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【連載】#16 情けない自分を受け入れるときのヒント|唯一無二の「出張料理人」が説く「競わない生き方」
職業「店を持たない、出張料理人」、料理は出張先の素材を最大限に生かしたオンリーワンのレシピを考案して提供する――。本連載は、そんな唯一無二の出張料理人・小暮剛さんが、今までの人生で培ってきた経験や知恵から導き出した「競わない生き方」の思考法&実践法を提示。人生を歩むなかで、比べず、競わず、自由かつ創造的に生きていくためのヒントが得られる内容になっています。
※本連載は、毎週日曜日更新となります。
※当面の間、無料公開ですが、予告なしで有料記事になる場合がありますのでご了承ください。
あなたは「自分が情けない」と思うのは、どういうときでしょうか? そして、そんな自分とどう向き合い、どのようにして立ち直りますか?
私は、体が大きいわりにかなりの小心者で心配性です。出張料理の仕事を長く続けていると、毎回、何かしらのハプニング、サッカーで言うところのアウエーの洗礼を受けます。今では、そのデータ(反省)が蓄積し、頭の中でかなり分厚いファイルになっていて、あらゆることに慎重になってしまいます。いつも不安を抱えてビクビクしている感じです。でも結局は、取り越し苦労になることがほとんど。「小さいことは気にせずに、もっと大胆に行けばいいのに……」と思うのですが、なかなかそうはいかない自分を情けないと思ってしまいます。
この連載でもお伝えしましたが、コロナ禍の4年間はまったく仕事がなく、一日中誰とも会わず、まったく会話もなければ、問い合わせの一つもない状態。自分の力の限界を強く感じ、本当に自分は情けないと、自己嫌悪に陥っていました。
お店をしているシェフ仲間からは、「ステイホームのこの時期は、ホームパーティーが多いでしょうから、小暮さんは引っ張りだこでしょ?」とよく言われましたが、とんでもないです。東京都のホームページにも、千葉県のホームページにも、ハッキリと「ホームパーティーも自粛してください」と書いてありましたし、もしホームパーティーを主催したお宅からコロナ患者が出たら、あっと言う間に噂が広がり大変なことになりますから、一件のお問い合わせもありませんでした。おそらく、家政婦さんのようにご家族3〜4名様分だけつくる仕事ならあったかもしれませんが、私はお料理の合計金額が10万円から承っているので、少人数だと、どうしても割高になってしまうのでなかなか難しいところです。
お店があれば、政府から休業補償金もいただけてかなり楽だったと思いますが、私はお店を持たない出張料理人なので、仕事に関しては一切の補償もなく、4年間、誰にも相談できずにじっと耐えるしかなく、本当に苦しかったです。
今までも山あり谷ありで、どん底は何回か経験していますが、こんなに長く誰とも会わずに、誰からも問い合わせのメールすらない時間を過ごしたのはコロナ禍が初めてで、本当に情けない毎日でした。
そんなときに、私のお客様でもあった志村けんさんがコロナでお亡くなりになったという報せは、とてもショックでした。すぐにAmazonで志村けんさんの代表的なご著書を3冊買い、読ませていただきました。当時、落ち込んでいる自分に刺さるメッセージがいくつもあり、赤線を引き、何度も読み返しました。
なかでも最も刺さったメッセージは、「継続の大切さ」を書いた一節です。
それを読んで、がぜんやる気が出てきたのです。こんなことで落ち込んでいたら、志村さんに申し訳ない。コロナ後の来るべきチャンスに備えて、心身共にベストの状態でいよう――。
そう思い立って毎朝のウォーキングを再開。スポーツジムが再オープンしてからは、ジムにも毎日通うようになりました。普段は、自分の食事は外食が多いのですが、さすがにコロナ禍でステイホームの時期には、3食自炊していました。外食中心だと、どうしても炭水化物が多くなるため、意識して野菜中心の食事を心掛けました。私イチオシのEXVオリーブオイル「ラヴィダクラシックレーベル」をかけていただくと、しみじみ野菜がおいしいと感じることができました。そんな食事を続けているうちに、体重もどんどん減ってきました。今までどんなダイエット方法を試しても、なかなか体重は減りませんでしたが、やはりおいしいオリーブオイルで野菜をいただくのが腹持ちもよくベストです。
志村けんさんのご著書を読んだのをきっかけに、読書に目覚め、自分が目標としている矢沢永吉さんや郷ひろみさん、綾小路きみまろさん、長嶋茂雄さん、王貞治さん、新庄剛志さんらのご著書も買い込んで、自炊ごはんを食べた後には、必ず読書タイムを取るようにして、規則正しい生活を心掛けています。
「自分のことを情けない」と思ってしまうのは、そのときの自分にどこか自信がない、つまり、自分を信じる力が欠けていることをなんとなく自覚しているからなのではないかと、私は考えています。そのどこか欠けている自分を素直に受け入れて、欠けているものを埋めていく。
その行動のひとつが、規則正しい生活を整えて、心身を整えること。心身にどこか不安があると、人は自分を信じる力、つまり、自信が持てなくなってきます。日常の食事と運動、そしてインプットを整えていくことで、おのずと自信がついてくる、自分を信じる力がついてきます。
もし無力で情けない気持ちになってしまったら、そんな自分をまず受け入れ、自分を労わりながら、日常の食事や運動、インプットで心身を整えて、やがて必ずやってくるチャンスをつかむ準備にフォーカスしてみてください。明けない夜はありません。いくつになっても小心者で、幾度もどん底を乗り越えてきた私の経験から導き出した、夜が明けるまでの過ごし方のヒントです。
【著者プロフィール】
小暮 剛(こぐれ・つよし)
出張料理人。料理研究家。オリーブオイルソムリエ。1961年、千葉県船橋市生まれ。明治学院大学経済学部卒業後、辻調理師専門学校を首席で卒業。渡仏し、リヨンの有名店「メール・ブラジエ」で修業。帰国後、「南部亭」「KIHACHI」「SELAN」にて研鑽を積み、1991年よりフリーの料理人として活動開始。以後、日本全国、海外95カ国以上で腕をふるう「出張料理人」として注目される。その土地の食材を豊富に使い、和洋テイストを融合させて、シンプルに素材の持ち味を生かす「小暮流料理マジック」に、国内のみならず世界中から注目が集めている。近年は、出張料理人として活躍しながら、地域食材を最大限に生かしたレシピ開発を通じた地方再生や、子どもたちの食育講座などを積極的に行なっている。また、日本におけるオリーブオイルの第一人者としても知られ、2005年には、オリーブオイルの本場・イタリア・シシリアで日本人初の「オリーブオイルソムリエ」の称号を授与している。その唯一無二の活躍ぶりは各メディアでも多く取り上げられており、TBS系「情熱大陸」「クレイジージャーニー」への出演歴も持つ。最終的な夢は、「食を通して世界平和を!」。
▼本連載「唯一無二の『出張料理人』が説く『競わない生き方』」は、下記のサイトで過去回から最新話まですべて読めます。
https://note.com/forestpub/m/m95d928fd2a12