大正妖恋奇譚 42話
42話 闇が闇じゃない
目を閉じて、寝ようと努力するものの全然眠くならない。
今日はお出かけをして疲れているはずなのに。
何度も何度も寝返りを繰り返し、そして私は目を開ける。
外で虫が鳴いているのが聞こえるだけの静かな部屋だった。闇が部屋の中を支配しているはずなのに、なぜかどこになにがあるのかよく見えた。
昴さんは寝ているんだろうか。吐息はわずかに聞こえるけれど、起きてるかどうかまではわからない。
少し前までは一緒だと安心して眠れたのに、今は胸がドキドキして眠れない。
意識し過ぎよね。口付けだって、私が鬼にならない様にじゃないの。
私は、部屋の窓を見つめる。
外は暗くて何も見えないはずなのに……なんでだろう、外が明るく見える気がする。鬼、だからかな……だから夜なのに明るく見えるのかな。
私、このまま鬼になるのかな。そう思うと身体がふるえてしまう。
あの鬼が来ること、あるんだろうか?
私を迎えに来たりしないかな……
何もなく静かなのがとても怖かった。
私の父親で、昴さんの仇である鬼。
また私の前に現れたら……私はどうするだろう。
私、鬼なのに人として生きていいんだろうか。
あぁ、だめだな。静かな時間は余計なことを考えてしまう。
私はゆっくりと身体を起こして、窓の外を見つめる。
誰も来ない。来るはずはない。だけど鬼が現れるんじゃないかって妄想が頭から離れてくれない。
「眠れないの」
突然声が響き、私は驚き目を見開いて声がした方を見た。
床に敷かれた布団に眠る昴さんと視線が合う。
暗いけど、なぜだか昴さんの顔がよく見えた。
普段と違う視界に、自分が変わってしまっていることを思い知らされてしまう。
鬼って、こんなふうに夜でも明るく見えるのかな……
やだ、こんな力いらないのに……私は人として生きたいのに。
そう思うと涙が頬を伝う。
「かなめ……?」
何でもない。
そう言いたいのに言葉がでてこない。
私は俯き、手の甲で涙を拭う。すると物音がして昴さんが起き上がったのがわかった。
でもだからといって私は顔をあげられずにいた。
どうしよう……私、昴さんの顔、見られない。
「……泣いてる……?」
怪訝そうな声に、私は頷くことも首を横に振ることもできなかった。
声を出したいのに涙が溢れて言葉にならない。
肩に手が触れて、驚き私は顔をあげた。すると、困惑する昴さんの顔が視界に映った。
「あ……」
暗いのに、昴さんの表情がよくわかる。その事がまた悲しくて涙が溢れ出す。
ああ、私、人じゃないんだなぁ……このまま鬼になるのかな……
そうしたら私は昴さんに殺されるのかな……
それでもいいか。
私は誰も殺したくないし、昴さんを殺したくないから。
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