あさじなぎ@小説&漫画発売

白泉社様から「婚約って何のことですか?」小説&漫画発売 恋愛や妖怪がでてくる話を書く人だよ お仕事募集asajinagi1110@gmail.com

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マガジン

  • 大正妖恋奇譚

    大正時代の架空の町で、身寄りのない奉公人の少女、かなめは祓い師を名乗る青年、昴と出会う。 孤独なふたりのじれじれとした恋愛ファンタジー

  • あやかしのなく夜に

    あやかし異能ミステリー、「あやかしのなく夜に」まとめ 創作大賞のミステリー小説部門に参加しています

最近の記事

最終話 大正妖恋奇譚 48話

48話 それから 二階のお部屋は事件後できる限り掃除をしていたそうだし、埃っぽさはないし事件の痕跡も殆ど残っていなかった。  ただご両親や妹さんたちが使っていただろう物たちが、その時のまま残されていて、時間が止まっているかのようだった。  まるで今にも誰かが帰ってきそうな、そんな部屋。  昴さんはこの空間を大事にしてきたんだろうな……  ご家族が亡くなった場所であり、生活していた場所なんだもの。  本当に、ここを片付けていいのかと心配になる。  だけど昴さんは、淡々と服や小物

    • 大正妖恋奇譚 47話

      47話 求め求められて いつものように昴さんと一緒に家で夕食を食べる。  会話は日常に関するものばかりだった。   「あの、昴さんは軍で何をされたんですか?」 「え? あぁ……あやかしがらみの仕事の依頼の話。華族とかは軍部を通してこっそり仕事を依頼してくるから」  その為に軍に通っているの、かな。 「お手紙とかじゃあだめなんですか?」 「華族はね、そういうことを人に知られたくないんだよ。だからこっそり依頼してくるんだ。手紙なんて証拠、残すようなことしないよ」 「そん

      • 大正妖恋奇譚 46話

        46話 漢字の先生 今日は月曜日だ。  日中、昴さんは軍部にお出かけとのことで不在だった。  私がするべき家事は少なく、すぐに暇を持て余してしまう。  私はひとり、居間にあるソファーに座り縫い物をしながらいろんなことを考えていた。  おっかあのこと。おっとうのこと。ここ数日のことが頭の中を駆け巡る。  そして最後に頭に浮かぶのは、昴さんの顔。  昨夜の行為を思い出し、私は顔が熱くなるのを感じる。  私、鬼と人の子なのに祓い師である昴さんとあんなことするなんて……あぁ、思い出す

        • 大正妖恋奇譚 45話

          45話 目が覚めて 目が覚めると、室内は想像以上に明るかった。  寝坊したかも……!  そう思い私は慌てて身体を起こして、肌寒さにぶるり、と震える。  だいぶ冷えるようになったなぁ…… 「あ……」  視線を下に向けて自分が裸である事に気が付いて、一気に顔が紅くなるのを感じた。  そうだ、私、昨日の夜昴さんと……  一気に色々と思い出して、ベッドから這い出て着物を着た。寒さと恥ずかしさで手が震えてしまうけど、昴さんが起きる前に服を着てしまいたかった。  だって恥ずかしいもの

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        • 大正妖恋奇譚
          48本
        • あやかしのなく夜に
          39本

        記事

          大正妖恋奇譚 44話

          44話 どうしよう な、な、何これどうしよう。昴さんが私に覆いかぶさっているんだけど、これってどういう状況なの……?  心臓がはち切れそうだ。  なんで私、ベッドに押し倒されているんだろう。  これって……知識が少ない私でも何が起きようとしているのか想像できる。  で、で、でもこういうのってちゃんと結婚してからするものじゃないのかな?  利一さんに襲われた時のことが一瞬頭によぎるけど、あの時みたいな拒否感はない。  相手は昴さんだし私が嫌がることなんてしないだろう。  そうは

          大正妖恋奇譚 43話

          43話 君を鬼にしないから 涙にぬれた視界に昴さんの顔がぼやけて見える。 「えーと……なんでそんなに泣いてるの」  困った声で言われて私は何にも答えられない。  何かを言おうとしても嗚咽になって言葉にならないから。  昴さんを困らせたいわけじゃないんだけどな。  私は人でありたいだけなのに、運命って残酷だ。  私はどうしたら人として生きられるんだろうか。  闇は明るくなくていい。なのに今の私には闇がとても明るく見えてしまう。 「……闇が、闇に見えないから」  震えた声

          大正妖恋奇譚 42話

          42話 闇が闇じゃない  目を閉じて、寝ようと努力するものの全然眠くならない。  今日はお出かけをして疲れているはずなのに。  何度も何度も寝返りを繰り返し、そして私は目を開ける。  外で虫が鳴いているのが聞こえるだけの静かな部屋だった。闇が部屋の中を支配しているはずなのに、なぜかどこになにがあるのかよく見えた。  昴さんは寝ているんだろうか。吐息はわずかに聞こえるけれど、起きてるかどうかまではわからない。  少し前までは一緒だと安心して眠れたのに、今は胸がドキドキして眠れ

          大正妖恋奇譚 41話

          41話 意識してしまう  その日の夜。  今、部屋に私ひとりきり、おっかあの位牌を見つめていた。  昴さんは毎日この部屋で眠っているけど今はここにこない。  今夜も来るんだろうか。それとも来ないんだろうか。  どうも最近、昴さんの事を変に意識してしまう気がする。  口づけられたせいだろうか。きっとそうよね。  昴さんは華族で祓い師。私は孤児でしかも鬼の血を引いている。  あまりにも住む世界が違いすぎるし、差があり過ぎる。 「だから私は……そんな感情抱いちゃいけないよね」

          大正妖恋奇譚 40話

          40話 近づいていく 着物を仕立ててもらうことになった。  白地に紅いバラが描かれた着物だ。  流行り、とは聞いていたけれど、確かにバラ柄の着物はいくつもあって、若いお嬢さんが何人も、反物をあれこれと見ていた。 「あ、あの……本当にいいんですか……?」  デパートを後にして恐縮しながら尋ねると、昴さんは不思議そうな顔で私を見た。 「買うと言ったのは僕だよ」  いやまあそうなんですけど、申し訳なさすぎる。  そうだ、明日から私、家事をもっと頑張ろう。  昴さんのお仕事の

          大正妖恋奇譚 39話

          39話 薔薇 秋の空は澄みきっていて、筆で描いたような筋雲がところどころに見える。  吹く風は穏やかで、暑くもなく心地いい。  こんな風に空を見上げたことなんてあったっけ。  いつも下ばかりみて歩いていたような気がする。  木々の葉は色を変えていて、真っ赤に染まったもみじがバラの花と共に植物園を彩っている。  ここは目黒にある植物園。  たくさんの人がいて私は思わず帽子を目深にかぶった。  あの、京佳さんと一緒に買い物に行った時に見た着物の柄と同じ花がたくさん咲いている。  

          大正妖恋奇譚 38話

          38話 お出かけの朝 お屋敷の掃除に洗濯、お食事の用意。  引きこもるようになったら私の屋敷でのお仕事が増えた。  お屋敷の掃除といっても一階しか掃除するところがないし、朝、めいこちゃんやぼたんちゃんたちが廊下や食堂、居間のお掃除をしているから私が出る幕は少ない。  二階には近づくな。  そう言われているから私は二階にはいまだに行ったことがない。  昴さんの寝室は二階にあるはずだし、着替えもそちらにしまわれているはずだけど、私は階段を上ることを許されなかった。  とし子さんと

          大正妖恋奇譚 37話

          37話 贈り物 あの後、昴さんは私の頭には触れたけれど口づけはしてこなかった。  十月十三日木曜日になり髪色はだいぶ落ち着いた色になったけれど目の色は変わらない。  金曜日になって、やっと髪色は戻ったけれど目は紅いままだった。  昴さんは私が外に出られないものだから、敬次郎さんに頼んで屋敷のお風呂に入れるようにしてくれたし、食事も全て屋敷でとるようになった。  いつまでも引きこもっていられない。そう思い私は金曜日からとし子さんたちに頼んで食材を用意してもらい、お昼と夕食を作る

          大正妖恋奇譚 36話

          36話 戦いたい 昼近くになり昴さんが帰ってきた。  とし子さんや敬次郎さんと会話をしているのがなんとなく聞こえてくる。  そしてしばらくすると足音が近づきそして、私の部屋の扉を叩く音が響いた。  私は立ち上がって扉へと向かい、ゆそれをっくりと開ける。するとスーツ姿の昴さんがひとり、廊下に立っていた。 「昴さん」  扉を開けるなり私は、彼が着ている背広の襟元を掴んで言った。 「私も戦いたいです!」 「……え、あ……え?」  戸惑いと驚きの顔をして、昴さんは変な声を上

          大正妖恋奇譚 35話

          35話 守りたいから 昴さんが朝食を運んできてくれてそれを食べ、私はひとり、静かな部屋で寝て過ごしていた。  着物を縫う気力はなく、起きていることもできなくてただベッドに寝転がっていた。  ひとりでいると余計なことを考えてしまう。  昨日のことが私の頭の中を回っている。  神社の本堂の上に座っていた、銀髪の美しい鬼。  あれが私のおっとうで、昴さんの家族を殺した鬼。  なんでこんなことになるんだろう。  私、本当にここにいていいのかな。昴さんはいいって言ってくれたけど……私は

          大正妖恋奇譚 34話

          34話 夢を見た 夢を見た。  私は小さくて、おっかあと一緒に暮らしていた。 『なんでおっとうはいないの?』 『一緒にはいられなくなったからよ』  そう答えたおっかあは少し悲しげだった。  でもおっかあはおっとうのこと、悪く言ったりしたことないなあ……  なんで鬼の子を生んだんだろう。  なんで、おっとうはおっかあを捨てていったんだろう。  ……なんで私は昴さんに会ってしまったのかな。  あの時あの場所で、昴さんに出会わなければ何も知らずに済んだのかな。  寝ながら頭が

          大正妖恋奇譚 33話

          33話 その夜に 訪問者はひとりしかいない。  だけど私は扉を叩く音に何も答えられなかった。  ただこんな姿は見られたくないと、とっさに布団の中に潜り込む。 「……入るよ」  そんな声が遠くに聞こえ、扉を開く音が続く。  私は頭まで布団をかぶり、丸くなってどうやり過ごそうかと考えた。 「……その状態だと何もできないよ」  そんな困ったような声が聞こえてくる。 「い、嫌ですだって……こんな姿見られたくないし」 「僕は気にしないよ」 「私が気にします」 「何が気に