部屋にまつわるメモ
ベッドは、ひとつの世界。
見えないうすーい膜が、この身体ひとつ分のまわりをぐるっと囲んで、外の空気をすり抜けさせながら、ちょうどいいひとりぼっちにさせてくれる。
部屋は、外から見ればただの箱。何もない空間に内と外を作り出す装置。
でもそれは内と外をそれぞれ遮断する役割なのではなくて、自分のこの身体を地面に立たせるための、ちょうどいい距離をはかる、ものさしみたいなものなのだと思う。
誰かの肌に触れて、はじめて自分の肌を意識するように、そういうふうにできている。
あの部屋も、この部屋も、それぞれがそこにいて、それぞれの暮らしの中で、肌の感触を確かめるようにドアを閉めたり窓を開けたりしているのだろう。
人はひとりで生まれて、ひとりで死ぬ。
住む場所を変えても、その部屋は生きている限りわたしの中にある。
目をつぶると、それまで気づかなかった扉に出会えることがある。それは開けることもできるし、見なかったことにすることもできる。
でもきっと誰もが、自分の部屋の在り処は知っている。
その空間には、何かあるんだろうか。何もないんだろうか。時間はあるだろうか。ないだろうか。
行って、確かめてみないと、それはわからない。中に入って。
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