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「失われた時を求めて」を巡る冒険⑧

↓を読了しました。

巻の大半を占めるのは、ゲルマント侯爵夫人邸で催された晩餐会。なかなかの苦行でした。

本を読み慣れていない頃だったら、確実に投げ出していたはず。「魔の山」や「白鯨」で味わったことのある感覚だったゆえ、どうにか最終ページまで辿り着くことができました。

「なぜこんなに響かないのか」と悩み、己の無知に原因を求めてしまう部分もなくはない。当時の文化やフランス史に詳しくないのは事実なので。だからこそ、巻末あとがきに記されていた↓に救われました。

多くの読者は、晩餐という本筋とは無関係に見える果てしない余談に面食らい、作者の意図がわからず、退屈し、途中で投げ出してしまうのではないか。いや、一般の読者のみならず、プルーストの小説を子細に検討するはずの論文や批評からも、この一節はすっかり黙殺されている。

「失われた時を求めて7 ゲルマントのほうⅢ」プルースト作 吉川一義訳 岩波文庫 585P

一方で、侯爵夫人が夫のキラーパスを得て「才気」というゴールを決め、参会者を喜ばせる仕組みを冷徹に見通すプルーストに戦慄を覚えたのも事実です。

普通は思っていても口にしない類の毒舌を平然と振るい、周囲がドン引きしないギリギリの冗談を飛ばし、作り話すら厭わない。己の地位や名誉に頓着していないかのように振る舞う。高貴な人がそれをやるからこそ効果は絶大なわけです。

しかしプルーストは実態をあっさり見抜きます。あとがきに以下の文章を綴った訳者も。

大金持がお金への軽蔑を口にしたり、功成り名を遂げた人が名誉には執着しないと言ったりして誉めそやされるのも、その財産や地位ゆえにほかならない。

同591P

「俺はカネじゃ動かない」みたいな物言いを好む人がいます。そういう連中に限って家が裕福だったり、大企業に守られて生活に困る心配がなかったりする。恵まれた環境にいることを自覚していないケースも少なくない。

白状します。学生時代の私がそれに近かった。カネのために働くなんてダサいと。でも月に休みが2~3日しかない訪問販売の営業マンや最低時給で激務の書店員をやっていれば、自ずと考え方が変わってきます。お金を稼ぐのはこんなに大変なのか、そもそもカネがなきゃ何もできないじゃないかと。

お金は大事。でも決して価値観の全てではない。順番としてはそれが妥当でしょう。

私の仕事へ落とし込むなら、書店員の待遇を改善したい。生きていくうえでお金は不可欠だから。しかしカネのためだけに本屋で働いているわけでもない。

お金の話を持ち出すのは恥ずかしいカッコ悪いみたいな風潮を変えたい。まずそこかなと思いました。

なお、全14巻を読むに当たり、ふたつのルールを設けています。

1、1冊読み終えてから次の巻を買う。
2、すべて異なる書店で購入し、各々のブックカバーをかけてもらう。

1巻はリブロ、2巻は神保町ブックセンター、3巻はタロー書房、4巻は大地屋書店、5巻は教文館、6巻は書泉ブックタワー、7巻は丸善、そして8巻は↓で購入しました。

「三省堂書店・池袋本店」です。

立地は「西武池袋本店 別館地下1階・書籍館地下1階~1階」。かつては同じ場所で「リブロ」が営業していました。

すぐ近くにメガ書店の代表格「ジュンク堂書店・池袋本店」もあり、あずま通りを進めば小規模だけど選書に目の行き届いた「新栄堂書店」へ行ける。理想的な空間です。目的に応じて使い分けていますが、なんとなく最初は三省堂へ足を運ぶことが多いです。

「失われた時を求めて」皆さまもぜひ。

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