アミノ酸サプリメントは飲むのに、食品添加物のアミノ酸エキスは避ける矛盾の真意|いろは醤油誕生物語#5
後継者がいないために販売終了しただし醤油を引き継ぐことに決めた、醤油初心者のわたし。
わたしが作りたいと思うさらに良い『だし醤油』を作ろうと決めた前回までのお話の続きです。
わたしは、だし醤油を作る上で、
1)毎日食べたい美味しさ
2)毎日食べても罪悪感のない安心素材
この2つを両立させようと決めました。
あらゆる出汁や調味料を探し、決定するまでのお話を今日は書きたいと思います。
●● 前回までのお話 ●●
第1話:いろは醤油名前の由来→広島県鞆の浦で決めました。
第2話:お醤油蔵探し→岡山県とら醤油さんに決定しました。
第3話:お醤油を通して伝えたいこと→豊かさの本質伝えたい。心を軽くお料理ができるように。
第4話:うま味調味料を使うか使わないか→わたしが食べたくものは使いたくない。そんなことに気づかせてくれた出会いたち。
1)毎日食べたい美味しさとは
美味しいものは世の中にたくさんあります。
ハンバーガーもガツンと美味しい。
甘辛〜いすき焼きも美味しい。
激辛チゲ鍋も美味しい。
フレンチフライも美味しい。
だけど、わたしの中では毎日食べたいものではありません。
なぜかと考えると、味が濃いから。中でも、塩分が多いという共通点があることに気づきました。
毎日食べたいな〜としみじみ思うのは、優しい味のものです。
醤油でいうと、塩辛さが立つものではなく、角が取れてまろやかなもの。
そのためには、甘みと塩味にこだわる必要があります。
1−1 甘み(砂糖とみりん)
甘みの候補としては、
・砂糖
・みりん
・果糖ぶどう糖液
・還元水あめ
・その他の人工甘味料
などがあります。
人工甘味料は、後味が苦手なので、初めからNGを出していたのですが、
はじめの試作品には、その他の4つの甘みが入っていました。
人工的な甘みは使いたくないと思い、最終的に残したのは、シンプルにお砂糖とみりんです。
1−2 砂糖は花見糖
お砂糖をいろいろ試したところ、白砂糖がスッキリした甘さにまとまります。
粗糖や黒砂糖は少し余韻の残るまったりした甘さになります。
とら醤油さんからは、原価のことと味の安定を考えると、白砂糖か粗糖にしたほうが良いとアドバイスをいただいていました。
白砂糖、使いたくないと思っていたのですが、美味しさにこだわると、簡単には捨てられない選択肢です。
さっそく当時開いていたビジネスセミナーで試食会をしてみました。
お豆腐や、焼き海苔などにつけて食べてみたところ
白砂糖派が6割、粗糖派が4割という結果に。
半々くらいなら、粗糖にしようかと考えていた矢先、原材料会社からの粗糖の供給が安定しなくなったので、白砂糖の方向で考えてほしいと連絡が。
そこで、とら醤油の方に、「白砂糖のスッキリした味がお好みの方が多いみたいだけど、どうしても白くない砂糖を使いたいんです」と相談したところ、『花見糖』という伝統的な製法で作られたお砂糖を紹介してくださいました。
和三盆とおなじように昔ながらの和糖の製法で作られた優しい甘みのお砂糖です。
花見糖で試作を作ってみたところ、スッキリだけど優しい甘みに。
このお砂糖を使うことにしました。
1−3 みりんは三年熟成本みりん
次はみりんです。
もちろんコストだけを考えたら、砂糖で甘みを調整する方がいいのですが、香り豊かで、上品な甘さにしてくれるみりんは欠かせません。
しかも本みりんがいい。
いろは醤油は、鞆の浦で生まれたお醤油。
そして、みりんは鞆の浦の名産品です。
候補にあげてもらったのが、販売したらすぐに売り切れるという、入江豊三郎本店さんの、三年熟成本みりん。
さすが、三年熟成ものはなかなかの風味です。
(↑なんと、偶然にも、鞆の浦にいったときに寄っていた、入江豊三郎本店さん!保命酒もたくさんいただきました。)
ということで、みりんは三年熟成本みりんに決定。
そして、上品な甘さにするために、甘さのベースをみりんでつけることにしました。
パッケージ裏の原材料表示は、多いもの順に書かれています。
みりんが甘味料のトップにきているだし醤油なんて、コスト面からも考えられないと言われましたが、美味しいみりんをたっぷり使いました。
↑砂糖の前にみりんがあります♪
だから上品な甘みを実現。
1−4 塩は天日塩
次は塩です。
お塩も一般的には食塩(塩化マグネシウム)が使われてたり、人工的に乾燥させたお塩が一般的。
お塩のことはお塩の専門家に聞こうと思い訪れたのが、東京の戸越銀座にあるsolcoさんです。
「実はだし醤油を作ろうと思ってるんです」と話すと、食塩と天然のお塩の違いを教えてくださいました。
食塩は辛いだけで高血圧の方は血圧も上がる。だけど、天然のお塩はミネラルたっぷりで本来の人間に必要なものが入って健康にもいいと。
「カラダを生命のみなもとである海に」というのが、solcoさんの考え方です。
その昔、生命は海から生まれました。魚をはじめ、陸に上がった生き物も、海の環境を卵の周りや中に形成することで孵化します。ヒトも同じ。ただ、現代人はミネラル不足で、カラダが海の環境とはなっていない状況です。
(solcoさんHPより https://www.solco.co/)
こんぶ土居のこんぶ王子の考え方とも近いものを感じ、お塩は、天日塩にこだわることにしました。そこでとら醤油さんにいろは醤油に合う天日塩を探していただくことにしました。
甘さも塩辛さも丸みを帯びることができました。
2) 毎日食べても罪悪感のない安心素材とは
旨味は、たんぱく加水分解物や酵母エキス、アミノ酸液のような旨味調味料を使うことも考えましたが、ここは、天然のものでしっかり旨味を引き出そうと決めました。
そう決めた心の内を少し話そうと思います。
化学調味料や旨味調味料が体に悪いかどうかはわかりません。
簡単に化学調味料で旨味が増やせたら、コストもかからず美味しいものが作れます。
化学調味料が絶対的に悪いと言うことはないと思っています。
それに、鯛をコトコト炊かなくても、少量の旨味調味料をふりかけるだけで旨味を増やすことができます。
それならば、無添加にこだわるよりも、「安くて美味しい」を目指した方がいいのではないか?とも考えました。
無添加ブームの本質
世の中のなんとなく感じる「無添加ブーム」にただ単に乗るのもいやでした。
例えば、アミノ酸のサプリメントは飲むのに、化学調味料を嫌がって、うま味調味料のアミノ酸は避けるという矛盾した食生活をしている人もいます。
どちらも、化学的に作られたアミノ酸です。
こう聞くと確かに、矛盾していますが、このような方は、アミノ酸のサプリメントも、アミノ酸調味料を避ける食生活も、「体に良い」と思って摂取しているのです。
つまり、論理的には矛盾していても、情緒的には矛盾していないのです。
美味しさは感覚です。だから、そういう情緒的なものに左右されるのです。
飽和脂肪酸や糖質たっぷりのショートケーキも、カロリーゼロだと思えば、罪悪感なくもっと美味しく食べられる気がするのも、そういう理由だと思います。
だから、心に負担がないというのも、美味しいの一部だと考えました。
もともと家庭料理には旨味調味料は入っていませんでした。
人は自然でないものを食べると言うことに、罪悪感のようなものを感じるのです。
それが、無添加やオーガニックがブームの本質なのではないでしょうか。
わたしの使命
そんなことを考えている時に、友人が妊娠をしました。
子どもができると、食材を気にするようになりました。
それで、思ったのです。
「子どもに食べさせたい」と思うお醤油なら、罪悪感を感じることなく、心軽く毎日の食事をいただけるのではないかということです。
ついつい自分のことは後回しにしてしまうがんばりやさんでも、子どもに食べさせることを考えると、「安心できる良いものを作りたい」と思えます。
もともとわたしも、プロテインのサプリメントを飲むなら、ホエイそのものをいただきたいタイプの人間です。
できるだけ自然の形で栄養をいただきたいと、日々の食事も作ってきました。
だから、たんぱく加水分解物や酵母エキス、アミノ酸エキスのような旨味調味料は使わず、大変でも、手間がかかっても、天然のものでしっかり旨味を引き出そうと決めました。
安くて美味しいものは大量生産品にたくさんあります。
鎌田のだし醤油をはじめ、たくさんのお醤油会社がだし醤油を出しています。
そんな中で、わたしが世の中に貢献できることは、罪悪感を感じない安心食材で美味しいものをつくること。
素材にしっかりこだわることで、いろは醤油でつながる人の、心を軽くすることができると再認識しました。
旨味は天然のお出汁から
お出汁を考える上で重視したのは、化学的な「鯛エキス」ではなく、上品な「鯛のお出汁」を軸として、天然の食材で旨味を最大限に引き出すことです。
3大旨味(イノシン酸、グルタミン酸、グアニル酸)を掛け合わせることで、旨味は相乗効果を発揮します。そして、旨味を重ねることで、さらに美味しさを引き上げることができます。
<旨味のおさらい>
イノシン酸:お肉やお魚に多く含まれる旨味成分。
グルタミン酸:昆布やチーズ、トマト、白菜、お醤油に多く含まれる旨味成分。
グアニル酸:しいたけやポルチーニなど、キノコに多く含まれる旨味成分。
候補としては、カツオ、マグロ、鯖、昆布、しいたけ、貝など、ありましたが、鯛とのバランスを重視して考えました。
例えば、昆布でも真昆布だと、鯛のえぐみが出てしまうのですが、利尻昆布だと、上品な味が引き立ちます。同じ昆布でも不思議なものです。
そういうふうに、1つずつ検証しながら作っていきました。
そして、試作に試作を重ねた結果、鯛の他に、昆布、かつお節、しいたけを使うことにしました。
使うことに決めた食材を紹介します。
西日本産の鯛だし
愛媛や九州で水揚げされた鯛から、だしを取っています。
旨味が濃く、素材に味の深みを与えてくれます。
いまのいろは醤油は、愛媛の鯛を使っていますが、製造のタイミングで長崎で取れた鯛を使うこともありますので、西日本産の鯛だしとしました。
利尻昆布
北海道・利尻で生産されただし昆布を選びました。
上品で旨味の強いだしがとれます。三大旨味であるグルタミン酸がたっぷりです。
枕崎産のかつお節
質の良さが評判の鹿児島県の枕崎でつくられたかつお節を選びました。
奥深く濃い旨味が特徴です。
枯れ節も検討しましたが、だし醤油にすると味に差がなく、あら節を使うことにしました。
三大旨味の1つイノシン酸がたっぷりです。
岡山県産しいたけ
とら醤油さんの地元、岡山で生産した干し椎茸を使用しています。グアニル酸という三大旨味の1つが豊富に含まれており、旨味の相乗効果があります。
以上で、3大旨味をたっぷり含めることができました。
原材料のまとめ
<全原材料>
・国産丸大豆醤油
・鞆の浦の三年熟成本みりん
・九州産の花見糖
・沖縄県産の天日塩
・枕崎産のかつお節
・岡山県産のしいたけ
・西日本産の鯛だし
・北海道産の利尻昆布
使っているのはこれだけです。
殺菌のために、アルコール(「酒精」と書かれることもありますが同じ)を添加するのが一般的ですが、これも無添加にしました。
ガラスの瓶を使い、熱湯消毒し、熱いうちにお醤油を詰めるという手間をかけることで、アルコール無添加は、実現しました。
ところで、お醤油って本当は黒くないのです。
新鮮なお醤油は、少し赤茶色を帯びた透明感のある色です。
だけど、黒い方が美味しく見えるらしく、カラメルなどで着色しているお醤油もあります。
このような着色料も添加しないことにしました。
試作を繰り返すこと半年以上。
こうして、保存料、着色料、化学調味料を使わない、いろは醤油が出来上がります。
丁寧につくることで、旨味もたっぷり感じていただける、上品で優しい甘みのだし醤油になりました。
ここまでくると、販売までもう少しです。
奔走記は続く→ラベルは書家の父にお願いしました|いろは醤油物語#6
●● いろは醤油物語まとめ ●●
第1話:いろは醤油名前の由来→広島県鞆の浦で決めました。
第2話:お醤油蔵探し→岡山県とら醤油さんに決定しました。
第3話:お醤油を通して伝えたいこと→豊かさの本質伝えたい。心を軽くお料理ができるように。
第4話:うま味調味料を使うか使わないか→わたしが食べたくものは使いたくない。そんなことに気づかせてくれた出会いたち。
第5話:アミノ酸ドリンクやサプリメントは飲むのに、うま味調味料のアミノ酸エキスは避ける人の心の中→いろは醤油の全素材を発表
第6話:商標出願完了。商品ラベルは書家の父にお願いしました
第7話:レシピサイトを始めたので調理師になりました