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【連載】#13 スピードは最強のスキルである|唯一無二の「出張料理人」が説く「競わない生き方」

職業「店を持たない、出張料理人」、料理は出張先の素材を最大限に生かしたオンリーワンのレシピを考案して提供する――。本連載は、そんな唯一無二の出張料理人・小暮剛さんが、今までの人生で培ってきた経験や知恵から導き出した「競わない生き方」の思考法&実践法を提示。人生を歩むなかで、比べず、競わず、自由かつ創造的に生きていくためのヒントが得られる内容になっています。

※本連載は、毎週日曜日更新となります。
※当面の間、無料公開ですが、予告なしで有料記事になる場合がありますのでご了承ください。

よく「急ぎの仕事は、忙しい人に頼め」と言われますが、私もその通りだと感じています。忙しい人ほど、決断よく、スピーディーに仕事をこなします。私もすべての仕事を一人でこなしているので、1つのことをゆっくりやっていてはどんどん仕事が溜まってしまい、お客様にも迷惑をかけることになります。

例えば「食材の仕入れ」ですが、メニューのイメージが固まったら、すぐに必要なものを仕入れます。良い食材ほど早く手配しないと、他の人に買われてしまうからです。出張料理を始めた当初は、あらゆることに不慣れなため、仕入れも後手、後手にまわり、気に入ったものが手に入らずに焦ったことが何度もありました。

次に「仕込み」ですが、私の場合は野菜をたくさん使うこともあり、仕込みにものすごく時間がかかります。早く仕込みを始めることで心に余裕も生まれ、より丁寧な仕込みができます。お肉だったら、ただ切って塩胡椒をかけ、フライパンで焼けば、ステーキという一品になりますが、野菜はそうはいきません。まず、皮を剥き、ちょうど良い歯応えに下湯がきしてから、その野菜に合った出汁をつくって、さらに煮含(にぶく)め、ゆっくり置き冷ましして、野菜の持つおいしさを引き出します。コース料理だと、前菜からメイン料理までに、野菜を30種類ぐらい使うので、仕込み中には、ガス台の上に30個近くのお鍋が並び、鍋洗いも大変です。出張当日も遅刻厳禁ですから、カーナビに表示される所要時間プラス1時間以上前にはウチを出ます。今まで道路渋滞の恐ろしさ、特に高速道路での事故渋滞の恐ろしさを知らずに大遅刻して、お客様にご迷惑をおかけしたことが何度もあり、その恐ろしさは身に染みています。遅刻してしまうと、初対面のお客様にお会いした瞬間から気まずい雰囲気になり、楽しんでいただくはずが、マイナスのサービスからのスタートになってしまいます。それはプロとして失格です。

お客様宅のキッチン設備もそれぞれで、火力がかなり弱いこともあるため、お料理の仕上げも、早め早めにしないと、次のお料理をお待たせしてしまうことになります。コース料理は、お出しするテンポも大切で、あまり間が開くと、しらけた感じになってしまいます。また、「皿洗いなどのあと片付け」も、お料理しながら同時進行で早め早めに皿洗いもして片付けていかないと、狭いキッチンで収拾がつかないことになります。

早め早め、スピード感は、ビジネスにおいて最強のスキルだと思っています。

料理以外の仕事も、スピードが大切です。例えば、お客様からのお問い合わせメールが来たら、私の場合には、メールではなく、なるべくすぐに電話をおかけするようにしています。メールだと、何回もやりとりしないとお客様のご要望が見えてこないですし、今回の仕事に対してどのくらいの熱量をお持ちなのかわかりづらいですが、電話でしたら、一度にいろいろなことを確認でき、顔は見えなくても、お客様の一番のご要望が何なのか、どのくらい前向きなのかが、声の感じでだいたいわかります。そして何より、「こんなに早く、小暮シェフは対応してくれるのか! しかも、直接本人がわざわざ電話してくれて……」と、一気に私への信頼度が増すことになります。

こんなやり方は、今の若い方の中には「いかにも昭和っぽい」と思う方がいるかもしれませんが、時代が変わっても、人の心を動かすのは、やはり「スピーディーで誠実な対応」だと自信をもってお伝えしたいことです。

「早い動き」は、メンタルにも影響を与えます。例えば、早寝早起き、早歩き、階段を軽やかに駆け上がる、活字などを速読する、新幹線などの速い乗り物に乗るといったことは、波動がとても上がります。私自身が身をもって感じていることなので、もしあなたもちょっと不調だなとか、波動が下がっているなと思ったら、ぜひ身近なところから、スピーディーに行動してみてください。きっと何事にも前向きになれることでしょう。

私は1つの仕事が終わると、すぐに請求書を出しますし、ご請求をいただけば、お支払いも早くこなします。お金にルーズなのは気持ちのいいものではないので。何かお世話になったり、頂戴したときにも、必ず、すぐに御礼をしたり、御礼のお手紙を自筆で書きます。仕事柄、地方の優れた食材や食品をいただくことも多いのですが、そんなときにも、すぐに味見したり、料理に使ってみて、必ずその感想をすぐにお伝えするように心がけています。

繰り返しますが、スピードは最強のスキルです。

早いことにデメリットはありません。早ければ早いほど、物事は進み、失敗してもリカバリーが可能であり、相手の信頼を高め、自分のテンションや波動を上げてくれます。あなたも、今できることからでいいので、「すぐに」行動してみてください。

【著者プロフィール】
小暮 剛(こぐれ・つよし)
出張料理人。料理研究家。オリーブオイルソムリエ。1961年、千葉県船橋市生まれ。明治学院大学経済学部卒業後、辻調理師専門学校を首席で卒業。渡仏し、リヨンの有名店「メール・ブラジエ」で修業。帰国後、「南部亭」「KIHACHI」「SELAN」にて研鑽を積み、1991年よりフリーの料理人として活動開始。以後、日本全国、海外95カ国以上で腕をふるう「出張料理人」として注目される。その土地の食材を豊富に使い、和洋テイストを融合させて、シンプルに素材の持ち味を生かす「小暮流料理マジック」に、国内のみならず世界中から注目が集めている。近年は、出張料理人として活躍しながら、地域食材を最大限に生かしたレシピ開発を通じた地方再生や、子どもたちの食育講座などを積極的に行なっている。また、日本におけるオリーブオイルの第一人者としても知られ、2005年には、オリーブオイルの本場・イタリア・シシリアで日本人初の「オリーブオイルソムリエ」の称号を授与している。その唯一無二の活躍ぶりは各メディアでも多く取り上げられており、TBS系「情熱大陸」「クレイジージャーニー」への出演歴も持つ。最終的な夢は、「食を通して世界平和を!」。

▼本連載「唯一無二の『出張料理人』が説く『競わない生き方』」は、下記のサイトで過去回から最新話まですべて読めます。


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