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シンデレラの策略(童話アレンジ)

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童話シンデレラをアレンジした恋愛小説。したたかな少女の野心と、それに翻弄される2人の男性の行く末とは?長編【完結】
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2021年1月の記事一覧

シンデレラの策略23-1: 王子の求婚

舞踏会最終日。エラは城へ行かず、屋敷にこもって王子からの手紙を待っていた。いつ使者が訪れてもいいように、身だしなみはきちんと整えている。エラの傍にはギルバートが、いつもより一層無表情で控えていた。 「…来ると思う?」 エラが窓の外を見ながら、少し不安げに訊ねる。ギルバートは「はい」とも「いいえ」とも答えず、ただ伏し目がちに給仕を続けた。 空の色がオレンジから紺色へと変わっていく頃、何者かが屋敷の扉を叩く音がした。音は昨晩と違い控えめで、数度鳴らされたあと静かになった。

シンデレラの策略23-2: 王子の求婚

馬車が城に到着すると、エラとギルバートは別々の部屋に通された。エラが案内された部屋に入る直前、ギルバートは彼女を呼び止め耳元で囁いた。 「何かあったらコインを投げてください。必ず駆けつけます」 「…分かったわ」 ―私、どうしたのかしら。リチャード王子と街で初めて会ったときより、ずっとドキドキしてる。 エラは動揺をギルバートに悟られないようあえて無表情で頷き、部屋の中へ足を踏み入れた。 ―きっと、計画が上手く行きすぎて興奮しているのね。 実際、エラは今までになく気分が

シンデレラの策略23-3: 王子の求婚

エラが部屋に案内されていくらか経った頃、舞踏会を抜け出してきたリチャードが部屋の前で息を整えていた。 もうすぐエラに会える。そう思うだけで胸が高鳴るのを自分でもおかしいと思う。まるで初めて恋に落ちた少年のようだ。 ―いや、それもあながち間違ってはいない。幼い頃一緒に遊んでいた時分、私はあの少女にほのかな恋心を抱いていたのだから。 リチャードの記憶の中で、明るく活発な少女の顔がエラのものと重なる。その想像だけで彼の心臓はより一層大きく脈打った。 リチャードは大きく一つ深呼吸

シンデレラの策略24-1:決別

エラはリチャードからの求婚を帰りの馬車でギルバートに伝えたが、返ってきたのは「おめでとうございます」の一言だった。普通の主人と執事の関係なら、その程度で良いのかもしれない。しかしエラは物足りなさを感じていた。 ―もう少し何かあってもいいんじゃない?長い間一緒にいて、お父様やお母様が亡くなったあとは唯一信じられる存在だったのに。それとも、ギルバートにとって私はただの雇い主に過ぎないの?お母様の娘だから、恩を感じて未だに仕えていてくれるだけ? 「雇い主に過ぎない」というのは今

シンデレラの策略24-2:決別

どれくらいたったろうか。扉をノックする音でエラは顔を上げた。この屋敷にいるのはエラの他に一人しかいない。 エラはリチャードからの求婚後、ギルバートと話すことを何となく避けていた。今顔を合わせるのは気まずいが、無視するわけにもいかない。結局ギルバートが入って来るのを待った。 手入れの行き届いた服装に、なでつけられた銀髪―ギルバートはいつもの姿で一礼した。しかし普段と違い、目の下に深いクマができている。ギルバートの顔からは、苦悩とそこから来る疲労がありありと見て取れた。 ―どう

シンデレラの策略25-1:最終婚約者選び

いよいよ最終婚約者選びの日になった。いつも傍にはギルバートがいたが、今日はエラ一人だ。迎えの馬車に乗り込むあいだ、エラは一言も話さなかった。 馬車が城に着いたとき、エラを出迎えたのはリチャードだった。 「まずいことになった」 開口一番、リチャードは苦虫を嚙み潰したような顔で言った。今日のリチャードは舞踏会のときと違い、装飾の少ない動きやすそうな服装をしている。エラは心の中でこちらの方が彼らしいと思った。 「リチャード王子、わざわざお出迎えありがとうございます」 エラの

シンデレラの策略25-2:最終婚約者選び

大広間に案内された直後、最終婚約者選びを始める合図が出されるとすぐに、后の口添えでローズマリーは王の前に進み出た。 「王様、無礼をお許しください。大事な最終婚約者選びの前に、どうしてもお伝えしたいことがございます」 王は軽く頷き、ローズマリーに先を促した。 「私の口から申し上げるのもはばかられますが、エラ様のご両親はすでに他界されており、長いあいだ義理のお母様と二人のお姉様たちと共に住まわれてきました。しかし、最近になってエラ様はご自分こそがベーリング家の後継者であると

シンデレラの策略25-3:最終婚約者選び

事態は暗礁に乗り上げた。両者に主張の食い違いがあり、確固とした証拠も存在しない。一方には王子が、もう一方には后がついている。王としては王子の婚約者選びをオーリーに一任していたこともあり、エラの方を信じたい気持ちがあった。しかし、后の存在は無視できない。 ―どうしたものか…。 王は腕組みをして考え込んだ。 「王様、私もお伝えしたいことがございます」 リチャードが王の前に進み出て、ローズマリーとは離れたところに膝まづいた。 「申してみよ」 「はい。エラ・ベアーリングが嘘

シンデレラの策略26-1:秘密の暴露

騒動の後、一旦エラは屋敷へ戻ることにした。リチャードは心配して引き留めたが、結婚式の前に屋敷の中を整理しておきたかったのだ。 晴れて自分のものになった屋敷で、エラは深く椅子に腰かけて感慨に耽っていた。 ―ついに取り戻した。私の家、私のすべてが詰まった場所。あの人たちが帰って来ることは、もう二度とない。私はやっと自分の居場所を取り戻した。 安堵のため息が独りでに漏れる。復讐を成功させたエラは、しかし、心の中にぽっかり穴が開いたように感じていた。 ―変ね。どうしてこんな気持

シンデレラの策略26-2:秘密の暴露

リチャードの助力のおかげで、屋敷は元のような活気を取り戻しつつあった。使用人も新しく雇い、新しい執事もすでに働いている。主人であるエラは数日後に妃として城へ上がるため、後のことはその執事に任せることになっていた。 「ご主人様。お客様がお見えです」 新しい執事は初老の恰幅の良い男だった。リチャードの紹介で来た彼は、もともと別の貴族の屋敷で働いていたらしい。柔らかい物腰と柔和な笑顔はギルバートにはないものだったので、エラにとっては新鮮だった。 「どなた?」 執事は言いにく

シンデレラの策略26-3:秘密の暴露(noteバージョン)

「ときに、この屋敷の元執事が殺人者であることをご存知?」 「…は?」 エラは思わず聞き返した。突然、何を言い出すのか。 「その様子だとご存知ないようね。ギルバートという執事は昔、我が一族の先代当主を森で殺害したの。先代のホスウェル様は私の伯父、お后様のお兄様であらせられるわ」 「…何をおっしゃっているか分かりません」 「ふふふ。私も最初聞いたときは驚いたわ。でも、本当らしいの。我が家に昔から仕えている用心棒が、今回私の護衛で城について来てくれたのだけれど、そこで彼を偶