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あのひとの

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noteでみつけた、すてきな写真や絵、そして文章をあつめています。
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記事一覧

夜気

夜気

夜が息をして
山は息をひそめ
張りつめた夜気に触らぬよう
息を殺してむすめは歩く

喋る岩
想う岩
冷たい夜は岩が鳴く
岩の声はさざなみ立って
夜が身じろぐ

むすめは岩のひとつひとつに
指で白いしるしをつける
むすめのつけたしるしを目指し
天から雪が降りてくる

またひとつ
もうひとつ

雪が声を包んで溶ける
岩は鳴くのをあきらめる
夜気はほぐれてまろくなり
夜の眠りは守られる

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テーブル

嬉しさの末裔が
あなたを起こす
あなたは気づかず
夢を見る
あく
と思いながら
ひらかなかったドアのような
ただ待ちかねる人になる
どこまでを知りにいこうか
はたしてを果たしに状を書き
あてをつぶさにしたためる
名は
区別を食べそこねて
喋れなかった
あなたは
わたしに備えて
服を着る
おなじことばで呼ばれない
ながれていくのに消えさらない
よまれているのに聞こえない
着目を引きはがして
空間に混

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木曜日の雨を待っている

【詩】

 

木曜日の雨を待っている

仮面を被り虚勢をまとい

西の空を睨みつけながら

木曜日の雨を待っている

ひかりを封じ影を紛らせ

雲を呼びこみ風を起こし

木曜日の雨を待っている

律動を刻み旋律を鳴らし

メルボルンシャッフルで

木曜日の雨を待っている

月曜日の憂い火曜日の花

水曜日の月を眺めながら

木曜日の雨を待っている

地下鉄を乗り継いでいま

この夜の海を泳いでい

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だってワルツが聞こえないから

 しかたないもの、若かったから。肩に降りかかる歳月の羽根の重さなんて、気にかける暇もなかったから。誰が悪いわけじゃない。みんな失敗だったってだけ。孤独が好きなわけでもないし、賑やかな夜の中で踊りたいわけでもない。自分で自分がわからなかった。靄めいて幽霊みたいだった。港から出て行く船を並んで見た。夕暮れが僕たちを包み込んで切り裂いて、粉々にしてしまったあとで、恋とはなんだと考えた。考えていたら夜がき

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お月さまのジャム

お月さまのジャム

 雪解けのころ、川面に映るお月さまを、そっと掬い取る。新鮮な水をたくさん吸ったお月さまは、ずっしりと重たく、鼻を近づけてみると甘い香りが溢れ出しているのが分かる。周りについた水分をよくふき取って、お砂糖をたっぷりと敷いたお鍋の中にそっと置く。さらにお砂糖をふりかけ、小さな火でじっくりと煮込む。しばらくすると、お月さまの中身が溶け出してお鍋に広がりだす。辺りはあっという間に甘い匂いに包まれ、かき回す

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夏の名残り、野ばら (4286字)

夏の名残り、野ばら (4286字)

一時非公開とさせていただきます。2018年中に再公開します。

性格って直せない

昔、テレビを観ていたら、「山奥で誰とも接触せずに一人で暮らしている人」を取材するという番組をやってたんですね。

で、色々とあって、TVカメラの前にその人が現れたんです。

そしたらやっぱりその人、すごく変わっているというか、まあ「一般社会でうまくやっていけないだろうなあ」って印象の人だったんです。

で、この人も若い頃からいろんな葛藤はあって、やっぱり周りとはたくさんのトラブルがあって、どうして

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蒼のかけら

蒼のかけら

欠けてしまった蒼を
指先で集める

散らばった蒼は
頑なに息を殺す

傷つけたくて
傷つけたわけじゃない

貴方も
私も

パウンドケーキ 2種類あります

パウンドケーキ 2種類あります

いつも抹茶のパウンドケーキをお届けしている先から、他のもあれば…というリクエストで、何がいいかなぁと思いつつ2種類焼いてみました。

1つ目は昨年10月にラム酒で漬けたドライフルーツを入れたもの。
スパイスもしっかりと効いていて、ドライフルーツ自体がかなり大人味です♪

見事にフルーツが沈んでおりますが^_^;
そこは今後改良の余地アリ。
プレーンな生地はしっとりめ、香りが良くてコーヒーと合わせて

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声をかけたくなる人

渋谷って歩いていると、必ず知っている人に会うんです。

僕は八百屋でライムやミントを買ったり、東急ハンズで電球を買ったり、ヴィロンでバゲットを買ったり、ドンキホーテで洗剤を買ったりと、渋谷中を毎日ウロウロしているんですね。

そしたら必ず、同じ飲食業の人や、レコード会社の人がタワーやHMVに営業に行ってる途中とか、知ってるミュージシャンがNHKに収録にとか、あるいはこのnoteの社員がお昼ご飯に出

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かつてきみと渡った橋は

だれもが立ち去ることができる街角までともに歩いた。川の底にある小石のことばで語りかけることができればきみをひきとめることができると信じたかった。きっと見送ることができないという理由でひきとめたかった。

かつてきみと渡った橋はほんの一瞬のキスにすぎなかったが、背後には暗がりがひろがっていて、私たちの後ろ姿はその暗がりに刻印されていて、でもふり返るだけでは見ることができない、それは夜の中の夜なのだと

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彼女の残像

彼女の残像

プールで人魚が跳ねるのを見た。陳腐な比喩として言っているわけではないし、薬物による幻覚を見ているのでもない。バイト帰りの深夜。金網の向こう、弱い光に照らされて空中で一瞬静止したその姿は紛れもなく、
人魚だ。
シリアルキラーが獄中で描いたイラストみたいにグロテスクで美しい。
人魚は再び水中に消えた。ところで僕が最初に人魚を見たのは9歳の夏のことだ。田舎の祖母の家に遊びに行った日、裏山の泉で人魚を見た

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