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閑文字

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詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
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#創作

蝶々夫人

詩です。

朝くつひもを結ぶときは左右左右の順番で
必ず蝶が二匹連続になるようにするの
ときみは言う
一匹ずつのぼくのことをきみは
蝶がかわいそうだと思わないのかと叱る
まったく思わないのだけれどぼくは
二匹連続になるようにして
一緒に桜を見に行く春を
積み上げている

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小田急線新宿駅

詩です。

いきなり見ず知らずの人を
殴りたくなってしまう
飛んでいた蚊に対して
いきなり向けてしまう凶暴さが
許されている気がしているのがこわい
温い深海のようなざわめきのなか
ノイズキャンセリングで
ぼくの名前を呼ぶ声も聞こえていなかった

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ネオンライトは夜の味方

詩です。

部屋を暖めるストーブが
苦しそうに熱を吐き出す傍で
裸で抱き合っている人たちがいる
窓から三日月を見て
あれは神様がまぶたを閉じている状態だから
見つからないうちにキスしようって言った
RとLの発音をなんどもなぞるような動き
世界にいまボクらしかいなかったら
世界には愛しかない

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飛びたいと願わない日はない

詩です。

紙の上にデスクライトに焼かれた虫が落ちてきた
のたうちまわる黒い点は雲の上の存在から見えるわたしだと思った
紙を汚さないように
ティッシュにくるんでから指先で圧し潰す
夢という坂は鑢になっていて素足のままで行かねばならない

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詩です。

さくらはどこで咲いたのか分からなくても
風に乗っていつのまにか髪にまぎれ込む
ウグイスがどこで鳴いたのか分からなくても
目を覚ます合図としてあたりをゆらしている
しかしあそこで咲いているとすぐに気づける躑躅は
鼻先を近づけないと香りを知ることができない
いつのまにか持っていた嫉妬心も
やっとの思いで手に入れた歓喜も
感情のすべてが生まれている春

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ハンバーガー

詩です。

ハンバーガーを食べているとこ
見せられないのが恋
いつもはママと来ているラゾーナが
きょうはコロッセウムのようで
勝とうとしようしている時点で
負けているようで

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イレギュラー

詩です。

美しい傘立てがビニール傘であふれて醜いので
しっかりした折りたたみ傘を一本買って
いつも鞄に入れるようにしていた
その折りたたみ傘を、
今日にかぎって忘れてしまった
空は神様が恨みを込めて
かき混ぜて作った
極悪のメレンゲのような雲で
埋めつくされている
雨が放たれる
雨は人体にインクのように
飛び込んで煙のように溶けていく

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無色

詩です。

お風呂はいいな、ひとりになれるからいいな
毛とか生えててきもちわるい脛だから、
ゴールデン・レトリバーも寄ってこない
ひじきみたいに揺れている
うねうねと昇っていく湯気
あ、乳白色の浴室の天井から黒色透明の
蜜が垂れている
宇宙が溶け出したみたいに
いったいぜんたいどこにこれだけの
量があったのかと思わせる
白い鎧の歩兵の密集体形に
黒い騎馬隊が錐形で突撃する
どこかから叫喚と叫喚がぶ

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買えるよ

詩です。

よろこびは買えるよ。いかりは買えるよ。かな
しいは買えるよ。たのしいは買えるよ。
だいすきは買えるよ。きもいは買えるよ。い
らつくは買えるよ。とうといは買える
よ。ふあんは買えるよ。きもちいいは買える
よ。やさしいは買えるよ。かわいいは
買えるよ。くるしいは買えるよ。ころして
やるは買えるよ。おもしろいは買えるよ。
さびしいは買えるよ。かしこ
いは買えるよ。したしいは買えるよ。
わりと

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ヒーローに救われたことがあるヤツは、ヒーローじゃない

詩です。

バスタブが世界一安全な場所なんです
かくれんぼをしたときはすぐに見つかってしまいましたけど
ムジャキなドキドキを、ポツポツと咲かせながらうずくまっていると、外では、
ゆでたまごが降っている音がしたんです
そうです 殻は剥いてある、つるつるホワイトなやつです
重なりに重なったカサカサな枯れ葉の上に
とすん、とすん、と落ちているんです ほとんど一定で
いま、同じ場所で頭からシキブトンをかぶ

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案山子

詩です。

足を下ろそうとすると
そこにはタンポポがあるから待って、
と言われて
下ろす場所を変えようとすると
そこにはアリさんの行列があるから待って、
と言われて
また変えようとすると
そこにはオレンジのBB弾があるから待って、と言われて
また変えようとすると
そこらへんにコンタクトが落ちてるから待って、と言われて
右足は地面と再会することはないまま
ぼくは案山子になった

あれはオタマジャクシ

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今はだいたい充電式

詩です。

桜は壊れながら旅をする
今年もキレイねぇ、と言っているばあちゃんがとても残酷に見えた
月の光は破損箇所から漏れ出ている
だんごを食べる暢気さなんて到底持つことができない
桜も月も、きっと充電の回数は増えている一方だろう
昔より遠くまで行くことができなくなって、
昼まで寝ていられることもなくなって、
食べられるカルビの枚数も減っていく
ここでの儀式は、一人を生贄にするものから
五歳の身体

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春を待つ

詩です。

朝、くつひもを結ぶときは、
左、右、左、右、の順番で
必ず蝶が二匹連続になるようにするの、
ときみが言った
ぼくは一度試したきりやることはなかったのだけれど、
蝶々夫人だね、と言って手を繋ぐようになった
 
けんかはだめ、と言いながら
オーバーオールを着た幼子が
蝶の交尾をちぎっていた
蝶たちは紙きれのように風に飛ばされていった
 
きみが電柱の陰によけてくつひもを結び直すときは
左、

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教室で山下さんが膨らんだ

詩です。

先生から見て二列目の一番後ろに座っているから、
五列目の前から二番目の山下さんが
膨らんでいくのがはっきり見えた
なにがあったのかな? 夏休み明けだからかな?
教室には数学の小テストに集中する空気が満たされているから、
弾け飛んだワイシャツのボタンが
メダカの生きている水槽を叩く音は流された
山下さんが蛍光灯に耳をこすらせている頃
加藤と桜井と岡本さんの姿が見えなくなった
ぼくは久しぶ

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