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留学先のアメリカでイエスキリストに出会い、人生を変えられてしまった真木さんは、じつは信州の旧家の跡取りだった。故郷で彼を待ちかまえている、封建的な家制度から逃亡すること二十年。つ…
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記事一覧
その先にあるもの (短編)
*この小説は作り話であり、
実際の団体や人物とは関係がありません*
「そう、そうね、大変じゃないなんてことないわ」
歌うように、彼女は言った。泡だらけのスポンジを手に、汚れたカレー皿と戦いながら。かろやかな音楽を漂わせた、いつまでも夢みる少女のようなひと。その傍にいて感じるのは、心のなかにある涸れない泉の存在。ぼくでなくとも、ついつい引き寄せられてしまう。
「なんでいまさらそんなこ
揺らぐことない都 (短編)
*この小説は作り話であり、実際の団体や
人物とは関係がありません*
↓あずさの車中で
「まつもとぉ、まつもとぉ」
というノスタルジックなアナウンスとともに、鷲尾夫人はまあたらしい桔梗色の列車を降りた。やっぱり寒いわ、と灰色のコートの襟を正して、どこか寂しげな、味気ないホームを見回す。いいえ、まだだわ、雪をまとった常念岳を見なくては、わたし、故郷に帰ってきたという気がしないの。
改札を
わたしのものではない戦争 (短編)
*この小説は虚構であり、
実際の団体や人物とは
なんの関係もありません*
地獄の底から響いてくるような声だった。まずは小さく始まって、「ゥゥゥウウウ」という唸り声はすぐ「ウワアアアアアアア」という叫びに変わった。大丈夫? と仄かな灯りに照らされた寝顔を覗くと、苦悶の表情。けれど夢からは決して覚めない。
彼がどのような地獄を見てきたのか、わたしにはわからない。けれど毎晩のように聞かされる叫