マガジンのカバー画像

長谷部浩の俳優論。

90
歌舞伎は、その成り立ちからして俳優論に傾きますが、これからは現代演劇でも、演出論や戯曲論にくわえて、俳優についても語ってみようと思っています。
劇作家よりも演出家よりも、俳優に興味のある方へ。
¥1,480
運営しているクリエイター

2024年9月の記事一覧

 【劇評352】苛酷な現実に向かい合う演劇の想像力。『Someone Who`ll Watch Over Me〜私を見守ってくれる人〜』。

【劇評352】苛酷な現実に向かい合う演劇の想像力。『Someone Who`ll Watch Over Me〜私を見守ってくれる人〜』。


世界の現実を見つめる

ウクライナやガザ地区での紛争を受けて、苛酷な状況にいる人々を私たちは、映像や報道を通じて毎日見ている。双方の陣営に少なからぬ捕虜がいて、その救出は家族にとって、どれほど重大な問題であることか。

 捕虜の今、置かれている状況は、どれほど残酷なものなのか。理念としては理解していても、私たちは、その現実から目をそらしてはいないか。

 一九九二年にフランク・マクギネスによって

もっとみる
【劇評351】俳優、峯村リエへの巧みなオマージュ。『ミネムラさん』の慈愛あふれる世界

【劇評351】俳優、峯村リエへの巧みなオマージュ。『ミネムラさん』の慈愛あふれる世界

 

注目の劇作家

今、注目の三人の劇作家、笠木泉、細川洋平、山崎元晴が、俳優、峯村リエのために、新作を書き下ろす。ここまでは、例がないわけではないと思うが、全体のタイトルが『ミネムラさん』となれば、虚実が入り交じった演劇の本質に斬り込むのではないかと期待された。

 こうした予想を覆すように、劇壇ガルバの主宰山崎一と演出の西本由香は、さらに智慧を絞って、企画・構成にひねりを加えた。当日、受付で

もっとみる
【劇評350】『妹背山婦女庭訓』と『勧進帳』。藝を後世に手渡す舞台

【劇評350】『妹背山婦女庭訓』と『勧進帳』。藝を後世に手渡す舞台

播磨屋と秀山祭

 時が過ぎるたびに二代目吉右衛門の役者としての大きさが胸に迫る。

 秀山祭九月大歌舞伎の夜の部は、歌舞伎の代表的な演目が並んだ。なかでも、『妹背山婦女庭訓』の吉野川は、仮花道を使った劇場そのものが桜満開の吉野を写す。重厚な義太夫狂言だけに、そうそう出せる演目ではない。

 歌舞伎座の立女形として重い位置にある玉三郎が、あとに続く役者のために、歌舞伎のあるべき姿を示す舞台となった

もっとみる
【劇評349】観客の心を熱くする歌舞伎役者。尾上右近の「研の會」の達成

【劇評349】観客の心を熱くする歌舞伎役者。尾上右近の「研の會」の達成



 歌舞伎を観て、心を熱くした
 自主公演も第八回を数える。尾上右近による『研の會』は、大阪、東京と二都市でそれぞれ二日、昼夜四公演だから、熱烈に支持する贔屓が、右近を後押ししているとわかる。その期待にきっちりと応えていくだけの技倆と熱意が備わっている。

出にたちこめる過去

まずは、『摂州合邦辻』。右近によって、人間の業をめぐる芝居だとよくわかる。花道の出から、堂々たるものだが、夜の道をひと

もっとみる