韓国小説・チョ・ナムジュの「ミカンの味」
2022年9月10日にソン・ウォンピョンさんの最新作「プリズム」を読み終えてから少し読書から意図的に離れていました。「アーモンド」からの「三十の反撃」からの「プリズム」まで描かれたテーマは違うのになぜかどれも次が知りたくてハマっていく作品ばかりでした。ソン・ウォンピョンさんの作品を読み終えてしまってなんとも切なくて物足りなさを感じていました。しばらくして、1週間に2つの台風が過ぎたころ本が読みたくなって。「プリズム」を読み始める前に次に読みたい韓国小説を購入していたから何を読もうかと悩まずに済むのに読み始めることができずにいました。
9月26日から読み始めたチョ・ナムジュの「ミカンの味」。小説の後半部分にある注釈と解説によって韓国社会の教育事情を知りました。韓国ドラマの「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」という設定のようにお受験の競争の厳しさや韓国の学校事情・高校進学への厳しい状況などが詳しく描かれ、韓国社会の生きづらさが伝わってくるものがありました。フェミニズムをテーマにしてきた作者が日常の中にある性差別に苛立つ登場人物の女性の姿と高校に入学するに至った4人の少女たちの中学時代の物語。邦訳は、「アーモンド」・「三十の反撃」・「プリズム」でお馴染みの矢島暁子さん。2週間ぶりに読んだ韓国小説「ミカンの味」の感想をまとめました。
登場人物
韓国の女子中学生のリアルな部分が体感できる作品。
✤何をしても平均並み出回りに埋もれてしまう平凡さに悩む、ソラン。
✤成績がトツプで恋愛も学年トップ並に忙しく病気がちの妹の世話に忙しい母親の愛情に飢えている、ダユン。
✤BTSが大好きでひねくれてる、へイン。
✤いちばんやさしい性格の持ち主で母と祖母と三人で暮らす、ウンジ。
登場人物たちの複雑な関係が読み取るまで時間が必要で、慣れるまでは読みながら戻りながら読むを繰り返しながら進めました。
教育制度の違い
同じアジアの隣国とは思えないほど教育制度に違いがあることに驚きました。彼女たちの置かれた状況が辛く感じました。
韓国の高校入学制度は複雑でたびたび変更されることを知りました。韓国の学歴社会を理解しておくと読み進みやすいと思いました。(本書の訳注を読みながら読み進んでいきました)
印象に残った部分
✤済州島(チェジュトウ)でのミカン狩りの場面は、年頃らしく瑞々しく描かれていてフレッシュ感が際立ちました。
✤受験制度の変革や競争への激しい韓国社会の実情といじめ問題への対応で設置が義務付けられた「学校暴力対策自治委員会(学暴委)という、聞きなれない言葉も印象に残りました。
思春期の繊細さは万国共通
年頃の女の子の友情はどの国も大差なく。
甘いも・しょっぱいも・辛いも・酸っぱいも全部ごちゃ混ぜで。これではおいしくなるわけがないということをわかっていながら、それでもみんなで一つの料理になることに大きな意義があって。
自分一人では遠くに行けない・跳べない、だからこそ連帯する。
4人の女の子たちの間の微妙な関係性と歪みとか寂しさとか。自分にもそういう時期があったことを思い出しながら読み進める場面がありました。
中学生の悩みは、家族や友達関係で日本とあまり変わらない。
しかし受験の過酷さや性差別などの問題が散りばめられていて、ある意味考えさせられる本でした。
「アーモンド」や「三十の反撃」や「プリズム」と比較したらソフトカバーの韓国小説なのでボリュームがダウンするかと思いきや意外と読みごたえがありました。登場人物の関係性で行ったり来たり、韓国の教育制度関連で解説を読んだり本文に戻ったり。ページ数は249ページですが、300ページくらいのボリュームを感じながら読み終えました。
きっと1回目より2回目。回を重ねる毎に感じることが異なる小説だと感じました。
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