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「変えることができる」「流されてたまるか」の一冊

久し振りに↓を読み始めました。

全10巻。独裁者が支配する銀河帝国と民主主義を掲げる自由惑星同盟の戦いを描くスペースオペラです。

双方の陣営に好きなキャラクターがいます。ただそれはそれとして「どちらを支持するか?」となったら初読時の私は100%帝国推し。

1巻を再読して理由がわかりました。

アスターテ会戦で150万人以上の戦死者を出した直後におこなわれた慰霊祭。そこで自由惑星同盟の国防委員長トリューニヒトは、以下のようなスピーチをします。

彼らが散華したのは、個人の生命よりさらに貴重なものが存在するということを、あとに残された吾々に教えるためなのだ。それはなにか。すなわち祖国と自由である! 

田中芳樹「銀河英雄伝説1 黎明篇」創元SF文庫 136P

帝国においては反戦平和の主張など認められない。自由の国であるわが同盟だからこそ、国策への反対が許されるのだ。諸君はそれに甘えている! 平和を口でとなえるほどやさしいものはない

同137P

さらに彼は専制的全体主義との共存など迷妄だと訴え、この聖戦に反対する者はすべて国をそこなう者であり、死を恐れず戦う者だけが真の同盟国民であると断言します。

自由を守るために全体主義と戦う。その主張と同じ文脈のなかで、すべての国民が同じ考えを抱くように扇動している。加えて彼自身が戦場で死を恐れず戦うわけではない。その点をある人物から指摘されます。

わたしの婚約者は祖国をまもるために戦場におもむいて、現在はこの世のどこにもいません。委員長、あなたはどこにいます? 死を賛美なさるあなたはどこにいます

同141P

国民に犠牲の必要を説くあなたのご家族はどこにいます? あなたの演説には一点の非もありません。でもご自分がそれを実行なさっているの?

同142P

当事者性の欠如。他者には正義のための犠牲を強いるけど己はべつという謎の特権意識。税金を無駄遣いしながら自分たちは卑劣な方法で巨額の脱税を繰り返し、にもかかわらず国民に対して増税への理解を訴えるどこかの政府と重なりました。

かつての私は自由惑星同盟の腐敗の様相に己が生きる社会のそれを見出し、絶望しました。その反動で優れたリーダーが頂点に立とうとしている銀河帝国に憧れを抱いてしまった。正しいことが速やかに実行されるに違いないと。

危険な考え方です。世界の歴史を振り返ってみても明らかですが、今作の主人公・ラインハルトみたいな英邁な逸材が独裁者になるケースばかりではない。「適任者がいないから、しばらく独裁制をやめます」ともならない。帝国においては相応しくない者でも独裁が許されてしまう。血筋などの理由で。

2024年の私は100%自由惑星同盟を支持します。決してトリューニヒトみたいな政治家を支持するわけではなく。独裁制であれば国の腐敗を為政者のせいにできる。一方、民主主義国家では選んだ国民の責任。重いです。しかし自分たちで選べる。選挙によって変えることができる。

大敗必至の状況だったアスターテ会戦で全軍崩壊を食い止めた名将ヤン・ウェンリーは、上記の演説に歓喜して立ち上がる人びとのなかで椅子に座り続けました。私が同じ場にいたとして、はたしてそれができたか。正直自信はありません。でもせめて流されてたまるかという気概は忘れずにいたい。

いまこそ「銀河英雄伝説」をぜひ。

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