
上司とのやり取りで避けたい3つの態度-部下が身につけたい意見の仕方
上司への不満ランキングなるものは毎度面白おかしく取り上げられるものですが、部下は普段から上司に対してどんな態度で接しているでしょうか?
上司がダメだと決めつける前に、自分の態度を振り返ってみることは有益です。自分の態度や姿勢を顧みることなく、一方的に相手である上司を非難するようでは大人の振舞いとは言えず、信頼関係など生まれようがなく、評価もされにくいでしょう。
上司との関係があまりうまくいっていないとしたらその原因の一端はもしかすると部下自身の態度にあるかもしれません。
特に上司から意見を求められた時に、どんな対応を取るかで関係性が形作られ、ひいては自分の評価に影響が及ぶことがあることは知っておきたいものです。
上司と部下の関係性というテーマは中国古典では繰り返し登場するものですが、今なおハッとさせられるものが多いように思います。

例えば、「韓非子」でも部下の心得というものが取り上げられていますが、その中から、上司に対する説得の難しさについてご紹介します。
韓非子は、説得の難しさは『どれだけ知識があるか』や『話し方のうまさ』でもなく、『相手の心を読むこと』にあると説いてます。
「相手を説得することは難しい。だがそれは相手を説得するうえで十分な知識を身につけておくことの難しさではなく、自分の意見をよどみなく述べる難しさでもない。また、言いたいことを言い切ってしまう難しさでもない。何が難しいのかと言うと、相手の心を読み取ったうえで、こちらの意見を相手の心に響かせることの一点に尽きる」
自分の意見を相手の心の動きに合わせて、慎重に言葉を選び、自分の意見を受け入れてもらうように振舞えと言っているのですが、なかなかどうして、そう簡単なことではないと感じる人も多いでしょう。
相手が上司という場面で犯しやすい過ちは、ロジックがしっかりしていれば上司といえども受け入れざるを得ないはずだと考えることです。そして、自身の意見が受け入れられなかった場合に上司に無能の烙印を押して、距離を置いてしまうことです。
論理的な正しさで押し通そうというやり方は一見すると正しいように見えますが、その意見が必ずしもその時点で最適とは限りません。なぜなら上司自身が考えている優先順位、会社の状況など加味すべき事情というものが他にあるかもしれないからです。
自分の意見が部分最適でしかないのに、自分に見えている範囲での正解に酔ってしまい、それが受け入れられないと相手を非難するというのでは建設的な意見交換ができなくなってしまいます。
上司とのやり取りで避けたい3つの態度
さて、本題の「上司とのやり取りで避けたい3つの態度」ですが、上司と話すときに注意したい3つのポイントが論語に出てきます。
子曰わく、君子に侍るに三愆有り。言未だ之に及ずして言う、之を躁と謂う。言之に及びて言わざる、之を隠と謂う。未だ顔色を見ずして言う、之を瞽と謂う。
「目上の人に対してしてはならないことが三つある。それは他でもない、軽はずみ、隠し立て、目が見えないことである。軽はずみとは、相手がまだ話題にしないことまで先取りして言うこと。隠し立てとは、意見を求められても答えようとしないこと。目が見えないとは、相手の顔色も読まないでまくしたてることだ。」
それぞれ解説します。
1.躁(そう)・・差し出がましいこと。
2.隠(いん)・・相手の質問に答えないこと。
3.瞽(こ)・・相手の顔色を読まないこと。
■意見を求められていないのにしゃしゃり出る
躁はもともと騒がしいという意味で、相手から意見を求められていないのに、しゃしゃり出て、こうするべき、ああするべきと自説を述べてしまうことです。
上司にとってみれば、「そんなことはわかっている。でも今じゃない」と思っているかもしれません。
正義感が強かったり、クリティカルシンキングの行き過ぎなタイプが陥りやすいかもしれません。
意見を述べたいのであれば、タイミングを見計らうことも大事なことです。積極的に意見を上げているのに取り上げてもらえないと嘆いたり、怒りを感じる人はこの視点が欠けているのです。
自分にとってはこれが正しいことで、それを実行しない上司や会社が無能だと決めつける前に、会社全体における優先事項、リソースの多寡や課題の真因を感じとるアンテナを立てることから始めないと自分は真っ当な意見を言っていると自己満足に終わるだけです。

■意見を求められているのに、答えようとしない
隠は、相手から意見を求められているのに、答えようとしない消極的な態度、姿勢のことを指していて、躁とは反対の態度です。
上司から見て消極的な態度がどのように受け止められるかというと、
1.考えていないと思われる
2.やる気がないと思われる
3.信頼されなくなる
4.上司の意思決定の助けるチャンスを逃す
1. 考えていないと思われる
上司が意見を求めるのは、「君はどう思う?」と思考力や判断力を試している場合が多いものです。そこで黙ってしまうと、何も考えていない、主体性がないと思われてしまいます。結果として、この人には責任ある仕事を任せられないなと評価が下がります。
2. やる気がないと思われる
意見を言わないと、自分の考えを持っていない、責任を避けていると見なされ、「ただの指示待ち」と判断され、評価されずらくなります。
3. 信用されなくなる
上司は部下の意見を聞いて、この人はどんな考え方をするのか、どこまで理解しているのかを見ています。意見を言わないと、何を考えているか分からない人と思われ、信頼関係を築きにくくなり、結果として、重要な仕事や相談事を任せてもらえなくなることに繋がっていきます。
4. 上司の意思決定を助けるチャンスを逃す
上司が部下に意見を求めるのは、自分の判断をより良くしたいからでもあります。部下が的確な意見を出せば、上司も「こいつの意見、参考になるな」と感じますし、それが信頼や評価に繋がります。逆に、何も言わなければ「こいつには聞いても無駄」と思われてしまいます。
もちろん、なんでも発言すればいいわけではありませんが、求められた時にはしっかり考えを伝えないと、「思考力がない」「責任感がない」「信頼できない」と見られてしまいます。上司との関係性を良くするためにも、きちんと自分の意見を伝えることが大事です。
■相手の顔色を読まない
瞽は目が見えないという意味になりますが、相手の顔色を読まずに、まくし立てる態度のことを示します。
上司の顔色を読まずに意見をまくし立てるのがダメな理由はいくつかあります。
1.空気が読めないと思われる
2.上司の意図や事情を無視してしまう
3.扱いにくい人と判断される
4.上司の判断を妨げる
1. 空気が読めないと思われる
会話はキャッチボールですから、一方的に話すと独りよがりとか相手の立場を考えていないと思われます。上司も人間ですので、自分の状況や気持ちを無視して押し付けられると不快に感じることがあるのは当然でしょう。
2. 上司の意図や事情を無視してしまう
上司が部下の意見を求める時、「何を知りたいのか」や「どんな事情があるのか」が前提にあります。けれど、顔色を読まずにまくし立てると、上司が求めていない話になってしまい、結局「時間の無駄」と思われる可能性があります。
3. 扱いにくい人と判断される
組織で評価されるのは、単に意見を言える人ではなく、適切な場面で適切な意見を言える人です。上司の話を聞かずに意見をまくしたてると、「この人は自分のことしか考えていない」と思われ、仕事を任せにくくなります。
4. 上司の判断を妨げる
意見を押し付けるような話し方をすると、上司は冷静に判断する余裕がなくなり、むしろ「反発心」を持つことがあります。結果として、本来受け入れられるかもしれない意見も拒否されることになりかねません。
意見を通したいなら、相手が受け入れやすい形で伝えることが大事です。まくしたてると、相手は「押し付けられている」と感じ、心理的に拒絶しやすくなり、せっかく正しい意見でも、伝え方次第で却下されることになることもあります。
デキる人は空気を読まない人という考え方もありますが、誰もができることではありませんし、それが受容される組織において可能だということも理解しておくのが良いと思います。

まとめ
上司との関係を良好にするには、自分の態度を振り返ることが大切です。韓非子や論語の教えからも分かるように、ただ正論を述べるだけではなく、相手の立場や状況を理解し、適切なタイミングや伝え方を意識することが重要です。
特に、論語で取り上げている上司とのやり取りで避けるべき3つの態度は参考になると思います。
躁 … 差し出がましく、求められていないのに意見を述べること
隠 … 意見を求められているのに答えようとしないこと
瞽… 相手の顔色を読まずに一方的に話すこと
これらを意識し、上司との関係を円滑にするコミュニケーションを心がけることで、自分の評価も高まり、仕事の成果にもつながるでしょう。
もちろん、適切なタイミングに注意を払い、上司の状況や心境を考えながら意見を上げても聞く耳を持ってもらえない場合もあるでしょう。その場合には部下の態度だけではなく、上司の問題と言えるでしょうし、上司としての能力、人格、心構えが身についてない人も残念ながら存在します。
ただ、上司に対して不満を抱く前に、まずは自分の姿勢を見直してみることには価値があります。必ずしもその上司と一生付き合うという訳ではありません。上司が異動になる、自分が転職するといった事情が発生することもあるでしょう。
もし、その後にまともな上司に巡り合えても、部下の作法を身につけていないと、どんな正しいことでも実現することはできません。
上司にしてはならない態度…というとなんだか上司におもねったり、機嫌を取るような印象も受けるかもしれませんが、上司と部下の関係性は人間関係の問題ですから、処世術のひとつとして「してはならない3つの態度」を知っておくことで、上司との信頼関係を築き、より良い職場環境をつくる第一歩を進めることができるのではないかと思います。
最後までお読みいただきありがとうございます。