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在野研究一歩前(53)「読書論の系譜(第三十五回):内村鑑三編『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』(山縣圖書舘、1900)⑯」
今回も前回に引き続き、内村鑑三編『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』内で紹介されている、「偉人」の「読書」論を見ていきたいと思う。
●ウェンデル・ホルムス(オリバー・ウェンデル・ホームズ・シニア)
「余は書籍を愛す、余は其内に生れて其内に育ちたり、故に余は書籍と共にある時は、馬丁が馬と共にある時の如き安慰を感ず。」(P69~71)
⇒オリバー・ウェンデル・ホームズ・シニアは、アメリカの作家、医学者。主著『朝食テーブルの独裁者』を始めとする「朝食テーブル」シリーズで知られる。また、ダートマス医科大学院やハーバード大学医学部で教授を務めた。
オリバー・ウェンデル・ホームズ・シニアは言う。
私は書籍を愛する。私は書籍の中で生れて、書籍の中で育った。そのため、私は書籍とともにいる時、馬丁が馬と一緒にいるときのような安らぎを感じる。
―書籍に囲まれた空間で生れ、書籍に囲まれて育つ。書籍のない人生なんてありえないという、オリバー・ウェンデル・ホームズ・シニアの熱情が伝わってくる文章だ。
●シオドア・パーカー
「汝を益すること最も多き書は、汝をして思考せしむること最も多き書なり。平易なる讀書は學に達するに最も難き途なり。然れども大思想家の産せし大著述は、是れ眞と美とを以て滿載されたる思想の大船なり。」(P71)
⇒シオドア・パーカーは、ユニテリアン派牧師で、社会改良家である。
シオドア・パーカーは語る。
あなたが読んで利益がある書籍は、あなたに考えるきっかけを多く与える書籍である。平易な読書は、あるものを究めることを困難にする。一方、大思想家が残した書籍の場合は、「真と美に溢れた思想の大船」であると言える。
●ジヨン・ブライト(ジョン・ブライト)
「余は社會が余に供し得る最も勝れたる勳章の類よりも、書籍を以てよく滿たされたる愉快なる一室を擇ぶ者なり。
余の意見に依れば勞働者の家族に與へられるべき凡ての幸福の中、書籍を愛するに優れるの幸福はなかるべし。讀書より來る家庭の感化は、多くの誘惑と罪悪とより人々を救ふものなり。」(P71~73)
⇒ジョン・ブライトは、イギリスの政治家で、リチャード・コブデンとともに反穀物法同盟の代表的人物として知られる。
ジョン・ブライトは語る。
私は、自身に与えられた勲章の類よりも、多くの書籍が所蔵されている愉快な一室の方を欲する。
私の意見で、労働者の家庭に与えられるすべての幸福の中で、書籍を愛することほど優れた幸福はない。読書を通しての家庭の感化は、多くの誘惑と罪悪から人々を救ってくれる。
●ジヨン・ラスキン(ジョン・ラスキン)
「人生はいと短く、其静かなる時は僅少なり、然れば吾人は之を價値なき書を讀むために空費すべからず、凡そ文明國にては價値ある書籍は印刷鮮明にして價格又正當、各人の容易に購求し得るものならざるべからず、そは吾人何人も多數の書を要せざれば、吾人の要する丈けの書は鮮明に善良なる紙の上に印刷され且つ堅固に綴られたるものならざるべからず。
全體より言へば汝が汝の讀書を詩歌、歴史、博物の諸書に止め、小説幷に戯曲の類を避けるならば、之に依りて汝の心は愈々健全なるに至らん。
世に我等何人たりとも讀まざるべからざるの書あり、而して余は汝に告げんとす、汝若しホーマー、プラトー、イースキラス、ヘロドータス、ダンテ、シエクスピヤ幷にスペンサー(詩人)を讀むべき丈け讀み悉すならば、汝は其左右に書籍を擴げて無限の讀書を繼續するに及ばず。」(P73~75)
⇒ジョン・ラスキンは、19世紀イギリス・ヴィクトリア時代を代表する美術評論家で、芸術家のパトロンとしても知られる。著書に『近代画家論』『建築の七燈』『ヴェニスの石』『芸術経済論』などがある。(『不思議の国のアリス』のモデルとして有名なアリス・リデルの美術の家庭教師もしていた。)
ジョン・ラスキンは語る。
人生は短く、さらにその中で静寂な時というのはもっと短い。そうであるから私たちは、この貴重な時間を、価値のない書籍を読むことに費やしてはならない。およそ文明国における「価値ある書籍」とは、印刷が鮮明で、値段も妥当、各人が気軽に購入することができるものでなければならない。私たちは必ずしも多くの書を有していなければならないわけではないので、せめて蔵書だけはきちんと整った書籍にするべきである。
「読書」という行為全体として言えることは、あなたが読書するジャンルを詩歌・歴史・博物に限定して、小説・戯曲を読まないようにするならば、あなたの心は健全ものになるだろう。
世間には、私たち全員が読んでおかなければならない「書籍」がある。私はその「書籍」をあなたに伝えておきたい。あなたがもし、ホーマー、プラトン、アイスキュロス、ヘロドトス、ダンテ、シェイクスピア、スペンサーを読めるだけ読みつくすならば、あなたは他の書籍を読む必要がなくなるだろう。
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以上の「在野研究一歩前(53)読書論の系譜(第三十五回)」の内容をもって、「内村鑑三編『偉人と讀書 讀書に關する古今偉人の格言』」を取りあげるのを終えたいと思います。①~⑯と、大変長い期間にわたって、『偉人と讀書』の内容を見てきましたが、いかがでしたでしょうか?。今後とも「読書論の系譜」ということで、様々な書籍の中で語られてきた「読書論」を繙いていくことになりますが、どこかに今回取り上げた『偉人と讀書』の影響が垣間見えるといいな……と一人思っています。
これからも文章を書き続けていく予定ですので、ぜひお読み頂けるとうれしいです。
今回も拙稿をご覧頂きありがとうございました。