見出し画像

シンデレラの策略26-1:秘密の暴露

騒動の後、一旦エラは屋敷へ戻ることにした。リチャードは心配して引き留めたが、結婚式の前に屋敷の中を整理しておきたかったのだ。
晴れて自分のものになった屋敷で、エラは深く椅子に腰かけて感慨に耽っていた。

―ついに取り戻した。私の家、私のすべてが詰まった場所。あの人たちが帰って来ることは、もう二度とない。私はやっと自分の居場所を取り戻した。

安堵のため息が独りでに漏れる。復讐を成功させたエラは、しかし、心の中にぽっかり穴が開いたように感じていた。

―変ね。どうしてこんな気持ちになるのかしら。

エラは椅子から立ち上がって部屋を見回した。黄ばんだ壁紙、色あせたカーテン、古いテーブル。そのすべてに家族と過ごした時間が刻まれている。亡くなった姉、母、父、そしてギルバートと共に生きた証がここにはあった。

―でも、今、私の傍には誰もいない。みんな私を残して逝ってしまった。最後に残っていたギルバートでさえ、私の元から去って行ったわ。

このときエラはやっと悟った。彼女が必死になって守ろうとしていたものは、自身の過去であったことを。最も大切なもの―自分の居場所を、エラ自身の手で手放してしまったことを。

「…ギルバート!」

エラの瞳から大粒の涙が流れた。涙はあとからあとから溢れ出して止まらない。エラは長い間、一人で泣いていた。

いいなと思ったら応援しよう!

蒼樹唯恭
あなたの応援が、私のコーヒー代に代わり、執筆がはかどります。