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「失われた時を求めて」を巡る冒険⑮

↓を読了しました。

ついに最終巻です。

ページ数は612となっていますが、本編は303ページまで。「短いな」と首を捻ったのを覚えています。他の巻があまりに分厚かったので、感覚がマヒしていたのでしょう。

ただ正直読み進めるのはきつかった。「失われた時を求めて」という題の回収がメインですが、もうひとつのテーマである「老い」にかなりメンタルを削られまして。

ゲルマント大公邸のパーティーで再会する人の大半が歳を重ね、もはや誰だかわからないケースも少なくない。語り手である「私」は心の中で彼ら彼女らに辛らつな言葉を浴びせます。しかしある青年から「あなたの年少の友」と署名された手紙をもらい、己もまた若くないと気づかされる。

プルーストはこんなことも書いています。

そんな老人たちは、否定してくれるのを期待して私が自身を老人の例として引き合いに出しても、そのまなざしに、なんの抗議も浮かべない。その老人たちは、自分自身を見ているように私を見ているのではなく、私がその老人たちを見ているように私を見ているからである。

「失われた時を求めて14 見出された時Ⅱ」 プルースト作 吉川一義訳 岩波文庫 46P

少し前、女性のお客様からレジで年齢を告げられて「全然見えませんね」と返したのを思い出しました。お世辞ではなく意外だったので。「そう言ってほしくて話したの」と笑っていました。

いま振り返ると、本当に気持ちの若い方でした。同じ歳へ達した時の自分があんな爽やかに年齢の話をできるとは思えません。実際、職場で「俺ももう歳だ」と後輩へボヤく際は「そんなことありませんよ」と否定してくれるのを無意識に望んでいたような。面倒臭い先輩で申し訳ない。

あのお客様は自営業で仕事をしているようでした。作中の「私」も作品の執筆という、人生の集大成と呼ぶべきミッションを抱えています。だからこそ諸々の衰えを自覚しつつ、前向きに生きられるのかもしれない。年輪を重ねた者だけが手にできる武器の存在も感じているのでしょう。

かつてアントニオ猪木さんは、引退セレモニーで「人は歩みを止めた時に、そして挑戦を諦めた時に年老いていくのだと思います」と話しました。私にとっては「著書を紙の本で出す」というのが、人生の終わりまで取り組むチャレンジになりそうです。本ならなんでもいいわけではないので。

叶えてしまうのも人生なら、実現させるまで夢を満喫するのも人生。いずれにしても最終的に「楽しかった!」と思えたら、それでいいのかもしれません。

というわけで、長い冒険が終わりました。

全14巻を読むに当たり、ふたつのルールを設けています。

1、1冊読み終えてから次の巻を買う。
2、すべて異なる書店で購入し、各々のブックカバーをかけてもらう。

最後に、買わせていただいた書店と最寄り駅をまとめておきます。どこも素晴らしい空間でした。お近くへお越しの際はぜひ。

1巻・リブロ(ひばりヶ丘)
2巻・神保町ブックセンター(神保町)
3巻・タロー書房(三越前)
4巻・大地屋書店(西池袋)
5巻・教文館(銀座)
6巻・書泉ブックタワー(秋葉原)
7巻・丸善(日本橋)
8巻・三省堂書店(東池袋)
9巻・ブックファースト(中野)
10巻・くまざわ書店(錦糸町)
11巻・ジュンク堂書店(大泉学園)
12巻・往来堂書店(千駄木)
13巻・青山ブックセンター(表参道)
14巻・東京堂書店(神保町)

また似たような企画をおこなう際は↑を再訪しつつ、行けなかった書店にも足を運びたい。今回はあまり町の本屋さんに置いていない岩波文庫の海外文学だったので、次は入手しやすい国内の長編小説にしようと考えています。

皆さま応援していただき、ありがとうございました。

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