一陽

私が書き起こしたこれまでのテクスト、これから書き起こすであろうテクストを、ここに置いていこうと思う。 人の目に触れようこともあるのかも知れない。触れなくともそれはそれでよい。唯、私がこの現世(うつしよ)を生きたというわずかな証となれば.. performer

一陽

私が書き起こしたこれまでのテクスト、これから書き起こすであろうテクストを、ここに置いていこうと思う。 人の目に触れようこともあるのかも知れない。触れなくともそれはそれでよい。唯、私がこの現世(うつしよ)を生きたというわずかな証となれば.. performer

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絶対なる存在から距離をおいた者

絶対なる存在から距離をおいた者は 不安と孤独の中に生きる Ceux qui s'éloignent de l'existence absolue  vivent dans l'anxiété et la solitude Ichiyoh 目次「ある詩人の旅」 ● Parisに魅了されて● ある詩人の旅 1. ● ある詩人の旅 2. ● ある詩人の旅 3. ● ある詩人の旅 4. ● ある詩人の旅 5.  ● ある詩人の旅 6.   ● ある詩人の旅 7.

    • 焦燥の扉

      焦燥の扉    大地を沸騰させるような、激烈なる夏の陽光に射られ、石灰質の橋梁の下を歩み続ける男がいた。  蒼白な男の顔からは、無為なる時の流れへの、重くけだるい憂愁の想いを読みとることができた。白霧の中を漂うような、不明瞭なる生への絶望と、悪寒を伴う対象のない怒りは、男の脆弱な内蔵をえぐり、起立していることさえ危ういものとしていた。  湿った土塀を木の槌で打つような鈍く低い音が、男の体内に不規則なリズムをもって鳴り渡る。半透明の不思議な夏ゼミのように、空虚なる男の体に

      • 七月の老人(物言わぬ人)

        七月の老人(物言わぬ人) 七月の蒼穹 静かなる村にひびく 優しき渡り鳥の歌声 遠い南の国の出来事を語る 鳥たちの囀りに そっと耳を傾ける 老爺 柔かな風は 木漏れ日を揺らし 甘く涼しげな香りが 肌を撫でる
 喜びや哀しみ ときめきや落胆・・・

 夢と現に彷徨う 彼の人の 時を照らし続けた 燭台の灯が 今 静寂の中に 消えゆこうとしている 高台の鐘は 遠き国へ旅立つ男の魂を讃え 庭に揺らぐ 薄紫のツルハナナスの花が 物言わぬ人の顔を じっと見つめ続けてい

        • 浮遊する男

          浮遊する男    大都会の大きなカフェに座っていた。  もうどれほど其処に座っているのだろうか。自分を取り巻く風景も、街路を忙しく行き交う人々も、彼の網膜には曖昧な陰影としてしか、映し出されてはいなかった。  意識は其処に無かった。何かまとまりのない想いが頭の中をグルグルと駆け回り、自分自身を、なにやらはっきりとしない、頼りなげなものとしてしか感じられていなかった。  男は、断片化された時間の流れを、不連続につなぎ合わせた日常の中に生きていた。その為、いつも自己不在の感

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        絶対なる存在から距離をおいた者

          解題「点滴と涙と見まごうほどの常無常に落ちる虚空を」

          解題「点滴と涙と見まごうほどの常無常に落ちる虚空を」 ”Sûrréalisme_Automatisme(自動筆記)による詩作の試み 「点滴と涙と見まごうほどの常無常に落ちる虚空を」
” 1970年の秋日 あの日私は確かに旅立とうとしていたのか? 新宿風月堂の2階の椅子に私は座っていた そこが私の数少ない安堵の場所であった ウエイターが運んできた薄いコーヒーを口に含みながら、私は逡巡していたのであろう カバンの中から取り出した小振りの薬瓶の中身を、コーヒーの皿に全て空け

          解題「点滴と涙と見まごうほどの常無常に落ちる虚空を」

          寡黙なる隊列

             寡黙なる隊列  浮遊する都市の影を  白髪の少年達が追う     高く掲げた両の手に  天空からこぼれ落ちる  時の雫を受け止め   駆けのぼる摩天楼の屋上から  砂嵐の谷へと身を投げる   無情なる黄灰色の霧に覆われた  (basalt)玄武岩の峡谷には   生臭い息を吐く  獣達が群れ成し   福音の衣を纏った   少年達の隊列に襲いかかる   古の大地を駆け抜けて来た巨大な風は  苦悩と混沌を運び込み   深紅のバラの血を  其処此処へと撒き散らすのだった

          寡黙なる隊列

          ピアノ

          ピアノ  街のはずれに、その建物はあった。人影が絶えて久しい、古ぼけた石の館は、その外壁をすっかり野生の蔦に覆われ、まるで人が近付くのを拒むかのように、ひっそりと其処に建っていた。 赤く錆びついた分厚い鉄の門扉には、荘厳なバラのレリーフがほどこされ、かつての住人の威光をかいま見ることができるのであった。  柔らかな陽射しに包まれた、春の日のある朝、男はその門の前に佇み、館から漏れ聞こえる透明なガラスのようなピアノの音に、耳を傾けていた。  やがて男は、その音色に捕らわれ、

          ピアノ

          混沌あるいは崩壊 ⑶  死

          死 緑の草原が森へと連なる丁度その境目に、赤瓦を葺いた小さな丸太小屋が、家畜小屋と並んで建っていた。  小屋の後の森を棲家とする鳥たちは、東の空が漸く白みかける頃から目覚めの唄を歌い出す。  この小屋にもう幾十年も一人で暮らす男は、彼らの歌声で毎朝目を覚ますことに、この上もない幸せを感じていた。まるでヴィヴァルディのLe Quattro Stagioni の La Primavera 2楽章を聴くように・・・。  この小屋を訪れる者が絶えて、既に10年以上が経つであろ

          混沌あるいは崩壊 ⑶  死

          オテル レ ドゥグレ ドゥ ノートルダム 2/2

          愛しきパリの想い出 Hôtel Les Degrés de Notre-Dame 2/2 (Hôtel Les Degrés de Notre-Dame 1/2 より続く)  「晴れた日には、ノートル・ダム寺院の裏手の公園に出かけ、ベンチに腰掛けて本を読んだり、セーヌの川沿いの古本屋をひやかしながら、ゆっくりと散歩をします。いえ、晴れた日ばかりではありません。雨の日も私はセーヌの川沿いを散歩します。雨の日のセーヌはうれいを含み、私には一段と美しく思えて大好きです。  散歩

          オテル レ ドゥグレ ドゥ ノートルダム 2/2

          オテル レ ドゥグレ ドゥ ノートルダム 1/2

          愛しきパリの想い出 Hôtel Les Degrés de Notre-Dame 1/2  大通りの喧騒から隔離された裏通り、rue des grands Degrés の静寂の中に、ひっそりと佇む 、古びた小さなホテルがある。レ ドゥグレ ドゥ ノートルダム、このホテルの2階の窓を開け放ち、私は道を隔てた小さなカフェに座る犬を連れた女性を、先程からずっと見つめ続けている。  白地に、小さなピンクの花柄を散りばめたワンピースを身に纏い、透き通るような腕を、すっか

          オテル レ ドゥグレ ドゥ ノートルダム 1/2

          混沌あるいは崩壊 ⑵  水

          水 地の底深く、誰も足を踏み入れたことのない闇の洞窟に、男の魂は導かれ、透明な肉体を石灰岩の台座に横たえる。  ゆっくりとしかし正確な間合いをおいて、洞窟の天井からぶる下がる石灰柱を伝わり、ごく小さな水滴はしたたり落ちる。  もう幾万年という年月の間、この小さな水滴は、まるで水琴のような、えもいわれぬ心地よき音を、あたりに響かせ続けてきたのであった。  男の透明な肉体と魂は、安らぎの中に浸る。  ひとしずくの水滴は地底の池に蓄えられ、岩の亀裂の隙間から更に奥深くの、人知れ

          混沌あるいは崩壊 ⑵  水

          混沌あるいは崩壊 ⑴   人

           人  街中の道路に面した大きなカフェに座って、男は先ほどからあたりを眺めるでもなく、人々の陰影を曖昧な視線で追っていた。  多くの人々が彼の前を通り過ぎて行く。  颯爽と胸を張って歩く若者。  せかせかと忙しそうに歩くサラリーマン。  悩みでもあるのだろうか、うつむき加減に背を丸めて通り過ぎる中年男。  ぴったりと体をくっつけて、自分たちの世界にひたりきって歩く男女。  自転車に荷物をいっぱい載せてよろよろと走る中年女。  子どもを叱りながら歩く母親。  様々な人間模様

          混沌あるいは崩壊 ⑴   人

          1970年代の散文8 椅子の空白

          椅子の空白    白壁に向かう椅子の空白に、耳をそばだてる日々が、幾日となく続く。  部屋を飛び交う魚達の口許に滴る蒼黒い血は、えぐり出された私の心臓から流れ出たものだ。 終日陽は輝くことを拒み、腐臭漂う闇が私を包む。 ひび割れた眼球から伸びる針金は螺旋を描き、荒れすさむ海の彼方、沈みゆく難破船のマストに絡みつき、かすかなうなり声を上げる。  人食い鮫の歯ぎしりは乙女の華麗な涙を誘い、少年の血を吸った緑の海草は、心地好さそうに、海底にゆらゆらと揺らめき踊る。  

          1970年代の散文8 椅子の空白

          1970年代の散文7 風

          風 生誕の喜びにも似た、蒼い風の一吹きが、貴女のガラスの胸をそっと撫で、 木立のざわめきの中に姿を消す。    ひとひらの羽の舞いに、語りかける言葉は踊り、 地上へ緑の影を投げかける。 私の歩む路のかなたに貴女はたたずみ、草原からもれ聞こえるオルガンの音に抱かれる。 時の叫びは、ある時は悲しく、ある時は優しく、私たちを取りまいていく。 さあ、樫の木の椅子にお座り、柔らかな若草を敷いて。 差し出された貴女の白い腕は、絹の肌をまとい、降り注ぐ陽光の中に溶け込んでいく。

          1970年代の散文7 風

          予感

          予感 生ある者が語るべきことではないのかも知れない。 だが何の脈絡もなく、「うつし世から去ってしまおうか」と云う衝動にかられるのは、己の身勝手からなのであろうか。 はたまた思いもかけずここまで永らえてきたこの身を、この先どう処するかと云う自らへの問いに対する、空しきひとつの解なのであろうか。 この世から滅する事が恐怖なわけではない。 永らえる事が不安なのだ。 ここで私は、自ら意を持って踏みい出す一歩を、逡巡する。 深夜の闇の中で、夜毎繰り返される心のざわめきと胸苦し

          1970年代の散文6  逃亡者

          逃亡者 薄暗い部屋で、病に侵されたこの身が息絶えるのを、私は喜びと感じなければなるまい。 何故なら息することの悲哀は、死することへの怖れよりも、はるかに耐え難いものであるから。  晴れやかな娘たちの笑い声に、私は思わず耳をふさぐ。 私には眩しすぎるのだ。  暗闇の中で、薄汚れた白壁に向かう日々が幾日となく続く。  虚ろに開かれた私の眼には、追憶と悔恨しかもはや映らない。 「未来という言葉には、希望という香を感ずる。」と誰かが言った。  でも私には破滅しか残されていない

          1970年代の散文6  逃亡者