東京
日が暮れるともう外には涼しい風が吹いていて七分袖にサンダルのアンバランスがしっくりくる
一段ずつ階段を降りるたび
もわっと重たい空気が足元に絡みついて
地下鉄のホームにはまだ嫌な夏の匂いが残っている
あんなにさわやかな風が吹いていた地上はどこかにいってしまって
眉間にしわをつくりながらなんでもない顔をする
ついこの間まで空の広い国道を車で走っていたのが
遠い
昔のように恋しくなる
人が多くて、満員電車で、どこに行っても疲れるよ、
そんなことを言われ飽きてしまった街。
走るにつれてやっぱり少しずつ空気は薄くなって
それでもイヤホンから聞こえるけだるい音楽を飲み込み、今日も地下鉄に揺られる
生きること、それは空間から空間へ、なるべく身体をぶつけないように移動することなのである-ジョルジュ・ペレック「さまざまな空間」
左に立つ人と右に立つ人の間には空間ができていて、そう、そこにはこの身体がすっぽり入るだけのスペースが
食器棚にきれいに器をおさめるように
こうして私の体もおさまっている
だだっ広い空と地面の上ではすぐに飲み込まれて消えてなくなってしまいそうなそんなちっぽけな空間が、ここにはある。
息苦しさをおぼえてはじめて呼吸することを思い出すようなあまのじゃく
これはきっと好きと嫌いの表裏一体みたいなもの
それでも結局私はここに帰ってきてしまうのだから。東京。
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