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街とタテモノとくらしの方法

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いつもの見慣れた場所や暮らしの空間に耳を傾ける。それだけで、旅にでられる。そんな旅のメモを綴ります。
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#エッセイ

お風呂の扉

お風呂の扉

この部屋のお風呂の扉が閉まっているのを、
私は見たことがない。

きーっと音のする分厚い玄関を開けると、
やっぱりそこには、古い木造の味と
日本の夏の匂いが入り混じっていて、
私がこの家を空けていた時間の分だけ
ずっしりと重たい空気が詰め込まれていた。

毎年、7月になると仕事で京都に行く。
3年目になった今年は
それもすっかり恒例行事になってしまって、
出かける前は、1か月近く家を開けるのかあ、

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健康

健康

今年のお正月は、寝てばかりだった。

やりたいこと、あれもこれもあったはずなのに
パソコンを開くのは悪だ、
そんな言葉に従って過ごしていたら
気づけば眠ってしまっていた。

できたことといえば、せいぜい洗濯とか
三ヶ日が有効期限のクーポンを使って買い物とか
1日1つ、何かできたらもうお腹いっぱい。
そんな日々だった。

受験生の頃、
そう呼べる時期が私には3年もあったわけだけど
しばらく何もしたく

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チョコレート

休み明けの月曜日、終電に揺られて帰る。
疲れてしぼんだ身体を補うように、カバンから出した一粒のチョコを口に運ぶ。
バレンタインのお返しに、ともらったチョコだった。

たまたまその日は私が家に行く日だった。
世間はチョコレートまみれで、駅前のデパ地下も賑わっていた。
たまにする少しの贅沢が好きで、ときどきいいものを買いたくなる。
普段からお世話になっているしね、そう頭の中でつぶやいて、GODIVAで

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足の爪切り

足の爪切り

久しぶりの代休をとって、
平日の真っ只中で華金気分を味わう水曜日。

ゆったりとお風呂に浸かって、
思いっきり夜中まで起きちゃって、
リセットした体にボディバターでマッサージ。

ふと足元に目をやると
足の指の爪が伸びていることに気づいて、
やると決めたらとことん念入りに
手入れをしたくなる性分のA型の私だけど、
ぬるっとまだクリームが残る手の指先に
切ったはずの爪のかけらがついて
順序の間違いに

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東京

東京

日が暮れるともう外には涼しい風が吹いていて七分袖にサンダルのアンバランスがしっくりくる

一段ずつ階段を降りるたび
もわっと重たい空気が足元に絡みついて
地下鉄のホームにはまだ嫌な夏の匂いが残っている

あんなにさわやかな風が吹いていた地上はどこかにいってしまって
眉間にしわをつくりながらなんでもない顔をする

ついこの間まで空の広い国道を車で走っていたのが
遠い
昔のように恋しくなる

人が多く

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夜明け

夜明け

久々の夜明け。

珍しく気付いたら寝てしまっていて、変な時間に目が覚めた。
あたりはまだ暗い。
とりあえず顔でも洗って、歯を磨く。

しばらくするとカーテンの向こうがわが白んできて、朝がやってくる。

窓を開けると、まだ青白い空の下で誰の気配もない中学校のグラウンドがどこか少し怖い。
ひんやりした風が肌をかすめて、そろそろ夏が帰ろうとしている。

人の姿は見えず、車の音も聞こえない。
ただ虫の鳴く

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たこ公園

たこ公園

久々に東京に帰った。
新宿に到着するバスから見えるのは、高層ビルと人、人。しばらく自然に囲まれた人の少ない場所で暮らしていたから少し疲れてしまうかなと思っていたけれど、不思議とそんなことはなかった。

山々の連なりが空の形をつくる風景があったように、ここにはまたこういう風景がある。それはどちらがいいとか悪いとかではなくて、それぞれの土地の生き方なのだということが、こうして行き来を繰り返すうちに私の

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今日の屋上 #2

今日の屋上 #2

幼いころ、実家の屋上には温室があって、祖父が胡蝶蘭を育てていた。

両親や祖母はめったに上がってこなかったけれど、私は屋上に出る重い扉をこっそり開けて、よく温室を覗きに行った。

外から見るとただの透明な部屋なのに、中に入ると、むわっと暑い湿気に襲われる。肌にはすぐに水滴がこびりついてきて、自分の体がこの小さな空間に飲み込まれて溶けていくような気がした。

庭とも家の中とも違う温室の匂いは、それま

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今日の屋上 #1

今日の屋上 #1

京大近くの吉田山をくだって、森を抜ける。猫の抜け道みたいな隙間を抜けると、急に視界が広がる坂道。

坂の途中からのぞむその屋上には、少し傾いた屋根がひょこっと顔を出していて、洗濯物が干してあった。

柱と屋根のシンプルな構造物が、風の抜けるひとつの部屋をつくっている。

まわりにフェンスが設置されているわけではないけれど、多分、屋上の下の屋根の部分が少し盛り上がって低い塀をつくっていて、絶妙な高さ

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部屋にまつわるメモ

部屋にまつわるメモ

ベッドは、ひとつの世界。
見えないうすーい膜が、この身体ひとつ分のまわりをぐるっと囲んで、外の空気をすり抜けさせながら、ちょうどいいひとりぼっちにさせてくれる。

部屋は、外から見ればただの箱。何もない空間に内と外を作り出す装置。
でもそれは内と外をそれぞれ遮断する役割なのではなくて、自分のこの身体を地面に立たせるための、ちょうどいい距離をはかる、ものさしみたいなものなのだと思う。
誰かの肌に触れ

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花と帰る

花と帰る

バイト先で、先週もらったお祝いの花を処分するように言われた。

あまりに大きくて、解体しないと捨てられない。一本一本花を抜きながら、ゴミ袋に入れていく。
それまで「お花」という塊だと思っていたものが、それぞれに顔を持っていたことを知る。

お前こんなところにいたのか、もうそろそろ寿命なのかなあ。
そんなこと思いながらひとつひとつ覗いていると、まだもう少し元気のありそうな花もいくつかいた。

「これ

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水の気配

水の気配

静かな夜の住宅街。
前を通り過ぎた家から、水の音がする。

きっとこのあたりにお風呂があって、誰かがシャワーを浴びている。
閉じていればただの箱のように見えるそれが、ひとつの家族を覆う「家」なのだということを思い出させる。
あの家も、その家も。

以前住んでいたアパートは1階にあったので、2階に住む人が洗い物をしたりシャワーを浴びていると、壁を伝って水の音がした。
はじめはこの水はどこを流れている

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夜の病院

夜の病院

その日はいつもより少しはやく家に帰って、夕飯をつくろうと決めていた。

にんじんが3本くらい余っていたから、きんぴらで消費しようと細切りに。
にんじんって固くて切りづらいし、単体だとボリュームはないし。
主役にするには微妙だなと思いながらも、もうこれからスーパーに行く気分でもなくて、とりあえず切る。

切る。

切る。

切る。

あ。

まな板がぐらついて、左手の親指に当たった。
つー..と

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空いた場所

空いた場所

荷物のなくなった部屋は、がらんどう。

引っ越しの日まではまだ数日あるけれど、同居人が少し物を運んで、つい昨日の朝まで見えていなかった壁が顔を出した。
暖房器具がなくてただでさえ寒い部屋に、冷たい空気が充満していくのがわかる。

台所からベッドを行ったりきたりする度に、少し建てつけの悪いとびらがカタカタと立てる音を初めて聞いた。
今までこちらばかり向いていたテレビの声が、がらんと空いた後ろの空間に

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