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シンデレラの策略25-3:最終婚約者選び
事態は暗礁に乗り上げた。両者に主張の食い違いがあり、確固とした証拠も存在しない。一方には王子が、もう一方には后がついている。王としては王子の婚約者選びをオーリーに一任していたこともあり、エラの方を信じたい気持ちがあった。しかし、后の存在は無視できない。
―どうしたものか…。
王は腕組みをして考え込んだ。
「王様、私もお伝えしたいことがございます」
リチャードが王の前に進み出て、ローズマリーとは離れたところに膝まづいた。
「申してみよ」
「はい。エラ・ベアーリングが嘘をついていないという証拠はございませんが、同様に義母が真実を話しているという証拠もございません。そこで、今このことについて審議するの時間の無駄だと思います。まず、最終婚約者選びを進めてみてはいかがでしょうか?」
「まあ、それこそ時間の無駄です。証人が三人もいるのに、どうしてベアーリングの主張が正しいと言えて?それこそが証拠よ」
后がすかさず反論した。
「では、エラ側も証人を立てるというのはどうでしょう?執事を連れてきて、その三人とともに尋問するのです。そうすればどちらが正しいか分かるのでは」
それには后も咄嗟に言い返すことができなかった。しかし、困ったのはエラも同じだ。
―ギルバートは屋敷を出た切り戻って来ない。どこにいるかも分からないのに、どうやって証人になれというの?
リチャードの時間稼ぎだと理解してはいたが、この展開はあまり良いものではない。エラはこの窮地を抜け出すべく、頭をフル回転させた。
「王様、私にも発言をお許しください」
「お前もか、エラ・ベアーリング。言ってみよ」
王はやれやれといった様子で先を促した。
「ありがとうございます。少しのあいだご無礼をお許しください」
エラは膝まづいたが、すぐに立ち上がって言った。
「御覧の通り、私のドレスは古いものです。母の形見を直して着ております。王様やお后様のお目汚しをしたくはございませんでしたが、我が家は経済的に困窮しているので致し方ありませんでした。もし、お義母様の言うことが本当であれば、どうして私は新しいドレスの一つも仕立てられないのでしょうか?」
エラは悲し気に目を伏せた。今日、彼女が着ているのは母親の唯一の形見であったドレスだ。舞踏会のあいだはギルバートの魔法で美しかったそれは、彼が屋敷を去ってからは元のくたびれた姿に戻ってしまった。
しかし、まともなドレスを持っていないエラにとって、それは大事な一張羅である。最終婚約者選びの準備の合間に、彼女は手ずからつくろった。
「そんなの、わざと着てきたに違いないわ!」
「ローズマリー嬢、エラ嬢はこんな事態になるとは予想していなかっただろう。私だって知らなかったのだから。それなのになぜ、わざと着てきたと言えるのか?」
リチャードの鋭い追求に、ローズマリーは押し黙った。
「しかし、そのドレスだけではベアーリングが財産を独占していない、とは言い切れないでしょう」
「お后様のおっしゃることはもっともです。では、もう一つ。お義母様が言った金庫の中には、本物の屋敷の所有書がございます」
后は扇子の向こうで目を見開いた。
「詳しく説明せよ」
「はい、王様。確かに私の屋敷は抵当に入れられましたが、それは偽の所有書を使用して行われたものです」
「なんと…それは本当か?」
「はい。金庫の中に本物の所有書と、屋敷を抵当に入れたという書類が入っております。ご覧になりたければ、ここにお持ち…」
「その必要はございません」
エラの言葉を遮るようにして突然扉が開き、落ち着いた声が部屋に響いた。
「オーリー!」
リチャードは思わず立ち上がった。彼はオーリーを待っていたのだ。
しかし、エラの視線はオーリーではなくその隣の人物に向けられていた。ギルバートだ。
「皆様、遅れて申し訳ありません。少々手間取りまして…実は、エラ様のお義母様のお知り合いに、何人かお会いして色々聞いてきたのです」
オーリーの言葉を聞いた瞬間、今まで堂々としていた継母が慌て始めた。
「あっ、あの、私体調が…」
「大丈夫、すぐに終わりますので。調べると面白い事が分かりました。あなたは再婚前から各方面に借金をされていて、その返済を迫られていましたね。借金返済のために、エラ様をとある方面に売り飛ばそうとした事もあるとか」
「…何だと」
リチャードの額に青筋が浮かんだ。若い娘が売られる先など決まっている。それを想像するだけで怒りが全身を貫いた。
「それと、エラ様のおっしゃる通り、お屋敷は偽の所有書をもとに抵当に入れられていました。ここに偽物と本物の所有書、抵当に入れた事を示す書類がございます。偽の所有書にはエラ様のお義母様のサインが記されていました」
オーリーが言うと、ギルバートがそれらを掲げて皆に見せた。オーリーの言葉と寸分違わぬ証拠の提示に、后とローズマリーは絶句した。二人ともそこまでの事情は知らなかったのだ。
「どうでしょう。これでエラ様の潔白を証明できるでしょうか?」
「十分だ。ご苦労だった」
オーリーを信頼しきっている王は、鷹揚に頷くと言った。
「無実のエラ・ベアーリングを陥れた罪で、その義母を死刑とする。未来の妃を害するとは許しがたいことだ。それに加担したローズマリー・グレイは、婚約者の資格をはく奪。屋敷の所有権はエラに戻せ」
王はそこまで一気に言うと、立ち上がって部屋を出て行った。后は顔を伏せ、ローズマリーの呼び止める声も聞かず足早に後を追った。
「エラ、どうか許して!ローズマリー様に脅されて、仕方なく嘘をついたの!」
真っ青な顔をした継母が数名の兵士に引きずられていく。姉たちは泣きながら彼らに追いすがったが、まるで意味がなかった。そのうちに彼女たちも別の兵士に無理やり連れられて行った。
エラはリチャードに抱きしめられながら、一連の出来事を黙って見ていた。
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