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「生きるAIの子」第4話 (漫画原作)

 子どもたちを前に、話し込んでいた彼と私はとっさに距離を置いた。
「お母さん、誰と話してたの?」
きょとんとしている息子に返答をためらっていると、
「その人は私のパパよ。はじめまして、幸与くんのお母さん。」
雪心ちゃんが代わりに説明してくれた。
「はじめまして、雪心ちゃん。いつも幸与と仲良くしてくれてありがとう。」
正面からじっくり見た彼女は幸与が話していた通り、端正な顔立ちの美人で、彼に似ていたものだから思わずドキっとしてしまった。
「雪心ちゃんのパパと話してたんだね。はじめまして、雪心ちゃんのお父さん。」
まさか自分の父親なんて知るはずもない幸与は、無邪気に彼に微笑みかけた。
「えっと…名前は幸与くんだったかな。雪心と仲良くしてくれてありがとうね。」
まさか自分の息子とは知る由もない彼は、違う意味で戸惑っている様子だった。
「雪心ちゃんのお父さんもいてくれてちょうど良かった。ねぇ、お母さん、今度、雪心ちゃんがうちに遊びに来たいって。呼んでもいいでしょ?」
「えっ?お友だちをうちに…?」
幸与はこれまで何人もの女の子を好きになってはアタックしていたけれど、ほとんどの子たちから避けられ、片想いに終わっていたため、女の子をうちに連れてくることはなかった。
「パパ、幸与くんの家に遊びに行ってもいいでしょ?」
「珍しいこともあるものだな。転校する前だって、お友だちの家に遊びに行くなんてことはなかったのに。透子…じゃなくて幸与くんのお母さんさえ良ければ、いいよ。」
彼は私の方をちらっと見ながら言った。
「雪心ちゃんのパパもいいって言ってるし…。今度遊びに来てね、雪心ちゃん。」
私は彼女に微笑みかけながら、了承した。
「やったーありがとう、お母さん。」
好きな子を家に招待できることになった幸与は誰より喜んでいた。
 
 まさか幸与が好きになった転校生が彼の娘さんなんて…。引っ越した先で、彼と再会する日が来るなんて夢にも思わなかった。
動揺する心を隠しつつ、帰宅後、幸与に雪心ちゃんのことを探るように尋ねた。
「雪心ちゃんってほんとに美人でかわいい子ね。お母さん、びっくりしちゃった。」
「でしょ?好きになった子にうちに遊びに来たいなんて、初めて言われたからうれしくって。今夜は眠れないかも。」
幸与は珍しく大はしゃぎしていた。
「ねぇ、幸与。雪心ちゃんの誕生日は知ってる?いつなのかなって気になって…。」
雪という漢字が使われているくらいだから、冬の季節なんだろうとは察しがついたけれど、改めて聞いてみた。
「うん、知ってるよ。好きな子の誕生日は好きになったらすぐに聞くようにしてるから。雪心ちゃんは11月3日生まれ。ぼくより少し遅い誕生日なんだ。」
11月3日…逆算してみたら、かろうじて私が妊娠していた時期とはかぶっていないと分かった。私が中絶した後にできた子だろうと分かると、少しほっとできた。
「そうなんだ。大人っぽく見える子だから、幸与より早い誕生日かと思ってたわ。」
「初雪が降った日に生まれたから、雪心って名前なんだって。雪心ちゃん、大人っぽいよね。ぼくも最初は同級生に思えなかったもの。」
 
 眠れないなんて騒ぎつつも、ようやく幸与が寝静まった後、息子の寝顔を覗き込みながら、ひとりでぼんやり考えていた。この子の想い人がまさか、同じ父親の子なんて、誰も想像さえしないだろう…。幸与は数ヶ月違いで生まれた、母親だけ違う妹を好きになってしまったんだ。もしも本物の人間同士なら許されない恋…。けれど幸与は私の子ではあるけれどAI脳の子だから、生殖能力はなく、誰を好きになったとしても、子どもを残すことはできない。だから万が一、雪心ちゃんの方も幸与を好きになってくれたとして、両想いになれたとしても、過ちは起き得ない…。その点、安心だけど、不憫にもなる。どんなに女の子を愛しても、大人になっても、幸与は子孫を残せない宿命だから…。中絶した子のことが忘れられなくて、私の中で育ち過ぎた母性が暴走して、AIの子を育てると決めたけれど、あの時の決断はただの私のエゴで、この子にとってはありがた迷惑なことだったかもしれない…。私と彼の遺伝子を付け加えてしまったせいで、性欲旺盛な彼のように女の子に興味を抱きやすい子に成長してしまったから。セックスできる年齢に達したとして、その行為は可能だけど、精子は機能しないようにプログラムされていると資料に書いてあった。女の子を妊娠させる心配をしなくて済むから、母親としては安心な面もあるけれど、本当に愛すべき相手ができて、結婚することになったとしても、子を授かれないのは、気の毒だ。幸与にそういう運命を与えてしまったのは、誰でもなくこの私…。だから子どもを育てることを諦めようとしなかった自分の母性を呪った。そして母性に敵わない僅かな理性しか持たない自分が情けなくなった。子孫を残せない憐れな存在の幸与を生み出してしまったからには、一生、私が息子に幸せを与え続けなきゃと思った。たとえ愛する女性との間に子ができない運命と気づく日が来たとしても、好きな子ができたら全力で応援して、大人になって結婚できたら、孫なんていなくてもいいと息子夫婦をやさしく見守れる存在になりたい。そもそも昔、私が遊び半分で書いたSF小説のように現実問題として、ますます不妊のカップルが増えて、産める人が少なくなっているらしいし、AIの子じゃなくても、子を授かれないのは珍しいことでもない。だからそんなに憂慮することではないのかもしれないけれど…。大人になった幸与が私と同じように、AIの子を自分の子として育てたいと思う日が来るかもしれないし…。それに…もしかしたら、AI技術がさらに進めば、AIの子にも生殖能力が与えられる日も来るかもしれない。未来はまだ分からないんだから、気に病み過ぎないで、今は息子の恋が成就するように応援しよう。今の私が母親としてできることは、それくらいしかないんだから…。
 
 その週の日曜日は雪心ちゃんが我が家に来る約束の日だった。
幸与は昨夜もそわそわしっぱなしでなかなか寝付かず、寝不足の様子だけど、朝からはりきって、各部屋の掃除を率先してやってくれた。
「マザーがある部屋だけは、雪心ちゃんに見せてはダメだからね。」
「うん、分かってるよ、お母さん。」
我が家には決して他者に知られてはいけない、開かずの間があり、小さなその部屋には「マザー」という名の幸与を育み続けてくれている羊水のような液体の入ったカプセルを置いていた。カプセルの中でAIの子を育てられるのは赤ちゃんのうちだけと思っていたけれど、そうではなく、その気になれば大人になっても、死ぬまでカプセル内で生きることが可能と後に研究員から教えられた。AIの子は基本的に病院にかからなくて済むように、大怪我や大病はしないようにプログラムされていて、身体は普通のヒトより丈夫だけれど、さすがに無傷では逆に怪しまれてしまうということで、まれにちょっとした風邪をひいたり、怪我をすることがあった。そんな時は、カプセルに入って眠れば、翌朝には完治していることが多かった。健康な時でも「今日はちょっとマザーに入って休みたい。」と言うことがあり、幸与が自ら率先してカプセルの中に入り、身体を休めようとすることもあった。研究員いわく、「マザーは母体の胎内を完全コピーしているようなものだから、AIの子にとっては一番安心できる居心地の良い場所。赤ちゃんのうちに限らず、大人になってからも定期的に利用することで、命は活性化し、長生きできる。マザーの機能がさらに向上すれば、AIの子は不老不死も夢ではない。その技術の安全性が認められれば、ヒトに転用でき、AIの子のみならず、ヒトがマザーのお世話になって、不老不死を実現することも視野に入ってくる。このプロジェクトはもはや、少子化対策に限ったことではなく、人類の長年の夢だった、不老不死を現実のものとすべく、研究がさらに進められている。」と…。半信半疑のまま軽はずみな興味本位で、マザーという名のカプセルに入ったAIの子・幸与を手に入れてしまったけれど、もしかしたら私は足を踏み入れてはいけない神の領域に土足で上がろうとする者たちの策略に加担してしまっているのかもしれないと思うと、時々恐ろしい気持ちに襲われた。怖いからってマザーを手放せば、きっと幸与は生きられなくなる。マザーを放棄したいが故に、幸与を手放すことになったら、幸与と私が二人で過ごした記憶はそれぞれの脳から消されてしまう…。二度と手に入れられない幸せな日々の記憶を失いたくはないし、幸与と離れたくなくて、脅威のマザーという絶対的存在も幸与と同じように受け入れ、大事にする義務がAIの子と共に生きる私には必然的についてきた。
 
 マザーを置いている秘密の部屋に鍵をかけ、準備万端になった午後、チャイムが鳴った。
「こんにちは、菅生です。」
インターホン越しに聞こえてきた声は、初めて彼がうちに遊びに来た時の言い回しによく似ていた。遺伝子というものはあなどれない。
「雪心ちゃん、来てくれてありがとう!」
声を弾ませた幸与が玄関に駆けて行き、彼女を出迎えた。
「お邪魔します。これ、良かったらどうぞ。」
きっとお母さんが気をきかせたのだろうけど、お土産を私に手渡してくれた。
「ありがとう、雪心ちゃん。ゆっくりして行ってね。」
「ぼくの部屋で遊ぼう!」
幸与に案内されながら、彼女は息子の部屋の中に消えていった。
 
 何して遊んでいるんだろうと気になった私は、二人の様子を探るようにお菓子やジュースを抱えて、幸与の部屋に向かった。ノックをしても返事はなく、胸騒ぎを覚えた私はそっとドアを開けた。
「幸与、お菓子持ってきたんだけど、どうしたの…?」
部屋の中を覗き込むと、ベッドの上で雪心ちゃんが幸与の身体に覆いかぶさり、キスしているような光景が目に飛び込んできた。
「ふ、二人とも、何してるの!そういうことはまだしてはいけません。」
私に気づいた幸与は慌てていたものの、彼女の方は冷静だった。
「幸与くんのことが好きだから…キスしていただけです。それ以上のことは何もしていないので、安心してください。」
彼女は少し乱れたスカートを直しながら、淡々と言った。
「キスだけでも、まだそんなことは早過ぎます。しかもベッドの上でするなんて…。幸与、こういうことは大人になってからにしないと。」
「うん…でも…キスなんてみんなしてるよ。クラスの中でも付き合ってる子たちは当たり前って言ってたし…。それに幼稚園の頃とかほっぺにチューなんて珍しくなかったし。ぼくは今の雪心ちゃんとのキスがファーストキスだったけど…。」
慌てつつも恍惚の表情を浮かべながら、幸与は弁解した。
「私、幸与くんのことが好きだから、キスしたくなってしまって…。でも誤解しないでください。私も親以外とするのは初めてでした。幸与くんと私は似た者同士の気がするから、こういうことしても、大丈夫だと思うんです…。」
私だって、幸与が小さい頃はほっぺにチューくらいはしてたけど、もしかして彼は娘に対して未だにキスしてるのかもしれないと想像してしまった。この子がませているのは、きっと父親譲りだろう。性欲の塊みたいな彼だし。そして「似た者同士」という表現も少し引っかかったけれど、とにかくこのままこの子たちを二人きりにしていてはいけないと思った。幸与は妊娠させることはできなくても、セックスすることは可能な身体なのだから。まだ小3の彼女の心身に傷を負わせてはいけない。それが両者の合意の上であっても、未成年なのだから目撃してしまった以上、親が止めなければ。
「とにかく、幸与の部屋じゃなくて、リビングで遊びなさい。テレビやピアノもあるから。」
「もうこういうことはしないから、二人でここにいてもいいでしょ?」
「ダメです。これ以上、何かあったら、雪心ちゃんのご両親に申し訳ないもの。幸与の親として、二人を見守る義務があるの。」
がっかりしたのか、浮かない表情の幸与は、顔色をあまり変えない彼女の手を引いて、渋々私の後をついて来た。
 
 リビングに着き、ソファーに座った彼女はピアノの方をじっと見つめていた。
「雪心ちゃん、もしかしてピアノ弾けるの?」
彼女の視線に気づいた幸与が尋ねた。
「うん、転校する前に習っていたから、少しなら弾けるの。」
「へぇーじゃあ、聴かせて。」
生まれつき優秀な脳を持っているはずなのに、幸与はピアノを習わせても、なかなか上達せず、すぐにやめてしまっていた。
ピアノの前に座った雪心ちゃんは、楽譜も見ずに、ショパンの曲を弾き始めた。
「すごい…。まるでピアニストみたい。」
「本当にプロの演奏みたいで、すごく上手ね。」
幸与と私は彼女の演奏にうっとり聴き惚れていた。
 
 演奏を終えた彼女は何かに気づいた様子で、幸与ではなく、私を呼び寄せた。
「幸与くんのお母さん…すみません。ちょっといいですか?」
「雪心ちゃんどうしたの?もっとピアノ聴かせて。」
幸与は不思議そうな顔をしていた。
「どうしたの?」
私が尋ねると、彼女は申し訳なさそうな顔をして、
「すみません、生理始まってしまった気がして、イスを汚してしまったかもしれなくて…。」
ピアノのイスは黒いため、よく確認しないと分からなかったけれど、たしかに少し血が滲んでいるように見えた。彼女が着ていた紺色のワンピースにも少し染みができていた。
「気にしなくていいのよ。ちょっとこのまま待ってて。トイレにナプキン置いてくるから。」
彼女に小声で言うと私は慌てて1年前に閉経した時、最後に使ったナプキンの残りを探し出し、トイレ内に置いた。捨てずにとっておいて良かったと思った。
「雪心ちゃん、準備できたから。」
「すみません、ありがとうございます。」
幸与には気づかれないように、私は彼女をトイレに案内した。
「えっ?もしかしてトイレに行きたかったの?ぼくに言えばいいのに。」
幸与は彼女の生理に気づく様子もなく、きょとんとしていた。
 彼女がトイレに行っている間にさりげなくピアノのイスを拭き、幸与には気づかれることなく、事なきを得た。
 
 その後は雪心ちゃんがまたピアノを演奏したり、幸与と二人でテレビゲームをして過ごしていた。ゲームも幸与より彼女の方が上手でいつも勝っていた。美人な上に賢いなんて才色兼備とはこういう子のことをいうんだなと思った。きっと彼女のお母さん、つまり彼の奥さんが私と違って賢い人なんだろう。幸与はAIの子なのにそこまで頭が良くないのは、きっと賢くない私の遺伝子のせいだから、息子に申し訳ない気がした。
 
 帰り際、幸与には聞こえないように、彼女は私に耳打ちした。
「さっきはすみませんでした。ナプキン、助かりました。私…幸与くんとあんなことしたから子宮が疼いてしまって、生理が予定より早まってしまったのかもしれません。これからは気をつけます。」
そんな小3とは思えない、ませた発言をした彼女に返す言葉をみつけられない私は、絶句し固まってしまった。
「幸与くん、今日はありがとうね。また学校でね。」
「うん、雪心ちゃん。また遊びに来てね。」
子どもらしい和やかな雰囲気の二人の様子に、ようやく私は
「雪心ちゃん、また遊びにいらっしゃいね。これからも幸与のこと、よろしくね。」
と一応、大人らしい発言を返して、去りゆく彼女を見送ることができた。
 
 「幸与、大好きな子のことは大切にしないとね。たとえ両想いだとしても、安易に身体に触れてはいけないのよ。」
夕食を食べながら、昼間のことを息子に諭した。
「うん…でも、キスは雪心ちゃんの方からしようって誘ってきたんだよ。だからいいと思って…。」
「たとえ、女の子の方がいいって言っても、我慢しなきゃいけない時もあるのよ。特に密室で二人きりだと、止めてくれる大人がいないから、子ども同士でそういうことをしてはいけないの。」
「どうしてダメなの?好きなのに。ぼくやっと好きな子と両想いになれたんだよ。」
まっすぐな眼差しで真剣に聞かれた私は、適当にごまかすことができなくなった。
「どうしてって…それは、キス以上のことは大人になってからしかしてはいけないから。幸与はまだ知らないと思うけど、ああいう状況だとキス以上のことを経験してしまうかもしれないから。女の子をね、傷つけないためにも、たとえ誘われたとしても、勇気を出して幸与の方から断らないといけない時もあるのよ。」
「ふーん。よく分からないよ。キス以上のことってどういうことなの?しようって言われたことを断ったら、嫌われてしまうかもしれないのに。」
私の回答では納得しなかった幸与は具体的に教えるように迫った。
「…キス以上のことをすると…赤ちゃんができてしまうかもしれないから、子どものうちはしてはダメなの。幸与や雪心ちゃんはまだ小学生だから、赤ちゃんができてしまったとしても、育てられないでしょ?だから大人になるまでしてはいけないことがあるのよ。好きだからこそ、今はできないって断れば、嫌われる心配もないから。相手のことを大切に思ってるという誠意を伝えることが大事なのよ。」
ちゃんと説明しているようで綺麗事でごまかそうとする私は罪深い親だと思った。私は彼と誠実なお付き合いなんてできていなかったし、彼に嫌われたくなくて断れず、不本意なこともした経験があった。だから偉そうに息子に愛を語れる大人ではない。それに本当は…幸与は妊娠させられない身体なのだから、赤ちゃんができてしまうなんて教える必要はないのに、キス以上の行為にエスカレートさせたくないが故に、真実を伝えることができず、もっともらしい嘘を語って、その場しのぎをした。
「そっか…そうなんだ。じゃあこれからは気をつけるよ。ごめんなさい、お母さん。」
釈然としない様子ながら、幸与は素直に反省を述べた。
 
 疲れていたのか、ようやく前夜までの興奮が落ち着いたのか、その夜、幸与はマザーの中で眠るといい、自らカプセルに入った。
 
 幸与が開かずの秘密の部屋で過ごしている夜、私はひとりで今日の出来事を思い返していた。初めて、息子が女の子とキスしているシーンを目撃して、動揺した私は、一応母親にはなれているんだろうと思った。息子には生殖能力がないから、何をしたとしても気にする必要はないと割り切って、冷静でいることだってできたはずなのに、私はあんな場面に出くわして、慌てることができたから。でも幸与の方がリードしたというより、雪心ちゃんの方が積極的だったみたい。一目見た時から大人びているとは思っていたけど、ませている子と付き合うとなれば、これからも母親として目を光らせないと、好奇心旺盛な子どもの二人は何を仕出かすか分からない…。生理が始まっている子だし、相手がAIの子の幸与じゃなければ、本当に妊娠してしまう可能性だってあるし…。気を付けてあげなきゃ。それにしても、キスしたから子宮が疼いて生理が早まったかもしれないなんて、子どもができる発想ではない。彼の遺伝子のせいか、最近の子たちはそういう知識が豊富なせいか分からないけど、まるですべて経験済みの大人の発言みたいだった。だから驚いてしまって、一瞬言葉も出なかった。彼女が言うことはよく分かるけど…。私だって、彼と関係していた頃は、彼(の精子)がほしいと子宮が疼くことがよくあったから…。彼と触れ合うと子宮がキュンとして、女性ホルモンが刺激されるのがよく分かった。彼女のようにキスするだけで、子宮に響いて実際、生理が来たことだってあった…。私がというより、子宮自身が彼をほしがって、あの時、妊娠した気がしている。おそらく、不妊症気味だった私を妊娠させることができたのは、子宮が恋する相手の彼だけだった。彼の精子じゃなきゃ、あの時、私はきっと身ごもることはできなかった。それほど子宮が愛してしまった彼の娘と私の息子が出会って、こんな関係になってしまうなんて…。私は幸与と雪心ちゃんの恋の行方を心配しつつも、彼のことを思い出したせいか、もう機能しないはずの子宮が疼き、久しぶりに勝手に濡れた秘部に指を這わせ、息子に聞こえないように布団の中で吐息を漏らしていた。母性に完敗していた性欲が、枯れたように見えた秘密の泉からほとばしるのを感じていた。母親になりすましていた私の中に、まだかろうじて残っていたホルモンの仕業なのか、女の影が蘇り始めていた。

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