステルカラーに白レース。なんと可愛いのか。大人下着が夜の鱗翅目であるとすれば、ファンシーブラはラウンド菓子のケースに詰まったコットンキャンディー。ええ大人がキキララはどないやねんと思う向きもあろうけれど、見えない下着ならどんだけファンシーでもよいでしょう。いや別に見える服でもええと思う、「大人がファンシーでドコが悪いねん(註)」である。(註:昔の関西ローカル番組内のコーナー名に「

          ホル子のブラジャー紹介(8)パステルカラーのキキララブラとファンシーをめぐる色々

          ホル子のブラジャー紹介(7)深い青の大人下着

           なぜ人は大人になると鱗翅目のような下着をつけるのだ。  伝わりますかね、豪奢なレースや刺繍で彩られた貫禄ある下着、だいたい派手な色でギラギラしてるやつ。あれを「大人下着」と呼んでいる。大人下着は夜の蛾のよう。大人下着は鱗粉を散らす。深い濃青に惹かれて買ったこのブラジャーは、30歳になる頃に大人下着屋で買った大人ブラである。カップを覆うレースの光沢とその縁を飾る花弁の繊細さに、「大昆虫展」ではじめて熱帯のモルフォ蝶を見たときのように目を奪われた。少し高価であったけれど、 「も

          ホル子のブラジャー紹介(7)深い青の大人下着

          ホル子のブラジャー紹介(6)桜色の刺繍のブラジャーとピンクという色

           所有しているブラジャーの色を調べてみたところ、黒とピンクがツートップだった。ただし、黒は(素材や柄の違いはあれ)同じような黒だけど、ピンクは一口にピンクといってもヴァリエーション豊か。  今日のイラストのブラジャーは桜色。生地に同色のレースと同色のチュールが重ねられ、チュールに光沢ある糸で細かな刺繍が施されています。生地の桜色とパイピングの若草色の配色も、春めいた優しい気分になるね。馴れない土地に引っ越した頃、なにか心和むものを買いたくて買ったブラジャーです。  そんな優し

          ホル子のブラジャー紹介(6)桜色の刺繍のブラジャーとピンクという色

          ホル子のブラジャー紹介(5)黒

           ゴトウユキコの漫画『R-中学生』に、黒いブラジャーの副級長が出てくる。なぜかいつも黒いブラが制服に透けている。強くてカッコいい彼女はアホな男子のセクハラにも怯まず毅然とやり返す。ある男子は「中2で黒って…!!」「エロ!」とニヤけ、ある男子は戸惑いつつ胸をときめかす。黒いブラジャーというのは、単にカラーバリエーションのひとつであるはずだがなんか特別らしい。なんか大人の象徴らしい。私も10代の頃の黒ブラの思い出を書こう。  ある日ホル子は、気の進まぬドライブデエトに誘われた。

          ホル子のブラジャー紹介(5)黒