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シンデレラの策略23-1: 王子の求婚

舞踏会最終日。エラは城へ行かず、屋敷にこもって王子からの手紙を待っていた。いつ使者が訪れてもいいように、身だしなみはきちんと整えている。エラの傍にはギルバートが、いつもより一層無表情で控えていた。

「…来ると思う?」

エラが窓の外を見ながら、少し不安げに訊ねる。ギルバートは「はい」とも「いいえ」とも答えず、ただ伏し目がちに給仕を続けた。
空の色がオレンジから紺色へと変わっていく頃、何者かが屋敷の扉を叩く音がした。音は昨晩と違い控えめで、数度鳴らされたあと静かになった。

「ギルバート」
「…はい」

二人は素早くお互いを見交わした。エラが支度を整え終わると、ギルバートは扉に向かって音もなく歩いて行った。

「どなた様でしょうか?」
「王子の使者として来ました。ここを開けてください」

ギルバートは一瞬動きを止めた。訪問者の声に聞き覚えがあったからだ。それは昨晩来た使者とは違い、落ち着いて人を安心させる響きがある。しかし、ギルバートにとってそれは今一番恐ろしいものだった。

「…オーリー様」
「ええ、そうです。ギルバート殿、こんばんは。王子はエラ様からの手紙をお読みになり、私に直接あなた方を迎えに行くよう命令されました」

ギルバートはハッとして後ろを振り返った。もしやエラが自分たちの会話を聞いていないかと疑ったからだ。しかし背後には誰もおらず、ギルバートは一人胸をなでおろした。

「お願いがございます。あなたと私が知り合いであることを、エラ様はご存知ありません。どうかご内密に」

ギルバートは先ほどより声を低くして言った。

「そうですか。まあ、あなたの口からは言いにくいでしょうね」
「…」
「安心してください。エラ様にとって悪いことはしません。私の願いは、エラ様が妃となって王子とともに国を盛り上げて頂くことですから」

私たち魔法使いのために、とオーリーは心の中で付け足した。その後すぐに、エラとギルバートはオーリーに連れられて城へ向かうことになる。オーリーが靴屋の老人であり、リチャード専属の魔法使いであるとエラが知ったのは、城に向かう馬車の中でだった。

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蒼樹唯恭
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