「単行本」を買いたい「総合小説家」
小説の「単行本」って買いますか?
たぶん「文庫待ち」の人が多いですよね。私も基本はそうです。でも特定の作家に限っては、小説の新刊が出たら即購入します。カズオ・イシグロや村上春樹など。特に春樹さんは「騎士団長殺し」の次はいつ出るのか、どういう内容になるのか、とても気になります。
少し前までは伊東潤や伊坂幸太郎、中村文則もそういう書き手でした。中村さんは最近読んだ↓が素晴らしかったので、また「単行本即買い」作家に戻りました。
主人公は「占いを信じない占い師」兼「違法カジノの敏腕ディーラー」。不条理な運命に翻弄されながらも圧倒的な力で支配しようとしてくる敵を出し抜き、知恵を絞り、しぶとく生き延びていきます。
特に刺さったのは「占いの本当の目的は、占いから卒業すること」「現実がこんな風であるのなら、受け入れられないのなら、嘘で現実を変える」というふたつの文章です。占いやフィクションがなぜ必要なのか? それは理不尽な現実と折り合いを付け、前を向くキッカケを与えてくれるから。前を向くのは自分の意志。でも背中を押す存在が力になるのも事実なのです。
「現実を変える」とは「世界や社会を変える」という大仰なことだけを意味しません。本を読んで考える。毎朝早起きする。身体を鍛える。それらの継続で己をアップデートする積み重ねも「現実を変える」ことに繋がるはず。面白い小説や誰かの言葉を最初の取っ掛かりにするという意味で「嘘で現実を変える」のなら悪くないと思いませんか?
無論盲目的に、第三者の生み出した虚構の世界観に全てを委ねるのは危険です(今作にもその辺の怖さは描かれています。魔女裁判とか)。でも信じて一歩を踏み出すことから始まる何かもあるはず。結局は「右脳と左脳のバランス」ですが、悲観的な時代を生きる私たちはもう少しだけ自分の可能性を信じていいのかもしれません。
中村さん、次回作も楽しみにしています。
ところで彼の公式サイトはご存知ですか? ウクライナ情勢に関する見解から学ばせていただいています。当たり前ですが、まだまだ知らないことがたくさんありますね。
政治的な内容は一定期間が経つと消えてしまうようなので(大人の事情?)、ぜひ見てみてください。
中村さんには、一度だけ職場でお会いしたことがあります。ただ当時は「掏摸」と「銃」しか読んでいなかったので、あまり話せませんでした。覚えているのは「○○です」と挨拶したら「中村です」と笑顔で返してくれたこと。あと目の下のクマがすごかったこと。
とりあえず「教団X」を再読します。「カード師」もそうですが、とにかく作品の中で掘り下げているジャンルの幅が広い。小説を一冊読むだけでテロ、国防、貧困、ODA、裁判員制度、宗教、宇宙の成り立ちなどについて学べるのです。文学における「総合格闘技」みたいなイメージでしょうか。
今年は「総合小説家」中村文則に注目していきます。