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シンデレラの策略25-1:最終婚約者選び

いよいよ最終婚約者選びの日になった。いつも傍にはギルバートがいたが、今日はエラ一人だ。迎えの馬車に乗り込むあいだ、エラは一言も話さなかった。
馬車が城に着いたとき、エラを出迎えたのはリチャードだった。

「まずいことになった」

開口一番、リチャードは苦虫を嚙み潰したような顔で言った。今日のリチャードは舞踏会のときと違い、装飾の少ない動きやすそうな服装をしている。エラは心の中でこちらの方が彼らしいと思った。

「リチャード王子、わざわざお出迎えありがとうございます」

エラの礼儀正しい挨拶が終わるか終わらないかで、リチャードは彼女を抱き寄せて囁いた。周囲の使用人たちから歓声が上がる。

「ローズマリー・グレイを知っているか?彼女があなたの継母とその娘二人を連れてきている」

はたから見れば恋人たちの甘い場面だが、実際はそんなものではない。エラは軽く目を見開きリチャードを見つめた。至近距離で見るのは舞踏会の日以来だが、美男子だとは思うもののそれ以上の感情は湧き上がらない。エラは反射的にギルバートを思い浮かべ、全身が熱くなるのを感じた。

「できるだけ時間が欲しい。私を信じて耐えてくれ」

リチャードはそれだけ言うとエラから離れ、兵士数名を連れて城の中へ入って行った。足早に去っていく後ろ姿をエラはしばらく呆然と見つめていたが、侍女に声を掛けられる前に立ち直った。

―厳しい道になるとは思っていたけれど、早速ね。リチャード王子は時間が欲しいとおっしゃっていたから、きっと策があるはず…今はその言葉を信じるしかないわ。

エラを気を取り直すと、侍女に案内されて大広間へと向かった。

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蒼樹唯恭
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