【劇評351】俳優、峯村リエへの巧みなオマージュ。『ミネムラさん』の慈愛あふれる世界
注目の劇作家
今、注目の三人の劇作家、笠木泉、細川洋平、山崎元晴が、俳優、峯村リエのために、新作を書き下ろす。ここまでは、例がないわけではないと思うが、全体のタイトルが『ミネムラさん』となれば、虚実が入り交じった演劇の本質に斬り込むのではないかと期待された。
こうした予想を覆すように、劇壇ガルバの主宰山崎一と演出の西本由香は、さらに智慧を絞って、企画・構成にひねりを加えた。当日、受付で配布された配役表を見ると、細川の作には、峯村リエの名前がない。三人の劇作家によるオマージュと私は勝手に予想していたが、どうも一筋縄ではいかない構成だとわかった。
巧みな構成
今回のパンフレットには、笠木「世界一周サークル・ゲーム」、細川「フメイの家」、山崎「ねむい」の構成表が載っていた。もっとも、私は事前にこのパンフレットを開かなかったので、冒頭、細川の作風が窺われる「フメイの家」が、あっけなく終わってしまうと拍子抜けした。
ところが、「フメイの家」は、序破急結と四つのパートに分かれていて、「世界一周サークル・ゲーム」、「ねむい」をサンドイッチしている。ひとりの作家が、展開に工夫を凝らすのではなく、三人の作家の物語が分断されて差し出される。そのため、先の展開を読み切ることができない。
結果、私たちは、一貫性を持たない世界の前で立ちすくむ。その予断を許さぬ面白さが、この舞台を支えている。それぞれのパートを繋ぐ西本の手腕があってのことで、冒頭の「フメイの家」から、「世界一周サークル・ゲーム」に切り替わるとき、峯村リエの「出」が衝撃的に演出されている手腕に唸った。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。