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最終話 あやかしのなく夜に 39話
39話 消した記憶 結局、三日間入院させられた。
その間、毎日臨が見舞いに来ていたし、こっそりリモを連れてきてくれた。
とりあえず日和ちゃんは自分が人里に下りて猫などを襲っていたのは覚えていないし、幽霊に憑りつかれたことも覚えていないようでそれはよかったと思う。
そして僕の中に吸い上げた記憶はもう残っていない。
あるのはその記憶を見て僕が何を思ったのか、だけだ。
日和ちゃんも入院して検査
あやかしのなく夜に 38話
38話 入院 夢を見た。
これは僕の記憶じゃない。
たぶん、今まで消してきた事故や事件の夢。
車に轢かれたり、銃で撃たれたり、包丁で刺されたり大切な人を目の前で殺されたりと、ろくな内容じゃなかった。
どの記憶も僕は覚えていないけど、その断片は僕の中に残っているんだろうか。
こんな夢を見るのは初めてだと思う。
僕が記憶を吸い上げた人たちがどうしてるかなんて知らない。
でもきっと、彼らは
あやかしのなく夜に 37話
37話 やることがまだある 終わった、のだろうか。
幽霊はいなくなった。でも僕はそれどころではなくなっていた。
頭の中を幽霊の記憶がぐるぐると回ってる。
事故の瞬間なんて見慣れちゃいるが、死の瞬間を見るのは初めてだった。
目の前に迫るトラックと、潰れる音、名前を呼ぶ声に薄れゆく意識――
カタカタと歯が鳴り、恐怖が僕の心を支配する。
どうせ人の記憶だ。数時間か、一日もすれば忘れるはず。
あやかしのなく夜に 36話
36話 幽霊との対峙 アァアアァァーーーーーーーーーー!
空気を切り裂くような叫び声が辺りに響き渡る。
僕はリモを抱きしめたまま、ぎゅっと目を閉じて俯いた。
本当は耳を押さえたかったけれどリモを離すのは嫌だった。
叫び声が僕の中の恐怖を増幅し、僕はぎゅっとリモを強く抱きしめた。
「ひえっ……」
僕の腕の中で、リモが短く呻くのが聞こえた気がした。
それくらい叫び声が続いただろう。 声が
あやかしのなく夜に 35話
35話 理由 日和ちゃん……というか女の背中から生えた腕が振り上げられそして、臨に向けて振り下ろされる。
それを臨は後方に跳んで避け、黒い手は地面に突き刺さった。そこに臨の放つ雷が向かっていく。
バシン!
と雷が弾け、黒い手がしゅるしゅると女のところに戻っていく。
女はゆらり、と立ち、臨を睨み付けて言った。
「どうして邪魔するの? 私がこの身体を貰ってもいいじゃないの」
「あんたの物じゃ
あやかしのなく夜に 34話
34話 化け物 ごぉ、っと音を立てて風が僕たちを巻き上げるかのように強く強く吹き抜けていく。
「来ます!」
リモの叫びが響き、どん、と僕の身体を何かが押した。
臨だ。
僕は後ろに下がりその勢いで尻もちをつく。
「本当に来た」
臨の呟きが響き僕はそちらを見やる。
社の向こう側に、白い人影が見える。
髪の長い、綺麗な女性。白い服を着て、背中から黒い手が二つ生えていた。
「また、あんた達なの
あやかしのなく夜に 33話
33話 大丈夫、だから 放課後、玄関で臨と待ち合わせて互いの家に寄って、私服に着替えてから山に向かうことになった。
時刻は十五時半過ぎ。十七時前になれば辺りはだいぶ暗くなってしまうから、山に行くならこのまま向かう方がいいだろう。
二十二時過ぎに俺たちみたいな高校生がほっつきあるっていると補導されてしまうから、さっさと済ませたい。
まず臨の家に寄った後、僕の家に寄り着替えてリモを回収して、自転
あやかしのなく夜に 32話
32話 作戦会議 翌日。十一月二日火曜日の朝がきた。
明日は祝日だから、山に行くなら今夜か明日だろうか。
ベッドの上でまだ眠っているリモを起こし、僕は言った。
「リモ、今夜か明日、お前にも手伝ってもらうから」
ベッドの上にちょこん、と座り大きな欠伸をしたリモは、じーっと僕を見つめた後頷いた。
「わかりました! 日和ちゃんを助ける為なら僕は頑張ります!」
と言い、ガッツポーズをして見せた。
あやかしのなく夜に 31話
31話 野狐
大学の隣にある「総合科学研究所」は、素質あり、と認められた子供が集められ異能力について研究する施設だ。
僕はその施設に六歳くらいの頃から通っていて、そこで臨と知り合った。
素質、の意味は正直よくわからないけれど、強い能力とか変わった異能を持つ人間が集められるらしい。
研究所は国立の施設で、所長クラスになると政治的な影響もあると言う。
能力者の中にはそれこそショッピングモール
あやかしのなく夜に 30話
30話 理由 「日和ちゃんと最後に会ったのっていつですか?」
「六月だよ。彼女と会う日はいつも満月だった」
臨の問に初芝さんは即答する。
六月っていうと、五か月前か……
けっこう経つよな。
リモいわく、日和ちゃんはいつもご飯をくれる初芝さんに恩返ししたい、みたいなことを言っていたらしいし。
恩返しってなんだったんだろ?
「彼女と会ったのは三回で……その内二回は店で話をしただけなんだけど…
あやかしのなく夜に 29話
29話 カフェ いくら化け物に出会おうといくら危険な目に合おうと、日常はやってくる。
家に帰りリモを抱きしめ爆睡して、起きたらもう月曜日だった。
朝の七時。
僕はスマホの画面を見つめ深いため息をついた。
学校かぁ……行くのだりぃ……
でも親がサボらせてくれるわけがないので仕方なく俺は起き上がった。
リモが付いてきたがったけどさすがに狸を高校に連れて行くわけにはいかず、帰りに迎えに来て
あやかしのなく夜に 28話
28話 役割 僕たちが社を離れようとしたときだった。
ごぉっと大きな音を立てて風が吹いた。
「おおう」
腕の中でリモが驚きの声を上げる。
風は大きく枝を揺らし、がさがさと音を立てる。
あぁ……アァ……
その風の中に泣き声が混じっているような気がした。
リモも気が付いたようで、辺りを見回している。
「聞こえたか?」
「はい。泣いているように聞こえましたが……なんですかねぇ…
あやかしのなく夜に 27話
27話 それでも会いたい
僕はリモに再び尋ねた。
「なあリモ、あの日和ちゃんに憑りついているやつをどうにかする方法ってないの?」
「憑りつくってことはなにかしらの未練があるんじゃないかと! だから願いが叶えばきっと憑りついているやつは離れるんじゃないかなって思うんですけど」
化け物の願いってなんだよ……
この間会った幽霊は、腹をぶった切れ、だったしなあ……きっと想像の斜め上なんだろうなあ……
あやかしのなく夜に 26話
26話 彼女のこと 臨の手から電気が放たれ、それは化け物――日和ちゃんと思われるものに向かっていく。
化け物はひょい、と左に跳んでそれを避けるとその背中から黒い手が伸びていった。
「臨!」
その手の先端は尖っていて、もしあれで刺されたら……嫌な想像が僕の頭に浮かぶ。
黒い手は臨へとまっすぐに伸びていくが、臨はそれを後ろに跳んで避けた。
なんなんだあの化け物……黒いあの手は日和ちゃんに憑りつ