そっと寄り添う「天才作家」
ついに出ましたね。
「悲しみよ、こんにちは」や「ブラームスはお好き」で知られるフランスの天才作家フランソワーズ・サガン。新刊書店で買えるのはそのふたつだけという状態が続いていたので、今回の刊行は待ち遠しかったです。
何年か前、絶版となって久しいサガンの新潮文庫数点を知人がブックオフで見つけてくれました。「ある微笑」や「一年ののち」などの傑作に触れられて嬉しかったです。新訳か復刊を望む声はけっこう多いはず。
本当の意味での「天才作家」は私の中で3人しか存在しません。トルーマン・カポーティ、萩尾望都、そしてサガンです。いずれも10代の頃から創作を始め、たちまち名声を獲得しています。
「悲しみよ~」でデビューした際、サガンは弱冠18歳でした。汗と嫉妬の香りが漂う生々しいストーリーもさることながら、文体の完成度が明らかに他とは違いました。私は日本語訳しか知らないのですが、原文のリズムや語彙の組み合わせを忠実に再現しているのでは、と推測しています。
冒頭の「ものうさと甘さが胸から離れないこの見知らぬ感情に、悲しみという重々しくも美しい名前をつけるのを、わたしはためらう」は有名ですよね。もうこの時点で「おっ」と惹き込まれませんか? あと私が好きな文章は↓です。誰かから「恋愛の定義」を訊かれることがあったら、ぜひ見せてあげてください。
「こんな喜劇なんかやめて、わたしの人生を、その最後の日まであずけ、この人の手に自分をゆだねてしまいたい。これほど執拗で、はげしく迫ってくる弱さを実感したのははじめてのことだった」
ただ晩年になるにつれ、作品のキレが落ちていったのも事実です。円熟味が増して技術的に進化したのを感じる反面、どこか物足りない。ストーリーのフォーマットがずっと変わっていないせいもあるのでしょう。もし還暦を迎えたジム・モリソンが「Light My Fire」を歌うのを聴いたら同じ感想を抱くかもしれない。昔よりも上手いし嬉しい、けど寂しいみたいな。
その意味でも今回の「未発表作品」は興味深いです。たぶん「悲しみよ~」とよく似た何かは期待しない方がいい。むしろ変化を受け入れて素直に味わう方がサガンにとっても喜ばしいはず。生前に発表しなかったのは相応の理由があるわけですし、ここはあえて先入観を封印してまっさらな気持ちで読もうと思います。
最後にサガンの生き様に興味を抱いた方にオススメの本を2冊ご紹介します。
前者はもう新刊書店では置いていない可能性が高いです。古書店かブックオフを見掛けたらダメ元で立ち寄ってみてください。もしかしたら棚の片隅で見つけられるのをひっそりと待っているかも。
太宰治や村上春樹がそうであるように、サガンはいつ読んでも私たちの弱さにそっと寄り添ってくれます。間違いなく味方です。ぜひ。
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