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文芸評論

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ロマンティックを意識して文芸評論、書いてます📝 たまに肩に力が入った評論も書きますが、ぜひ読んでみてください🧑‍💻
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記事一覧

評論 アニー・エルノー「若い男」 熟年の女性が好きなのに、若い女性の身体の誘惑には勝てない彼は美学をわかってないし、そこを結婚の問題として攻める彼女はセクシーすぎる

評論 アニー・エルノー「若い男」 熟年の女性が好きなのに、若い女性の身体の誘惑には勝てない彼は美学をわかってないし、そこを結婚の問題として攻める彼女はセクシーすぎる

 1. イントロデュース
 
 
 ダンテはフィレンツェ追放にあった後、ベアトリーチェのような女性と会うことができたのだろうか。ボッカチオの『デカメロン』の映画を見ると、なんとなくだけど、会えたんじゃないかって感じがする。理由は読んでいて、子どもの頃、会った女性を描いてるだけには思えないからだ。
 彼女は本作の最後で、書くことによって現実を引き寄せたと書いている。
 2、3週間のズレはあったけど、

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評論 石原慎太郎「死者との対話」 公として、アルターエゴとしての石原慎太郎の死生観、天国からだれか派遣して、悪党・石破を政界から追放してくれ

評論 石原慎太郎「死者との対話」 公として、アルターエゴとしての石原慎太郎の死生観、天国からだれか派遣して、悪党・石破を政界から追放してくれ

   1.イントロデュース
 
 
 僕は石原慎太郎という作家が好きで、政治家としても、天才的な人だったと思うんだけど、それは僕にない要素を多く持っていたからなのかもしれないと、この頃思う。
 石原慎太郎の暴力的なまでの力強さ、歯に衣着せぬ大胆な姿勢、遊びも上手な大人のジェントルマンとしての生き様、今でも憧れるけど、どこか近代的なところ、現代的なところではない近代的なところがあって、リアリスティッ

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評論 村上春樹『象の消滅』 比喩の捉えどころのなさの魅力、美学はどうあるべきかという問題、警察と軍警察の違い

評論 村上春樹『象の消滅』 比喩の捉えどころのなさの魅力、美学はどうあるべきかという問題、警察と軍警察の違い

   1.イントロデュース

 永遠の愛とはなんだろう。僕はこの問いを考えるのが好きだ。もちろんこの小説は恋愛小説としては書かれていない。なぜか現代文学、特に日本の現代文学は、恋愛の問題として捉えてもいいものを、恋愛の問題として捉えないで、他のテーマ、モチーフにスライドされることが多い。
 「象の消滅」の背景にある、というより、本来据えられるべきだったテーマは、永遠の愛についてなのだろう。それは古

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評論 オルガ・トカルチュク 『優しい語り手』 女神には永遠に恋愛感情の源泉であってほしい、女性にとっては当たり前のポストモダンの乗り越え方

評論 オルガ・トカルチュク 『優しい語り手』 女神には永遠に恋愛感情の源泉であってほしい、女性にとっては当たり前のポストモダンの乗り越え方

 オルガ・トカルチュクはポストモダンの旗手と呼ばれているそうだが、村上春樹、保坂和志、オルハン・パムク、オルガ・トカルチュクが、なぜポストモダンの先にいけないかという問題の答えとその共通点が、『優しい語り手』を読んでわかった。
 村上春樹、オルガ・トカルチュクは、罪業の否認、主に、古今東西普遍の法則に照らし合わせての罪業の否認、保坂和志、オルハン・パムクは女性らしさというものを受け入れないという女

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評論 アニー・エルノー 「嫉妬」 女性学者が好きというだけで、天上界への生活について真剣な彼女と別れるのは、確かにひどすぎると僕も思う

評論 アニー・エルノー 「嫉妬」 女性学者が好きというだけで、天上界への生活について真剣な彼女と別れるのは、確かにひどすぎると僕も思う

   1.本論

 「嫉妬」には、主人公が、なぜ男と別れたのかは書かれていなかったけど、理由はわかる気がする。
 男はインテリジェンスのある学者肌の女性で、かつ理想の女性と結婚したかったのだろう。
 ヒロインも文学などの学問に親しみが深かったけど、街の教会である男が、旧約聖書の詩篇の一編を読みながら、十字になって仰向けになって寝ているのを見て、私の辛さもこの男のものほどじゃないだろうと感じるシーン

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評論 保坂和志 第75回 「鉄の胡蝶は記憶を夢は歳月を掘るか」 保坂さんは最高だけど、女性は嫌いすぎるくらい嫌いだし、やっぱり女性は神なんだろうと思い至った秋の夕べ

評論 保坂和志 第75回 「鉄の胡蝶は記憶を夢は歳月を掘るか」 保坂さんは最高だけど、女性は嫌いすぎるくらい嫌いだし、やっぱり女性は神なんだろうと思い至った秋の夕べ

 保坂和志がずいぶん前から、『群像』でエッセイのような小説を書いてるということは、Instagramの情報とかで知ってたけど、積ん読が多いと、なかなか文芸雑誌までは手が伸びないもんで、実際、仕事を真剣にしてると文芸雑誌を読むなんていう時間は明らかにない。

僕はリベラル思想とかはまるで興味ないし、資本主義の反対に位置してると言われている共産主義思想なんかもっと興味がないから、そこに関して、保坂さん

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評論 『村上龍 VS 村上春樹 ウォーク・ドント・ラン』 言葉を信じられない春樹、ヒッピー小説を書きたかった龍

評論 『村上龍 VS 村上春樹 ウォーク・ドント・ラン』 言葉を信じられない春樹、ヒッピー小説を書きたかった龍

 村上春樹ライブラリーをウェブサイトで紹介したくて、早稲田まではるばるやってきた。目的は、ライブラリーを紹介するだけでなく、村上春樹関連の本で、絶版になってる貴重な資料を探すことにもある。
 資料を読んでる途中、遅い午後の木漏れ日を受けながら、やけに古い感じのする購買で、マウント・レーニアとトロピカーナのリンゴを買って、ライブラリーに戻りつつ思った。
 この図書館は、読書が好きな一般の人が、学生に

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評論 太宰治 『ろまん灯籠』 ロマン主義の本質と容姿と年齢

評論 太宰治 『ろまん灯籠』 ロマン主義の本質と容姿と年齢

1. イントロデュース


 太宰治が文学においてこだわったのは、理想の女性、女性らしい美を追求する女性との関係性だ。
 太宰治が嫌いという作家もよくいるし、日本においても海外においても太宰治の評価は、実力に比して高くない。
 堀辰雄以上にヨーロッパ人の持つ気質がある彼だが、世間への気遣いゆえに、彼は誤解され、自殺にまで追い込まれた。
 今回取り上げる「ろまん灯籠」は、グリム童話の「ラプンツェ

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評論 アントニオ・タブッキ 『インド夜想曲』 天使や神様が伝える存在の意味

評論 アントニオ・タブッキ 『インド夜想曲』 天使や神様が伝える存在の意味

1. イントロデュース


 「旅は人に出会うためにある」と本小説には、書いてある。
 不思議なことだ。
 ある土地では、あの人に似てる人が、別の有り様で存在し、また別の土地では別の有り様で存在している。存在論というのは、人との出会いを通じて、天上界のことを知ることこそが重要だ。
 天上界で楽しく生きている神様たちが、天上界の有り様を知らせてくれる時、それが地上界でのその人の人生と相関関係があ

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村上春樹と中上健次 アメリカについて

村上春樹と中上健次 アメリカについて

 『オン・ザ・ボーダー』という中上健次のエッセイ、対談集には、彼と村上春樹の対談が載っている。
 1980年代の半ばくらいに行われた対談で、物語論、日本、アメリカなど、その時、特にホットだった話題が取り上げられていて、敗戦後、アメリカや日本の文化とどう向き合っていくか、という今も日本が抱えている問題に真摯に挑んでいる2人を見ると、心の中に潜んでいる議論するよろこびに火がつく。
 中上健次は、エスニ

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評論 ヴィスヴァワ・シンボルスカ 『瞬間』 恋の情熱には、なぜ最高の価値があるのか

評論 ヴィスヴァワ・シンボルスカ 『瞬間』 恋の情熱には、なぜ最高の価値があるのか

   1.イントロデュース
 
 
 シンボルスカが『瞬間』という詩集において、投げかけた問いや答えは古今東西を見渡しても偉大な問いであるし、詩というのは本来、実在しないとされがちな、イデア界への問いかけや探究の結晶であるべきだ、ということはシンボルスカの詩を読むとよくわかる。
 イデア界への問いかけや探究は、果たして意味があるのかと疑問に思う人もいるだろう。
 イデア界というのは、生前に善を働き

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評論 石原慎太郎 「暴力計画」――世代を超えて、個性やリーダーの価値を問い続けることの意味について――

評論 石原慎太郎 「暴力計画」――世代を超えて、個性やリーダーの価値を問い続けることの意味について――

   1.イントロデュース
 
 
 石原慎太郎は、日本の作家では僕が中上健次の次に尊敬している作家で、政治家としても、故郷を愛した湘南人としても尊敬しているし、イタリアに来てからもたまにだけど、石原慎太郎のことを考える瞬間がある。
 彼は湘南高校にいる時、引きこもって絵ばっかり描いていたが、父親に死に際して、復学し、作家、東京都知事にまでのぼりつめた人でもあり、多彩でありながら、多難なひとだった

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評論 オルガ・トカルチュク 『優しい語り手』  No.1――個性と伝統の大通りの真ん中を行く人、「n個の性」についても――

評論 オルガ・トカルチュク 『優しい語り手』  No.1――個性と伝統の大通りの真ん中を行く人、「n個の性」についても――

   1.イントロデュース

 湘南T-SITEっていう本屋で偶然手に取った、ポーランドのノーベル賞作家、オルガ・トカルチュクが、これまでほとんど読んだことがないくらい素晴らしい作品を書いていたので、うれしかった。
 それは『優しい語り手』という本で、彼女が講演会で話したことをエッセイにしたものだけど、ダンテ、スペインの作家イレーネ・バリェッホと同じくらい優れた作家だと感じる。
 第1章「優しい語

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評論 村上春樹『風の歌を聴け』――比喩と構造を知るよろこび、喜劇の最高について--

評論 村上春樹『風の歌を聴け』――比喩と構造を知るよろこび、喜劇の最高について--

0. イントロデュース
 もしあなたが村上春樹をよく知っているひとや文学が大好きなひとだったら、5.結論までは読み飛ばしてください。南欧美学エッセイに書かれたものに比べればつたないものですが、笑えるという意味では少しあなたのお役に立てるかもしれないので。

 村上春樹の小説は、19歳の頃から読んでいて、青春期が過ぎても、時々、読み返したくなる作品ばかりだ。読んでて気分が晴れやかになる作品という意味

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