イチ非正規書店員が「河童忌」に推したい作品
本日7月24日は河童忌。文豪・芥川龍之介が亡くなった日です。
読書メーターなどの書評サイトでは、作家の命日に合わせて代表作を読み、感想を書く人が少なくありません。特にポピュラーなのは、太宰治の「桜桃忌」(6月19日)や三島由紀夫の「憂国忌」(11月25日)そして夏目漱石の「漱石忌」(12月9日)辺りでしょうか。
芥川は、小学生の私が小説家になりたいと願う最初のきっかけを作ってくれた書き手です。一冊読んだことがない人も「蜘蛛の糸」や「鼻」「杜子春」はご存知のはず。国民的な作家のひとりといえます。
以前にも紹介しましたが、私のイチオシはこちら。
「蜃気楼」です。
初期の芥川しか知らない人は、不穏な空気に戸惑うかもしれません。意地悪な見方をするなら、かつて天才と賞された作家の矢尽き刀折れた姿を鑑賞できる作品。しかし私は彼の才能が晩年に至ってもなお輝いていた証と捉えています。
2003年に亡くなったプロレスラー・冬木弘道さんは「冬木さんの試合は殴る蹴るだけだね」と評された際に「これだけで組み立てられるようになるまでが大変なんです」と返したとか。「蜃気楼」にも似たような凄みを感じました。いわばただの散歩。それだけで読者を唸らせてしまう。
誰しも歳を取ります。若い頃のパフォーマンスをいつまでも続けられないのはアスリートに限った話ではない。イチ非正規書店員に過ぎぬ私も同じです。ちょっと無理をした翌日は朝から身体が重い。前日の頭痛がひと晩眠った後も続いていて軽い絶望感に襲われました。
でも失ったものと引き換えに、手にしたものが確かにある。たとえば厄介なお客さんに当たったときの対処法。クレームにならなければ当たり前のこととしてスルーされ、誰の目にも留まらない。この当たり前をサラッとこなせるようになるまでが大変なのです。
「蜃気楼」ぜひ。