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詩たち

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2023年7月の記事一覧

詩「浮雲」

詩「浮雲」

20230720

躊躇う時にさえ地に足付かず
膨れる腹ごと大空に舞う
侘しさなどは片隅にやり
イーゼルには冗談ばかり立てかける

絵の具の色もわからないのに
筆はやたらに早くなる
洗濯物と一緒に羽ばたき
鳥どもには挨拶もしない

煙草の煙と親友になれば
副流煙でも十分飛べる
要らなくなったライターを投げ捨て
明日の天気を占っている

吐き捨てた台詞を思い返して
クスクス笑う 驚いたアイツの顔が

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詩「こましゃくれ」

詩「こましゃくれ」

20230721

踏んづけたワインの瓶の破片を
腹立たしげに飲み込む夜に客人は来ない
すっぽかされた約束の中で
拘束された馬鹿らしい愚痴を吐き捨てる

葉巻がなくなったので
湿気った煙草の煙を吸い込んで吐き出す
煙が笑っているので瓶を投げる
踏んづけるための破片がまた飛び散る

嘘をつけない性格のせいで
もしくは本当のことを言ってしまうせいで
見放されてしまったことに気がつけば
また足の裏の傷を

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詩「独り言に埋もれ」

詩「独り言に埋もれ」

20230720

独り言に敷き詰められた部屋の中で
ポツリとまた任せるままに生まれるのを待って
一言で変わる景色を夢見て
何も持っていないことを哀れんで一日が終わる

役に立たないものが愛おしくて
全てが無駄だと思い込むことに必死になり
生きているのも死んでいるのも同じで
ゾンビになった気分で夜を徘徊する

古着で武装したままでなら
すれ違う人々は気が付かないだろう
そっと首元に歯形を残して

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詩「朧」

詩「朧」

20230716

心がどこにあるかわからなくなり
目隠しされて触れる誰かの温もりを毛嫌いした
夏に降る雪や冬に鳴く蝉のように
温もりはないものだと思い込んだ

街は賑やかだった 照らされるビルが眩しかった
それだけだった 誰の顔も思い出せなかった
寂しさとは違う思いで擦り切れそうになった
喉が渇き続けて 水を飲んでも治らなかった

落とし物を取りに行くべきだろうか
どこに落としたかすらわからない

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詩「馬鹿らしい夜」

詩「馬鹿らしい夜」

20230716

足の裏を蚊に刺されたので
眠れそうにない夜が過ぎてゆく
明日の予定を数えてみたら
数えるものがないことに気が付く

耳元を飛んでいる何かを叩きつけて
鼓膜まで届いた衝撃が独り言を残す
その言葉を頼りに夜道を歩いていこう
足の裏の痒みを誤魔化すためだけに

ネオンに導かれた蛾のように
彼はフラフラとしている
ぶつかる人々には気付かれない
その方が都合が良い

足の裏にガラスの破片

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詩「愚か者」

詩「愚か者」

20230713

鉄を喰らう あと少し生き延びる
彼は走る 血は滴り落ちる
ぶら下がった悪魔たちを振り解く
誘う天使たちをバラバラにする

飲んだくれてしまう時は
最低なことすら受け入れられる
シラフではまともに見れない景色を
彼は呪う 醜いと嘲る

錆を喰らう 寿命を縮めるために
彼は逆らう 血は壁にサインする
悪魔だと思っていた人々を思い出す
天使なんていなかったと思い出す

酒なんて一滴も

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詩「メモ」

詩「メモ」

20230713

ぶちまけられたメモ帳の片隅で
虐げられる思いが痕跡を残している
彼の持っているマグカップが落ちて割れる
紙が茶色に染まるとどうも良くなる

考え事は大事な部分だけを残して
あとは腐って仕舞えば良い
洗濯バサミで挟んだメモ帳には
何も意味がない 彼はそう思いこむ

新しいコーヒーをいれる
割れたマグカップはオブジェにする
彼の足の裏に刺さった破片たちは
赤く染まりながら時間を数え

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詩「よくある夢」

詩「よくある夢」

20230710

見知らぬ場所で会う
懐かしい人の顔をした誰か
夢の中でなら上手く話が出来る
それは嬉しくも悲しくもある

思い出と向き合う時間が長過ぎて
起きた後にはほろ苦さが残る
それは舌に残るコーヒーのようで
眠気はカフェインか何かに吸い取られる

自分が何者か気付かされた瞬間から
誰かに期待することをやめてしまった
楽になった分だけ辛くなるのは
もう寄り添うこともないと知る時だ

懐かし

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詩「箱の中の心臓」

詩「箱の中の心臓」

20230629

心臓が狭苦しい箱の中に取り残されて
考え事や思いとは別の時を数えている
彼の身体は痺れてしまって
全てが他人事のように感じている

日々が過ぎるのが恐ろしく
時間を止めるために寝てみる
起きても何も変わっていない
焦らないように見ないふりをするしかない

飛行機が通り過ぎる音が聞こえる
彼はその度にそれがミサイルでないかと考える
このアパートに突っ込んで彼だけを潰して
時が消え

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詩「ホームビデオを見る男」

詩「ホームビデオを見る男」

20230629

「ほら みて おもしろいでしょう」
「あうええ」
「まぁ じょうずにまねっこしてるのね」
「あー」

ホームビデオを見ながら口を押さえている
肩が震えているのは寒さのせいではなかった
母親の優しげな声が聞こえる
幼児は愛くるしく笑っている

しばらく経つと場面が変わる
ぼやける視界の中で揺れているブランコ
幼児は少し大きくなって少年になる
瞳が潤んでいるのは優しさの代償ではなか

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