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ゲンバノミライ(仮)

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被災した街の復興プロジェクトを舞台に、現場を取り巻く人たちや工事につながっている人たちの日常や思いを短く綴っていきます。※完全なるフィクションです。実在の人物や組織、場所、技術な…
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#東日本大震災

第71話 墓守の育夫さん

第71話 墓守の育夫さん

「この街で新しい墓地が開かれる姿を見るのは、私は生まれて初めてです。
それって、やっぱり悲しいですよ」 

例年よりも早く春が訪れたようだ。海風がなびいてくるが、冬場の突き刺さるような冷たさはなくなり、むしろ、心地よさを運んでくる。
この街で石材店を営む岡本育男は、目の前に広がったまっさらな平地をゆっくりと見渡した。
ここに、これから墓石が建ち並んでいく。

今日は、この街の復興事業を一手に担うコ

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第67話 海を望む和也さん

第67話 海を望む和也さん

「空き地だって希望だ」。
森本和也は、このキャッチコピーに触れた時、頭に血が上った。
心の奥底から憤りがわき上がってきた。

和也は、海辺にあるこの街の小さな集落で生まれ育った。
2階の自分の部屋から、海を見るのが好きだった。海が怖いなんて、あの日まで知らなかった。

結婚前に、妻になるさくらを初めて連れてきた時に、「私もこの景色が好き」と言ってくれた。だから、生まれた娘には、海からの希望とともに

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ゲンバノミライ(仮)第32話 応援職員の山木主査

ゲンバノミライ(仮)第32話 応援職員の山木主査

こんな広大な規模の工事は今まで見たことがなかった。あの災害から復興するためには、ここまでやらないといけないのか。
ニュースで見るのと現地に立つのとでは、まったく印象が異なる。自分が本当に役に立つのだろうか。

山木登は、小さな自治体で土木系職員として働いていた。数年だけ違う部署にいたことがあるが、それを除けば工事の発注や監督などを担当してきた。工事といっても、数百メートルの道路工事や、道路の維持補

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ゲンバノミライ(仮)第31話 広報担当の相馬課長

ゲンバノミライ(仮)第31話 広報担当の相馬課長

きれい事ばかりで良いのだろうか。
自分の会社をPRするのが仕事なのだから、良いに決まっている。
もちろんそうなのだけど、腑に落ちない。

本社の広報部門の課長として社内報制作を担当する相馬駿助は、悩んでいた。

あの災害からの復興街づくりが次号のテーマ。企画の中心には、復興プロジェクトを包括的に手掛けるコーポレーティッド・ジョイントベンチャー(CJV)の取り組みを据えた。
同じゼネコン社員である中

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ゲンバノミライ(仮)第30話 道路屋の友哉くん

ゲンバノミライ(仮)第30話 道路屋の友哉くん

すべすべとした滑らかな表面。太陽の光が当たると、てかてかと輝くように見える。

美しい。
きれいだね。
そんな風に声を掛けたくなる。

でも、それだけではない。
年月が経てば、何度も何度も踏みつけられて、汚れてきたり、ブツブツが出てきたりもする。それは致し方ない。
生まれたてのきれいな姿も好きだけれど、頑張ってきた証が年輪のように刻まれた表情には、別の美しさがある。
頼もしくも誇らしい。

何十年

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ゲンバノミライ(仮)第29話 未完成の吉本さん

ゲンバノミライ(仮)第29話 未完成の吉本さん

「自分のために」だけじゃ、正直しんどい。
年月が経った今、そう思う。
「何のため」なら良いのだろう。

吉本奈保の朝は早い。4時に起きると、着替えや身支度をして朝ご飯を準備する。すぐに食べると昼まで持たないので、まずはお預け。2時間ほど机に向かって大学受験の勉強をする。帰宅後の2時間を合わせても1日4時間しかない。現役高校生や浪人生に比べると全然少ない。地道に続けて、追いつかないといけない。
7時

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ゲンバノミライ(仮)第28話 境界線上の森田社長

ゲンバノミライ(仮)第28話 境界線上の森田社長

ようやく最上階まで立ち上がってきた。設備や内装の工事はこれからなので完成にはまだ時間はかかる。最初の1棟ができても、周辺は更地のまま。だが、復興に進んでいることが見えてきただけでも大きな進歩だ。

森田真知子は、復興プロジェクトを包括的に手掛けるコーポレーティッド・ジョイントベンチャー(CJV)の下請企業で社長をしている。3代目続く小さな総合建設業の会社として若くして家業を継いだ。社長としての肩書

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ゲンバノミライ(仮)第26話 技研の大山研究員

ゲンバノミライ(仮)第26話 技研の大山研究員

「俺の感覚だが、多分いける。進めよう」
技術研究所にいる大山規子は、天野渡からの電話に思わずガッツポーズをした。

「天野君、さすがだね。昔から偉い人をうまく転がすのが得意だったもんね」
「よく言うよ。そうやっていつも俺を小間使いに使うのは大山さんの方じゃないか。旦那さんもさぞ苦労してるだろうと思うよ」
お互いの立場は変わったが、こういうやり取りはあの時のままだ。

大山と天野が出会ったのは海外留

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ゲンバノミライ(仮) 第23話 出禁の瞬くん

ゲンバノミライ(仮) 第23話 出禁の瞬くん

久しぶりの夜の街だった。賑やかで楽しい。手持ちの金はあまりないが、久しぶりにキャバクラでも行こうか。こういう気分の時は、酒でも飲んで楽しまなきゃだめだ。

思い出すだけでもムカムカする。腹が立って仕方がない。
どいつもこいつもごちゃごちゃ言いやがって。

武田瞬は、きょう、現場から追い出された。
沿岸の街の復興工事の現場で、足場の組み立てや解体を主に担う鳶職人として働いていた。
自分で言うのも何だ

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ゲンバノミライ(仮) 第20話 高台の吉田自治会長

ゲンバノミライ(仮) 第20話 高台の吉田自治会長

カタカタカタカタ…、カタカタカタカタ…、ガタッ、ガタッ…、ガタッゴトッ、ガタガタッ、ガタゴトガタッ!!!

遠くから近づいてくる振動が徐々に近づいてきた。家の前で騒音と振動がピークを迎える。その後は、だんだんと静かになっていく。

今日も始まった。
そう思うと、本当に憂鬱になる。

高台の集落に住む吉田嗣男は、地元の自治体で勤め上げた。退職後は家族で旅行をしたり、趣味の家庭菜園で野菜を育てたり、の

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ゲンバノミライ(仮) 第18話 経理の三輪部長

ゲンバノミライ(仮) 第18話 経理の三輪部長

負けて良いのか。なるほど。それは思いつかなかった。
CJVで経理第1部長を務める三輪孝二郎は、メンバーたちの頭の柔らかさに驚いていた。

何はともあれ、自分たちの行政が損をしないことが第一。
誰かに言われた訳ではないが、行政職員時代には、そうした感覚が染みついていた気がする。

だが、いったん離れてみると、そんな器の小さい考え方では最適解にたどり着けないのがよく分かる。自分たちが勝たなくても、プロ

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ゲンバノミライ(仮) 第14話 都市プランナーの内藤課長

ゲンバノミライ(仮) 第14話 都市プランナーの内藤課長

「はい。分かりました。いえいえ、仕方ありません。どっちつかずのままよりは、早めに決断して、この条件に沿って前に進める方が賢明です。早急に代替案を考えましょう」

復興街づくりの構想立案から調査・設計、施工、その後の運営までを一手に担うコーポレーティッド・ジョイントベンチャー、いわゆる「CJV」で計画課長を務める内藤巧巳は、隣の西野忠夫所長の話しぶりで、中身がだいたい想像がついた。
プランを練り直す

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ゲンバノミライ(仮) 第13話 二世の柳本首長

ゲンバノミライ(仮) 第13話 二世の柳本首長

「それはガバ部屋で話しましょう」

あの災害後の選挙で首長になった柳本統義の口癖だ。

柳本の父の昌義は前々首長を務めた地元の名士だ。その長男として育った。都会の大きな自治体で職員として経験を積み、国会議員秘書を経た後、父の引退に合わせて地盤を引き継ぎ地方議員になった。
あの災害が起きたのは、議員2期目の途中だった。街の多くの人とともに行政職員にも犠牲が出て、ただでさえ脆弱だった組織は混乱の中で機

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ゲンバノミライ(仮) 第3話 休日の西野所長

ゲンバノミライ(仮) 第3話 休日の西野所長

土曜日の夕方、西野忠夫の携帯電話が鳴った。

久しぶりに土曜休みをとって、現場から家に戻り、家族と街に出かけていた。隣にいる高校卒業を間近に控えた娘の手には、2時間悩んだ末にようやく決めた入学式用フォーマルコートが包まれた紙袋が揺らめいている。穏やかな春の日。買い物を済ませて、これから食事に向かうタイミングだった。

B工区を任せている高崎直人の名前が表示されている。

通常であれば、連絡調整アプ

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