予感
予感
生ある者が語るべきことではないのかも知れない。
だが何の脈絡もなく、「うつし世から去ってしまおうか」と云う衝動にかられるのは、己の身勝手からなのであろうか。
はたまた思いもかけずここまで永らえてきたこの身を、この先どう処するかと云う自らへの問いに対する、空しきひとつの解なのであろうか。
この世から滅する事が恐怖なわけではない。
永らえる事が不安なのだ。
ここで私は、自ら意を持って踏みい出す一歩を、逡巡する。
深夜の闇の中で、夜毎繰り返される心のざわめきと胸苦しさに、私は押し潰されそうになり、深く息を吐き出すのだ。
だが頭の中を駆け巡る生からの離脱への想いは消えることなく、私を混沌の中へと引きずりこむ。
拭っても拭い切れぬこの想いは、ある時私を彼の地に連れ去るのであろうか。
私だけではない。幾千幾万という人々が同じような想いに駆られ、旅立って逝ったという事実が目の前に横たわっている。
逝く刻を待ち続ける者に遺されたものは、果たして何であったのであろうか?
胸中に溢れるこのえもしれぬ憂愁の想いを語る相手も見いだせず、ただ悶々たる日々は虚しく流れ、錆びた鏡の向こうに佇む我が姿に慄然とする。
残された刻を我が掌に弄ぶのか、あるはまた、自然(じねん)の中に置き捨てておくのか、終わりなき無為なる問いが果てしなく続く。
2021/3 /à Tokyo 一陽 Ichiyoh
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